思いがけない戦い(1)
「やっぱバレてるか」とばつが悪そうに笑って、カーティスがプラチナブロンドの短髪を軽く引っ掻く。
「いつも世話になりっぱなしで悪いとは思ってンだけどさぁ。この子たちと手合せしてやってくれないかい、ウォード?」
「やれやれ、またか。しょうがねぇなぁ──っつーわけだツェトラお嬢、よければ俺らと手合せしてみんか? コイツは後輩にちょっとでも素質があると思ったら、いつも俺ン所に連れて来るんだよ」
先ほどの完璧なまでに紳士的な態度はどこへやら、古くからの悪友に頼まれるまま、蜥蜴人族の公爵が椅子からゆっくりと立ち上がる。
ツェトラは仲間たちと目で打ち合わせ、公爵にしっかりと頷いて見せた。
「よーっし、決まりだ! 勇気ある若者に感謝するぜ!」
準備ができたら玄関ロビーの左の通路を通って訓練場に来るよう言い置いて、ウォードはなぜか嬉しそうに駆け出して行った。
昔の仲間や私兵団、領地に住む人々まで集めて派手な試合を行う準備のためだと、姉御が短く説明してくれた。
「なんだかんだ言って、いつでも戦ってたいんだよな。あいつらもさ」
「そうなの? ウォード様はとても温和な方に見えたんですけど」
「蜥蜴人族の──言ってみりゃあ魔族の本能みてぇなもんさ。いくつになっても、どんだけ強くなったり偉くなったりしても、勝負事となると途端に子供に戻っちまう」
人間族とは比べ物にならない身体能力や知力を誇るというのに、それでもなお危険なギャンブルやら勝負をふっかけてくる。
本気で戦い競う機会をどうしても失いたくない、と言わんばかり……なのだそうな。
「まあ新人の冒険者だとか何気にハーフ・エルフなあたしなんかが丁度いい相手だと思われちゃってるわけなんだけどねぇ」
そういう彼ら彼女らの性質を、少なくともカーティスは嫌いではないようだ。
車に戻って荷物を開き用意を整える間に話して、ツェトラも直感的に理解した。
用意を整えて装備品の調子を軽く確かめ、それも終えて再びウォードの館の内部へお邪魔する。
今度は左側の通路を選んでしばらく歩き、敷地に比べて明らかに大きな石造りの空間に出た。
魔法で空間を歪めて形作った訓練場だと解説したっきり、カーティスがその場にどっかりと腰を下ろしてしまう。
どうやら通例どおり、手合わせの間は一切手出しをしないつもりのようだ。
そのように軽く言われていたので、特に気にせず不可思議な建造物の中央まで歩み出る。
するとどうだ──この位置に来て初めて、建物を円形に取り囲んで騒ぐウォードの国の民たちの姿が眼に入り、彼らのあげる大きな歓声が聞こえ始めたではないか。
どういう仕組みなんだかまるっきり分からない。
無事に帰れたらアラルガンド師に尋ねてみることにして強制的に思考を終わらせて、ツェトラは、建物の反対側から悠々と歩いて来るウォードに対峙する。そしてこっそり話しかける。
「ええと、これって手合せなんですよね」
「いや」
「はい?」
「カーティスから聞いたと思うが、俺らの娯楽は戦いそのものでな。狩りだけじゃ味わえない興奮ってのがあるらしくてよ、こうして強引に場所と相手を定めてルールのある試合をするんだ。相手の実力とか勝負の大きさは関係ねぇ。俺らの国じゃ1対1のケンカでも必ずこんな感じにするワケ。ギャラもちゃんと払う、お嬢たちには悪いが付き合ってやってくれよな」
魔族の『国王』に頼まれれば悪い気はしない。
新人とそんなに変わらない実力の(少なくとも自身はそう思っている)自分たち小隊と真剣に戦ってくれようというのだから、熱心な誘いを無下に断る理由なんて世界中をひっくり返したって見つかりっこないんである。
すっかりちょい不良親父と化してしまったウォードに、ツェトラはできる限り自信を持って頷いて見せた。
少なくとも彼をすぐに失望させるような試合をするつもりはない。
「丁寧なご説明をいただきありがとうございます、ウォード公。納得いたしました──どうぞお手柔らかに、よろしくお願い致します」
「ありがてぇ、そう来なくちゃな! ルールはどうする?」
「でしたら……」
互いに最も得意とする戦法をぶつけ合うこととし、闘技場を兼ねた訓練場の左右にそれぞれ陣取った。
2021/11/3更新。




