戦闘勇者
アランと魔族の人がいなくなったので、戦闘は少しの間戦闘は私とエルフの子でやらなくてはならなくなった。
おかしいわ。女性に重労働を任せるなんて。
賢者が変身したらしい黒い塊は、冷静であれば対処できないほどではないようだった。
それよりも、一つ問題がある。
「勇者! 貴様動きが甘いぞ!」
「喧しいわねちびっ子!」
最初は頼もしくも思えたエルフの子とは、だんだん息が合わなくなってきた。
というか、そもそも私はこの子が気に食わないのよ。アランが随分懐いているようだし。
そもそも、私は魔力を見る事ができないのだから魔術師ほどハッキリとあの塊を認識できていないのだ。
辺り一面に積もる黒い砂が巻き上がる事によって大まかに黙示する事はできるものの、それでも正確ではないのだろう。
その中での精一杯が今だ。これ以上をどれだけ求められてもできる気がしないし、むしろ褒められるべきだろうとすら思う。
「貴女こそ! 私がいなかったら危ないんじゃないの!」
「むしろ貴様が邪魔なんじゃ!」
この子ホントどうにかならないのかしら!?
正直言えば、冷静なら対処できるというのは二人掛かりであればの話だ。私一人でとなると、少し荷が勝ちすぎる。
協力は不可欠なのだ。
「アランは何をしてるのよ! さっきからサボってるわ!」
「私の弟子を悪く言うな! 貴様から相手をしても良いのだぞ!」
“私の”ですって!?
よくもまあ私の前でそんな口が聞けたわ!
「アランは今私の夫なんですからね! 偉そうな口はやめて頂戴!」
「な、な、なんじゃと!? 聞いておらんぞそんな事!!」
「言ってないからね!」
これだけ息が合わなくても対応できるのは、一重に塊の動きが鈍っているからだ。
どうにも、アランと魔族の人が消えた瞬間から鈍重に思える。
いや、探しているのだろうか。
自分を初めに傷つけた相手を。つまりはアランを。
もしかしたら、賢者の頃の記憶も関係しているかもしれない。
「奴の足を止めろ!」
「……! 分かったわよ!」
一々指示をしてくる。
私は貴女の弟子じゃないっての。
別にいいけれどね。
私は足元(というのが正しいのか分からないが)を狙って攻撃を繰り出す。流動体のように見えるこの塊にどれほどの効果があるかは分からないが、少なくとも動きを阻む事はできるようだ。
【魔法:ボルトフラッシュ】
「はぁ!?」
エルフの子が使ったのは、威力は低いがより広範囲に電気をばら撒く魔法だ。
これによって、浅く広くのダメージを受けた塊は大きく動きを阻害された。
つまり、これも足止めである。
「私が足を止めてるのになんで貴女まで足止めなのよ!?」
「見ておれ! 私の方がアランの考えを理解しておる証拠を見せてやるわ!」
「…………っ!!」
メチャメチャ対抗心燃やしてくるじゃないの!!
これで上手くいかなかったらどう責任取るのよ!
【忍法:暗狩焔】
「ハッハー! とどめは任せろ!」
……まあ、上手くいく事もあるでしょうよ。
何もない中空から、アランが現れる。
炎の球を無数に引き連れ塊の頭上から落下し、完全に不意を打った攻撃は一つ残らずに塊を捉える。
今までで一番大きなダメージ。まさしく、とどめを宣言するに相応しい。
——そう、思ったのだが。
「————ッ!!」
塊の形が変わり、まるで太い触手のような突起が出来上がる。
それは、しなやかな軌道をもち、今だ頭上にいるアランを打ちつけたのだ。
「ぐぅっ!?」
呻き声が、こちらにまで聞こえた。
アランは身を翻す事も防ぐ事も踏ん張る事もできずに、後方の建物へと激突する。建物は崩れ、アランはその瓦礫に埋れてしまった。
魔力の塊が行う物理干渉。
こんなもの、魔法をおいて他にない。
ただでさえ厄介なものであるというのに、なんと魔法まで使い始めたのだ。
他に類を見ない現象でありながら、未だ発展途上。このまま放っておけば、なるほど魔王と言うに相応しい力をつけるのかもしれない。
「アランっ!」
「アラン……!」
私とエルフの子の声が重なる。
しかし、これは心配をしたからではない。
「——ゆけ!!」
「……今よ!」
アランが、考えもなくあんな姿の現し方をするはずがない。
アレでは現れる意味がないし、事実打ち付けられたように狙いの的だ。
つまり、アランは——
【忍法:火影宝師】
塊の懐から、アランが姿を現す。
つい今し方と同じように、炎を伴って。
その炎が一手に殺到したかと思うと、アランは右腕を振りかぶる。
【忍法:火落影牙狼王】
元来であれば効果が薄いはずのそれは、炎の補助を受けて全く異なる性質を発揮する。
アランの拳に後押しされた炎は散り、押し込まれ、塊の一切を蹂躙した。
これが、アラン最大の一撃。
塊は、もはや形を保つ事ができずに崩れて落ちた。




