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エメローデ(1)

魔法都市国家の君主は即位が世界中の国で最も早いと言われるほど早く、退位も早い。

『灼土帝国』が建国120年余で4代の君主を輩出したのに比べ、ほぼ同時期に建国されたはずの『魔法都市マジック・ステート』ではすでに10人の国王・女王による統治が行われてきた。

平均すると1人の君主の在位はわずか10年あまりである。


「建国初期の国王達が無理を重ねたせいでしょうね。ヴァルトハウゼン家は魔法に関する"星"とともに莫大な魔力を持って生まれる魔導師ウィザードの家系ですが、力が枯渇してしまうのもとても速いのです。魔法を重んじる国の王が魔力を持たないとなると……困りますよね」


早く王位を継承して、国民臣民のために魔法を用いて限界まで働き、早く退位して、その後は悠々自適。

それが魔法都市の王族の姿勢スタイルなのだと、即位したばかりだというエメローデが実に流暢りゅうちょうに語ってくれる。


10人の君主たちの中には一般人のふりして冒険者になったり、世界各地の学校で教鞭を執ったりしている人もいるらしい。

それを聞いてすぐ、あんまり考えたくない可能性に気づいたツェトラが、何かに押されるように恐る恐る口を開いた。

「じゃ、じゃあ、ええと……も、もしかして……帝国の魔法学園とかにも……?」


「勤めていらっしゃるとしても不思議はありませんね。わたくしが会えば一発で分かりますけど」

「分かりたくないです、はい……」

「そうでしょうね。世界は広い、謎の人物の一人や二人もいなくては面白くないですよ」


ひとり冷や汗を掻くツェトラをからかうように言って微笑む女王陛下は、やはり、年齢の割にとても落ち着いている。

他人の心や考えを読み取る"星"を持っているわけではなさそうだから、おそらく代々の祖先の記憶や経験を引き継ぐ手法で莫大な知識を持ち、王族にふさわしい礼儀作法を心得ているのだろう。


客人の一人ひとりと時間をかけて話がしたいとのご希望に沿って、小隊の仲間は城内を散策中だ。

多少とも言いにくい考えだったが、ツェトラが推測を共有する相手がいるとすれば陛下ご自身だけであった。


「ええ、確かに。わたくしは祖先の記憶などを引き継いで即位しております」

「その……お嫌ではなかったのですか」

「国を率いることがですか? そうですねぇ……レイチェルを筆頭に、よき人材が集ってくれていますから──わたくしは、そのことをよく知っていましたから。楽しみだったと言えるほどではありませんが、少なくとも即位するのが嫌ではありませんでしたよ」


仕えてくれる皆に頼らなければ、自分にできることなど知れているのだ、と、嬢王陛下が本音らしきことを聞かせてくれた。

同じ師に教えをうている気安さと、久々だという休息時間を過ごしている開放感からなのか。エメローデ陛下は先ほどから、板に水を流すように流暢りゅうちょうに、しかも最大限の親しみをもって話をしてくださっている。


料理の材料にできる類の魔法鉱物を、魔法都市の領土の北側にある休火山の温泉水に溶かしたスパークリング飲料のカップに口をつけて、女王が浅く息をつく。

「わたくしがどれほどの気概を持って国務に臨もうとも──決済しないといけない書類が毎日どこから湧いて来るのかと思うほど上がってきたりとか、研究所で作られる新しい魔法の実験に必ず付き合わないといけなかったりとか、しますので。まったく疲れないなんて嘘を妹弟子に言うことは出来かねますがね……」


「ストレス解消ならお手伝いできるかと思いますが」

「大丈夫。毎日少しずつですが、好きな剣のお稽古をしたりレイチェルたちとお茶をしたりする時間はありますの。お気遣いありがとう、ツェトラ」


「いえ、そんな……」

などと言いつつ照れていると、陛下が急に気遣わしげに白皙はくせき美貌びぼうを曇らせた。


「ツェトラはどうですか? 愚痴くらいなら聞けますよ。何だか行く先々で無茶振りばっかりされてるんじゃないかと思えて心配なのです……今般の【忍者ニンジャ】探しにしてもそうでしょう?」

「あ、まぁその……愚痴と言うほどでもないんですが、有り体に申しますと、ちょっとだけ手伝っていただけると嬉しかったりしましてですね」


ツェトラは思う存分しどろもどろになりながら、改めて困難な任務について説明した。

2021/12/21更新。

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