帝都にて(3)
やたらとお腹がすいて、いつも食べ物が必要なことくらいしか、まだアルト=ブラッドと話をしていない。
彼女自身も友誼を交わしたばかりだと言うニアリングに尋ねても良かったが、「本人と話した方が面白いでしょうから」と言われては、ツェトラもエメリットもそれを楽しみにしておくしかない。
むしろ盛り上がったのは、やはりニア自身や"星"についての話だ。
若き女性騎士は矛や槍を扱うにかけて騎士団でも指折りだと評価されていたという。
それは槍技の"星"を持って生まれたことに安心せず、地道な努力と研鑽を積んだ結果、ニアリングが手に入れるべくして手に入れたものだろう。
謙遜しまくるニアをやたらと褒めず(キリがなくなってしまう)、彼女が弛まぬ努力を積み重ねて来れた理由を、エメリットが丁寧に尋ねた。
「偏に、技と身と心を捧げたい君主がいらっしゃったからだと思います。あの方のお傍でこそ、祖父から継いだ"星"を輝かせる事ができると……そうせねばならないと思えたからです」
「どっちの一目惚れだったんですか?」
「陛下がそう仰いました。実は私もなのですが、まだ気づいていらっしゃらないご様子で」
くすんだ緑色の瞳をキラキラ輝かせちゃったりなんかしているエメリットの静かな勢いに押されたかのように、ニアが言う。
魔力の炎で熱しているのかと思うほど顔を真っ赤にしていることは、今さら言うまでもない。
騎士団の制服を模したシンプルな私服も、背中の辺りまで長く伸ばして後ろでひとつ結びにした髪も、人前に出る時の薄化粧もその仕方も、すべてヴィルジーナ陛下の好みに合わせているらしい。
そうするのが全く苦にならないと穏やかに断言するあたり、幼い頃から育て続けて来たと言う2人の愛情と結びつきは余人の立ち入る隙も無いほどなのだ。
ヴィルジーナ陛下はどう考えていらっしゃるのだろうか、と思わないではない。
もしも、自分とお母さまも皇帝一族の一員であったならば。
嫡子としてマクスウェルお父様とリムルお母さまのお傍にあり、幼い頃から3姉妹と親しくできていたなら──愛情やその表し方についての話を、お姉様方から聞くこともできただろうか、と思わなくはない。
あり得ない、選べなかった"もしも"にツェトラが想いを馳せていたわずかな間にも、ご機嫌なエメが趣味の話や好きな食べ物やニアの普段の暮らしぶりについても尋ね、次々と回答を得て行く。
メイドの明るい声を聴きながら、自分はエメとどこまで深く愛情をはぐくむことができるだろうか……と、ツェトラも考える。
できるなら、堂々と愛し続けても彼女に呆れられない人間になりたい。
特別な魔法の力を借りて、ずっと共に生きたいと思ってもらえるような人間でありたい。
その為にこそ心を鍛えよう、身体を動かそう。
『天運』の所有者たるヴィルジーナ陛下には及ばなくても、自分から新しい出会いを求めて行動を起こそう。
ウェンドリン陛下のような『不老』にふさわしい美しさまでは得る事ができなくても、自分自身を大切にしよう。
ウィシュメリア陛下が使いこなしておられる『読心』という異能を持たないならば、そのぶん他人の心を思いやろう。自分の存在が誰かのためになるよう、ない頭を絞って考えよう。
ツェトラは、さすがに話し疲れたらしいエメが浅く息をついてお茶を飲むのを見計らって、迷わずニアリングに武術の指導を願った。
「私がツェトラ様に?」
「はい。槍と剣との違いがあることは承知していますが、あなたから教わりたいのです。もちろん指導料は別に支払います、騎士団を驚かせた技量を少しだけ、わたしに分け与えて欲しい。それと、できれば呼び捨てにしてほしいのですが……ダメでしょうか?」
「わかりました、ツェトラ。私の愛するヴィルジーナ陛下が大切に想われているあなたのお求めに、どうして私が応えずにおきましょうか。一緒に頑張りましょうね」
末の姉上と同じ歳の"お姉さん"であるニアリングが微笑むと、何だかヴィルジーナが微笑みかけてくれた時と同じような感覚になってしまう。
今さらながら照れてしまい、うつむいて茶を喫する。
その動作がエメリットと妙に揃っていたらしく、見ていたニアが楽しそうに笑った。
2021/10/4更新。




