さあ忍者を探そう!(2)
『女王陛下に許しを得た幸福な者』であるツェトラ一行は、繁華街で飲食と買い物を楽しみ、首都の東側の民宿街のひとつに宿をとった。
山岳地帯に住まう巨大な鳥から採取した羽毛の寝具にくるまれば、一足も二足も早い、北国の秋の夜を暖かく乗り切る事ができた。
翌朝、買ったばかりのローブに袖を通すと、広い風呂まで快く貸してくれたヴィルヌーヴ子爵婦人にお礼を伝えて、彼女が所有するおしゃれな屋敷を出た。
首都の東側に広がる民宿街の入り口付近にある厩舎から馬を引き取ると、街の中央を貫くひときわ大きな街路をひたすら北へと進む。
小隊の皆と歓談しながら馬を進めることしばし。
白亜の王城が、ツェトラの前に姿を現した。
美しい砂利が隙間なく敷き詰められた道を歩んで、大きな城門の前の衛兵に丁寧にあいさつする。
陛下から話を通してくださっているようで、厳めしい顔をした中年の兵士も、若い丸顔の兵士も、実に温和に対応してくれた。
城門が音も立てず開く間に、愛馬を兵士たちに任せた。
庭園をゆっくり歩いてお城の玄関ロビーにたどり着く頃には、高揚していた気分もどうにか落ち着いていた。
やたらとはしゃぎ過ぎるのもどうかと思ったので自重してきたが、実はツェトラは女王陛下が謁見をお許し下さった時から、彼女と会えるのが楽しみだったんである。
何たって、エメローデ陛下はツェトラと同じ12歳なのだ。
国を統治する役割を最初から求めなかった自分と違い、王位継承者の責務としっかり向き合って頑張っておられる『小女王』のお話を伺える時間は、どれほど刺激的だろう!
「きれいなお城ですね、ツェトラさま」
「うん!」
「将来のお屋敷の参考にしましょうよ」とメイドに誘われて、案内係が来るまでの間に吹き抜けの玄関ロビーから上を見上げる。
代々の都市国家の主たちが縦横無尽なまでの増改築を繰り返して出来上がった王城の複雑な内部がよく見えた。
内装は5階建てだ。
ロビーの両端に据えられた長く高い螺旋階段が各階層を、玄関ロビーをぐるりと囲んだ長方形の廊下がずらりと並んだいくつもの小部屋を美しくつなぎ合わせている。
城内に衛兵や騎士たち、宮廷魔導師や使用人までを住まわせる方式を採用しているらしい。
(作者の語彙不足で分かりづらいが)要するに城の階上は、キョウコ師匠に見せてもらった異世界の『アパートメント』みたいな構造だ。
将来のためにと思って観察はするが、これほど大きな屋敷も、大人数の使用人たちも──多分、自分や自分と共に住みたがってくれる人は必要としないだろうとツェトラは思う。
物質的な豊かさと心の豊かさ、双方のバランスのとれた生活をしてみたいのだ。
内装の観察を手早く終えて、また小隊で雑談に花を咲かせていると、女王陛下の警護を担当する近衛騎士団の制服に身を包んだ女性が速足で近づいて来た。
「お待たせして申し訳ありません」と一礼したのに気にしないよう伝えると、彼女は安心したかのような笑みを丸っこく可愛らしい顔に咲かせた。
「レイチェル=ウルヴァナーダであります。女王陛下がお待ちです、参りましょう」
丁寧にエスコートしてくれる女性騎士に従い、5本に別れて伸びる廊下のど真ん中を進む。
クリーム色に塗装された廊下の壁にはガラスケースが埋め込んであり、その中では様々な種類の植物が花を咲かせている。
代々の国主のコレクションで、未だに増え続けているとかの軽い説明を受けながら歩き、やがて大きな扉の前で足を止めた。
城内の正装である純白のローブを確認し終えると、柔らかく微笑んだ近衛騎士が扉の前に進み、うやうやしく引き開けた。
「陛下の久々の御休息でもあります、どうかご遠慮なくお過ごしください」
近衛騎士に見送られて広い部屋を進み、玉座の前まで来てひざを折る。
「本日はお招きにあずかり光栄です、女王陛下」
「ようこそ、いらっしゃいませ。エメローデ=ヴァルトハウゼンと申します。お会いできてよかったわ……今般は呼びつけるような事をして申し訳ありません。アルト師より妹弟子に当たるツェトラ様がお困りと聞いて、何かお手伝いできればと思いましたの」
さあ、そんなに畏まっていないで!
悪戯っぽく微笑んで小さく声を張った女王は、重たそうな上着を脱いで投げ上げ(しゅぱっと消えた)、玉座からも降りてしまった。
どうやらこれは相当なお転婆だぞ──と、アルト以外の誰もが思った。
2021/12/20更新。
2021/12/21更新。




