救出忍者 其の三
屋敷での一戦。あの時、不自然に思っていた。
そもそも、僕達を魔核のある部屋に入れた事自体が不自然だ。
僕は逆転のためにあの魔核に触れようとして反撃を受けたわけだが、そんなに重要な物ならわざわざ見せびらかす必要はないはずだ。
もっと別の部屋で、あるいは屋敷とは別の安全な場所で僕達を無力化したほうが良かったはずなのだ。
しかし、グレゴリーはわざわざあの部屋に通した。
ここには、何かの必然性があるに違いない。
そして、現在。
どうやら僕の予想は当たっていた。
今、魔法とスキルが使えているという事は、その正しさが証明されたという事だ。
つまり、あの部屋にある魔核こそが魔王の能力の源。
あたかもグレゴリーの胸にある方が魔王の領域を張っているような口振りだったが、それ自体が偽りであったのだ。
「……くっ! 貴様ら!」
「おおう、なかなか怒るじゃん」
「ったりめえだろ、家が吹っ飛んだんだぜ? その上、これからぶちのめされるってんだからよ」
煽る、煽る。青筋を立てたグレゴリーに対し、それを更に煽りたおす。
冷静さを失ってくれればそれだけ、付け込める隙が生まれるからだ。
「一体、どうやって……!?」
未だに事実を認識できず、グレゴリーは混乱している。
しかし、それも仕方がないだろう。多くの場合では、グレゴリーの首尾は盤石と言えた。
しかし、それは今この時のみザルと言わざるを得ない。
グレゴリーの屋敷は、あの洗脳を受けたメイドが守っていると予想されたが、そんなのが何人いてもモノの数ではない。
そう、なにせ、この仕事を受け持っているのはフローレスなのだから。
かつて、魔王の能力を破ったたった一人。
この世の英雄。
唯一の救世主。
勇者の力を継ぐフローレス・ハミルトンをもってすれば、全ての障害はなきに等しい。
魔法とスキルを防ぐ恐ろしい能力も、勇者の前には無力だ。
それ故に魔王は倒れ、世界は救われたのだから。
そう、魔王の領域下にあって、フローレスのみは自由にスキルを使えるのだ。
そうなれば、グレゴリーがどんな小細工であの魔核を守っていようと関係がない。
あるいは、グレゴリー本人がいようともそれは変わらなかったろう。
僕達の全ては、このための時間稼ぎだった。
途中でグレゴリーから「時間稼ぎだ」と言われた時は肝を冷やしたが、どうやら全く気がついていないようだったので安心した。
「で、本当にいいんだよな?」
クラークが問い掛ける。僕にだ。
「そうだね、全く問題なし。こいつは僕がやる」
「なんだと……?」
グレゴリーの怒りが、もう一段階上がったのを感じた。
侮られていると思ったのだろう。
しかし、それは誤りだ。
クラークには、もう一つ役目があるのだ。
それをわざわざ伝えてやるつもりなどないが、無意味に遠ざけたわけではない。
……いや、それは言い訳だろう。
本当は、僕が倒したかったのだ。
師匠を捕らえるためなんかに、僕の事をダシに使ったコイツを。
魔王を生き返らせるためなんかに、師匠を殺すつもりだったコイツを。
僕は、僕の手で倒したい。
そして、それは、決して不可能な事ではないように思えた。
「この私に、勝てるとお思いですかな?」
「勝てるさ。勝つさ」
僕の反応は、どうやらひどく腹立たしかったらしい。
こめかみに浮かぶ青筋が、より一層深くなったように思われる。
だが、侮っているのがどちらなのか、すぐにわかる事になる。
「やってやる……! 後悔は死んでからする事ですな!」
【魔法:————】
空気が、爆ぜる。
「……っ!」
屋敷での戦いで、僕が爆破された魔法だ。
あの時は不意を打たれた事もあって直撃したが、しかし今度は確かに見えた。
一見して不可視の攻撃だが、そこには確かに魔力があるのだ。
注意していれば、避けられないようなモノではない。
【遁法:彼狩飛】
「クソ……っ!!」
自らで炎を撒き、その内に身を隠す。
姿と足音をスキルによって無くし、その上で炎に行動を阻害する。
あの勇者フローレス・ハミルトンすら打ち破った力である。
次に姿を表す時が、グレゴリーの最後だ。
僕はそう定め、そのつもりで身を潜めた。




