再会(2)
アズユールとの再会は、すぐに叶った。
改めてハガネ師匠から借りた城下町の一軒家を、彼女の方から訪ねて来てくれたのだ。
「ツェトラ、久しぶりだね。元気にしていたみたいで嬉しいよ」
「はい、アズユール。会いに来てくれてありがとう。あの時の目的は無事に果たせましたか」
「ああ。グレイダーの驚いた顔ったらなかったよ。君にも見せたかったな」
くすくすと愉快そうに笑って、ハーブティーに口をつけた。
魔の血脈にわずかでも連なる者は、最も美しく、最も強い力を手にした瞬間から、少しも老いることなく生きる。
この特異な現象を『覚醒』と呼びならわすのは、ツェトラの知る限り、どこの世界でも同じである。
別れていた間に『覚醒』を迎えたのか、蜥蜴人族の姫君の美貌は輝きを増して見える。
空色の髪が少し短いのは妖魔族の職人の強い勧めでカットして伸びている最中らしい。
高等な魔法を(短期間だが)修練したために腕力よりも魔力が強くなり、全体に魔法文字を彫った専用の眼鏡をかけるようになったそうな。
「ちなみにですが、外すと?」
「我が家の文書の記述通りなら、10秒ほど見つめるだけで相手が麻痺する。20秒で魔法封じ、30秒なら気絶──正直ちょっと嫌だけどしょうがない。これは蜥蜴人族の血も関係するらしいから。他の種族にない長所だと思って使いこなせと教師に言われて、今はそうしている」
「そうなのですか……」
「職業選びでは【魔法剣士】にしたが、前衛職よりも魔導師や盗賊の方が向いてるのかもしれんな、本当は」
「蜥蜴人族の【戦士】や【闘士】をよく見かけますが」
「私らは基本、身体や腕力が強いからな。毒は2種類くらいしか効かんし魔法にもかかりにくい。純銀のアクセサリでも奮発して買っときゃ、ぶっちゃけ武具はテキトーでも構わん」
「なるほど……」
「ときに、覚醒した魔族を見るのは初めてか」
「そうでもないですが、何度見ても……やはり美しいなと」
「まあな。見て慣れるようなもんじゃないさ。私も妖魔族の学校で過ごす間は目やら精神を持って行かれないようにする方が大変だった」
「そんなにすごいんですか?」
「そりゃあもう美形だらけさ。ある種の人々からしたら楽園だろうが……下手するとずっとあの森から出られなくなるくらいには強烈な日々だった」
「入学しなくてよかった」
ツェトラもハーブティーを喫して、ほっと息をつく。
もし自分だったら心や愛情がいくつあっても足りなくなりそうだ──まあ、今だってそうじゃないかと言われれば、黙り込むしかない訳なんだけれども。
「そうだな。ヴェンツェル公爵は外貨を求める手段を考え直すべきだよ」
「あはは……写真集を売ったり、映画を作ったりですかね」
「共同で提案してみるか」
「いいですね、進めてみましょう」
「了解。……で、件の学校から教材などを買い取って持ち帰ったんだ。私が使った物だし報酬になるかどうか分からんが、ノート類と合わせてツェトラにあげよう」
アズユールがすぐにアイテムボックスを開き、教科書やらノートの類をごっそり持ち出した。
妖魔族の学校は学科や教科を細分化して教えるようで、教科書や他の教材やノート・メモ類をあわせるとかなりの数になる。
「いいんですか!? それこそ資産になるのでは」
「大きく投資してもらっておいて何も返さぬのでは、私の気がすまんよ。小隊の前衛は足りているようだし」
「ありがとう……大事にします」
当座の報酬がわりだとしても、記録した内容や愛用の品を気安く譲れると言うことは……。
アズユールが、学んだ内容をすべて自分のものに出来ていると言うことだ。
『向学』の"星"があるとはいえ、やはり彼女の能力には脱帽せざるを得ないツェトラである。
「君たちもハガネ師のもとで鍛錬しているんだったな」
「はい、別の師匠に他のギルドとの勝負を課されまして。相手がこちらの都合に合わせてくれるのが唯一の救いですね」
「それはどうだろうな? 君たちが時間を惜しまず鍛錬すると言うことは、よっぽどの怠け者だか面倒臭がりでもない限りは、向こうもそうしてるってことだぞ」
「……あ。」
2022/1/24更新。




