救出忍者 其の二
こう言ってはなんだが、意外だった。
師匠と違ってクラークは魔王を裏切ったわけではないし、むしろ裏切り者である師匠を警戒していたはずだ。
そこに魔王の復活などという事実を掲げられて、まさか裏切らないなんて。
「何故だ!? 魔族である貴様が! 何故魔王様の復活を望まない!?」
「っせぇな。んなもんテメェに関係ねえだろうが」
グレゴリーも動揺している。
当然だ。つい今までは、僕が用意した隠し球をまんまと利用できる状況下にあったのだから。
その目論見があえなく潰れ、慌てふためいてしまっている。
「魔王様の復活に手を貸したとあれば、お前の待遇は約束されるのだぞ!? この私に次ぐ功労者だ! 栄光をみすみす手放す意味がどこにある!?」
「……人類滅亡させた後の世界で、オレは副王様になるってわけかい」
「その通りだ!」
「お断りだって言ってんだよ!!」
……なるほど、わかった。
断るわけだ。
魔王の目的は、魔族の支配。
この世界の全てを掌中におさめようとしている。
そして、魔王が治る世界に人間はいない。絶滅させられてしまうのだから。
クラークは、それを嫌っているのだ。
シェイプシフタとして漁師クラークの肉体に擬態している彼は、その特性に従ってクラークと真逆の行動を取らなくてはならない。
酒浸りになり、妻に暴力を振るう男の真逆。
すなわち、彼は心から妻を愛しているのだ。
誤算だ。嬉しい誤算。
僕達が人間の味方である以上、クラークが寝返る事はない。
特に、グレゴリーがその理由を知らないのならば尚更。
「そうか、なるほど、貴様も裏切るというのだな! 魔王様を!」
「勇者裏切って魔王様信者になった奴がよく言うぜ!」
「それな。僕もずっと言いたかった」
「だいたい、魔王様はもう死んでるだろうがよ! 裏切るも何もないぜ! お前が生き返らせなきゃな!」
「なるほど、確かにその通りだな」
「魔王様は再臨なさる! これは決定だ!」
「オレ達が止めるって言ってんだよ!」
「そうだそうだ」
「……お前さっからなんなんだよ!?」
「え……?」
なんなんだよってなんだろう?
何がだろう?
うわ、グレゴリーもこっち見てる。
何かおかしかったかな?
「え、じゃねえよ! なんなんだよその相槌はよ! 調子狂うぜ!」
「いやぁ、僕の言いたい事全部言ってくれるから言う事なくなっちゃったなって思って……」
「じゃあ黙れ!?」
「いやだって、そこは僕も喋りたいし……」
「知らねえよお前のわがままなんて!!」
ひどいなあ、そこまで言う事ないのに。
「……仲間割れですかな? こちらとしては都合がいい。しかし、そんな余裕がありますかな?」
「うるせえ! ちょっと黙ってろ!!」
「…………」
うっわ、酷えや。
グレゴリー黙っちゃったぜ。
ただ、ちょっと上から目線でウザい話し方だったもんな。
口を開けたままかたまる様子は滑稽でいい気味だ。
「き、貴様らいい加減にしろ! ここからは私も本気を出しますぞ!! これ以上魔王様をお待たせするわけにはいきませんからな!!」
「とうとうキレちゃった」
「テメエのせいだぞ」
「僕!?」
「当たり前だ。だが、むしろよく堪えていたとすら思うな。正直もっと早くブチギレると思ってたぜ」
え、なんで僕なのさ。
煽ってたのはクラークなのに。
そんな会話をしている短い時間にも、グレゴリーの魔力は肥大化している。
先ほどまでは手を抜いていたが、今度こそ本当に本気というわけだ。
身体能力強化しかしていなかったつい今までとは違う。
生身で食らえば命を落としかねない攻撃が、無尽蔵に放たれ続けるだろう。
それはすなわち、グレゴリーの屋敷で負けた時の再来だ。
あの時は、フローレスがいなくては死んでいた事だろう。
——しかし、あの時と今は違う。
「まったく、舐められたもんだな」
「本当さ。いつまでも僕達を圧倒できるものと思っているんだからね」
「? 何を……」
何を言っているのか。
グレゴリーがその言葉を言う前に、異変が起きた。
中央広場から見える貴族街の中でも、最も大きな建物。
国内はおろか世界中探してもそうそう見ないほど立派な大屋敷が、音を立てて崩れ落ちのだ。
それはここから距離のある場所での出来事ではあるものの、無視するわけにはいかない大事なのだった。
今まで単なる背景としか認識していなかったものが、にわかに関わりを持つ事となる。
あるいはこの場の勝敗を決するほどの影響を及ぼす事すらあり得るのだ。
「な、何ィ!?」
驚くのも無理はない。
その建物は、多くの貴族に言わせれば賢者邸。
そして、グレゴリー本人から言うのであれば、この処刑の要ともいえるものなのだから。
【忍法:暗狩焔】
「く……っ!?」
グレゴリーは、飛来する炎弾を紙一重で避ける。
不意を打ったつもりだったが、さすがに一筋縄ではいかないか。
しかし、ここから僕が遅れを取る事はもうないと言える。
なにせ魔法が使えるようになったのだから。




