救出忍者 其の一
魔王の能力で無効化できないものがある事は、すぐに分かった。
身体能力が封じられたりしないように、手先の器用さが失われたりしないように、恐らくこの能力は、魔法とスキルにしか作用しないのだ。
例えば人間の器用さ、例えばエルフの柔軟さ、例えばドワーフの力強さ、例えば獣人の俊敏さ。
それに加え、鳥人の翼や魚人の鱗。
その種族が元来持つ能力までは、魔王の支配圏にあっても影響はない。
そして、僕には元来の能力として肉体を変化させる種族の仲間がいる。
……いや、仲間と言うと語弊があるか。
なんか成り行きで一緒にいただけだし。
「……なるほど、そういう事か」
初めは状況を理解できなかったらしいグレゴリーも、ようやくその事態に追い付いたらしい。
「そういう事? 一体どういう事だい?」
「さぁなぁ? 俺には皆目見当もつかんね」
「戯れるな。シェイプシフタだろう」
やはり、鋭い。
まず、初めに現れた処刑人が僕ではない事は明らかだ。
その時僕は、邢台にほど近い群衆の中に紛れていたのだ。
そして、僕に化けたクラークが師匠を連れて降りてくる。
混乱する群衆に紛れて僕は師匠に外套を被せ、クラークは僕から師匠に姿を変える。
こうして、師匠を逃しながら、グレゴリーの不意を打つ事に成功したのだ。
だが、それで油断できるような相手ではない。
事実、腕と頬の切れ込みは、既に治りかけている。
思ったよりも、回復が早い。
ここまでやって、僕達の策は未だ半ばなのだ。
ここから先の役目は、余裕を見せる事、体力を温存する事、笑ってやる事、できるだけ敵を減らす事。
周りには未だ面倒な兵士が控えている以上、この内の半分は達成できそうもない。
「前は僕が」
「よっしゃ秒殺ぅ」
「殺しちゃダメだよ……」
前、すなわちグレゴリーは僕が受け持つ。
これに勝機があるわけでなく、むしろ勝つのは現状不可能だろうとすら思える。
ただ、後ろ、すなわち兵士達の相手はクラークに任せたい。彼らはスキルが使えないので、魔族であるクラークの身体能力に打ち勝つ術がないだろうからだ。
いくら諜報が本領といえど、やはり魔族特有の強みというものが存在する。
「見え見えの時間稼ぎですな」
「……っ!?」
「気が付かないはずがないでしょう。しかし無意味だ。兵士達を倒せば、私に勝てるとでも?」
「……さぁ、どうだろうね」
わざとだ。
グレゴリーは、本気を出していない。
僕がどうにか時間を稼ごうとするのに、あえて乗っている。
攻撃をしてこない。反撃をしてこない。むしろ、距離を取って様子を見ようとしている。
僕とクラークの二人掛かりでなお、どうせ倒す事はできないのだという自信の現れだ。
腹立たしいが、それが一番望ましい。
「おい、そっちはもう終わっちまったか?」
「それ嫌味だろ……! いいから手伝え!」
「しゃあねぇなあ」
秒殺と言った通り、まさしく瞬く間だった。
兵士は全員周りに倒れており、起き上がってくる様子はない。
「殺してないよな……?」
「一人もな。当然だ」
ここからは、2人での戦闘になる。
さて果たして、どうなる——
「何故魔族が! 私の邪魔をする!」
「は? なんだよ魔族が関係あんのか?」
——なんだ? 何を言うんだ?
「魔族であるならば、私の邪魔をする理由などないはずだ!」
「……どういう事だよ?」
……もしかして、これはまずい流れだろうか?
よく考えたら、僕はグレゴリーの目的を知らない。
勇者を裏切っておきながら、何を目的として賢者となっているのか。
命を取る事をせず、何故公衆の面前で処刑をしようとするのか。
全く知らない。
それ故に、恐ろしい。
ともすれば、策が頓挫する事もあり得る。
そして——
「私は、魔王様を復活させるために行動している!」
「……っ!!」
——想像する中で、ほとんど最悪の結果だ。
だが……
「関係ねえよ」
「何……?」
クラークの目にあるのは、底なしの決意。
その言葉が偽りでない事など、一目瞭然だった。




