エメローデ(2)
ツェトラは【忍者】捜索の任務を果たすための──正確に言えば、この任務に巧妙に作り出された間隙を自分なりに衝くための策を女王陛下に明かした。
ひとりの【忍者】を見つけて来るのではなく、相応の技量を持った数人の──いわば『準ニンジャ部隊』を作ってはどうかというものだ。
言うまでもなく自信なんかありゃしなかったが、エメローデは策の内容を否定せず、微笑んでくれた。
その表情と言動を肯定として受け取ったツェトラが、さっそく助言を女王陛下に求める。
「そうですわね。偶然にしても意図したことにしても、わが国を訪ねていらしたのは正解に近かったと思います。わが国では騎士団の試験を行う際に、あえて受験者の能力に階級をつける手法をとっておりますので」
ツェトラは"星"とか関係なく結構ツイてるのかもしれませんよ?
……なんて茶化して微笑み、女王が彼女の思惑を述べる。
「個人的には"スペリオール"だとか"エース"だとかって分類だけで他人を評価してしまうのは、ちょっと違うのかなぁなんて思ったりもするんですけど……あ、これオフレコでお願いしますね」
困ったような微笑みを浮かべて女王の曰く、かつて、わずかな期間だが『白き豹の血統』に在籍していた"S級"の【忍者】が騎士団に戦いの技を教えに来た時、戯れのように測って残した情報が城内の研究所に残っていたはずだとのこと。
「彼の情報をもとにすれば、何人のニンジャ部隊──仮の名を『影』と致しましょう──を創ればいいかのわかりやすい基準を作る事ができると思います」
「ありがとうございます、陛下。頼ってしまって申し訳ありませんでした」
「わたくしの方こそ、長いこと1人で話してしまったわ。ごめんなさい」
譲り合うかのように謝意を示す言葉を使い、2人して静かに笑う。
「もし、わたくしが冒険者であったならば……。何かが違っていたでしょうか?」
「何か、とは……?」
「たとえば旅先ですれ違うだけではなく、あなた達と共に旅をしたりできたのかな、と」
魔法の手紙も転移魔法もある。
冒険者と一国の君主がそうしていいならば、十二分に交流することはできるだろう。
だけど、エメローデが言いたいのは決してそんなことじゃないんだと思う。
「エメローデ様も、その……女の子がお好きなのですか?」
「はい。」
女王が息を吸い込む。
「好きですよ、女の子。記憶やなんかを血族とは言え他の一個の人格から自分の頭の中に引き継いじゃう訳ですから、心か身体のどっかに必ず歪んだ部分が出て来るってのが我が王家の秘密であり常識なのでありますけれども……」
なんだかとーってもアブないんじゃないかと思うような事まで自白し始めたよこの人。
などと内心で焦りまくっていることを(もと王族の矜持に懸けて)おくびにも出さず、「陛下の場合、その歪みとは」と問いかける。
吐き出したい事物を腹の底に貯めておかねばならない場合と言うのが、誰しもあるものなのだ。
陛下は【忍者】の件について真剣に考えてくださったのだから、返礼は彼女の本音を聞く役に徹することに他なるまい。
「近衛騎士! 世話係! 側近の魔導師! 腹心の親友も! わたくしの傍に侍るのは幼い女の子ばかりなのだと言えば、もうお判りでしょう。わたくしはね、今のわたくしと同じくらいの歳の頃の女の子が大好きなの! あなただったら絶対に否定しないと分かっていて自白いたします、分かってくれると恃んで打ち明けるのです! どうか、わたくしのっ……! ああぁ、……ごめんなさい……返事は、いらないわ」
彼女なりの葛藤があったのだと思う。
幼く見える御身の裡にも、ある種の狂気があるのだと思う。
もしかしたら魔法の研究や内政よりも(そっちは人を適切に配置すれば何とかなる)、王位を得て好き勝手に女色趣味に走ることだってできるようになったご自身の欲望との戦いの方が、エメローデ陛下にとっては遥かに苦しいのかもしれない。
ツェトラの心にあるのは、決して彼女への同情などではない。
ではないが。
エメと呼びかけて、視線を合わせて、ただ見つめるくらいのことは……できなければ。
2021/12/22更新。




