小隊の変遷と報酬(3)
ビシュラの療養を助けながら、ゆっくりと帝都へ向かう飛行戦艦で何やかんやと過ごしているうちに、いつの間にやら2日が経った。
ツェトラが今朝の訓練を終え、エメと共に飛行戦艦の居住区の展望台で景色を眺めながらくつろいでいると、小さな靴音が階段の下から聞こえて来た。
2人分だ。ひとりはビシュラ、そしてもう一人は……。
「やっと見つけました。こちらに来ておいででしたか」
「スウィ様!?」
そんなに驚かなくても……と美貌を曇らせるのは、先帝陛下の正室であった女性──スウィだ。
幼い頃に『青の地』の名家から来たそうで、正確に呼ぶなら『スィー・リェン』とせねばならぬところを、マクスウェルが勝手に発音しやすい形で呼んでいたのが愛称として定着してしまったらしい。
一昨日の夜に突然に現れ、あれこれとビシュラの世話を焼き、ツェトラ達もすぐに打ち解けて親しく話した。
ツェトラは彼女の本音──マクスウェルとの間に子ができなかったのは今でもとても残念だが、少しも彼を恨んだりしていないこと──を聞き出す事ができた。
すぐに魔法の手紙を書き送り、先帝の依頼を果たし終えたばかりである。
「これからすぐ出立しますので、皆様にごあいさつをと」
仲間たちは今、飛行戦艦のあちこちで鍛錬や休息に浸っている。彼女に自ら探し回らせることになってしまったのを、ツェトラが丁寧に詫びる。
スィー・リェンは「楽しかったから気にしないで欲しい」というようなことを述べ、すぐに話題を切り替えた。
「それで、ビシュラのことなのですが……できるならば、是非ツェトラ殿の小隊に加えて頂きたいのです。引き続き親子として私と過ごすのも悪くない選択でしょうが、のんびりスローライフでは、この子には物足りなくなってしまうだろうと危ぶんでいるところでして」
「なるほど」
冒険者の小隊は4人以下でなくてはならない、などという決まりはどこにもない。
美貌の養母とスローライフ(大抵の場合スローにはならないが)を過ごすビシュラも見てみたい気はするが……。
彼女の戦士としての実力を目の当たりにしているツェトラとしては、養母の危惧の方が正しいと思わざるを得ない。
三度のメシより戦いを好む魔人族には、根本的にスローライフは合わないのである。
ツェトラは娘を愛し心配する優しい母親に浅く頷いて見せ、彼女の娘に問いかける。
「世界を見て回るのが目的のようなものですから、派手なイベントはあまりないかと思います。未踏の地での探索も、楽しい勝負事も……。旅をする意味がないと思わせてしまうかもしれない。それでもいいでしょうか?」
「はい。一度は剣を向けておいて勝手だと、自分でも思うのですが」
「それは大丈夫、わたしも依頼を受けていましたから」
ビシュラが安心したように、にっこりと微笑む。
決まりだ。毎度のことだが、話が早くて助かる。
スィー・リェンが喜びを爆発させ、弾かれるように動いた。
愛し子を力強く抱きしめ、「皆さんと仲良くね」と囁いて離れる。
怒りや恨みに囚われたままでは、魔法を用いて若くあったり、子に愛情を向けるどころか、心の底から笑うことすらできまい──過日の決闘を見て溜飲を下げてくれたと言うのも、どうやら本当らしい。
「これから、どうなさるのですか」
ツェトラは興味が命じるまま、物事のタイミングと展開によっては「お母さま」と呼ぶことになったかもしれない女性に問うてみた。
「南の島に土地を持っています。家も完成していて、私の養子達が先に暮らしている……そこで存分に羽を伸ばそうと思います」
「遊びに行っても、いいでしょうか?」
「もちろん。歓迎しますよ」
「ありがとうございます。何かお手伝いできることがあれば、ぜひご用命を」
「頼りにさせてもらいます。此度の報酬ですが……申し訳ない、今は持っていません」
「わたしのアイテムボックスにお送りください」
「わかりました。それでは」
スィー・リェンが優雅に一礼し、颯爽と踵を返す。
ハイヒールの靴音を響かせて歩き出したのを、ビシュラが呼び止めた。「お母様……」
「愛しています、ずっと!」
それは、養女が養母に贈る餞別であり……ツェトラが母にどうしても伝えられない言葉である。
皇帝の妻だった心強き女が振り向かず足を止めた、その3秒間が、娘の愛情に対する答えであった。
2022/1/20更新。




