表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/93

立案忍者

 僕が師匠の処刑に驚いたのには、理由がある。

 もちろん、それ自体が悲しかったというのもあるが、それだけではないのだ。


 まさか、殺されるなどとは思わなかった。


 殺すだけならば、屋敷でもできたはずだ。

 それをわざわざ加減して、弄ぶように戦っていた。

 確かに僕を爆破したりはしたけれど、それまでは完全に無傷だった。

 だから、殺すつもりはないのだろうと思っていたのだ。


 もしも処刑が目的ならば、あれほど優しくする必要はない。

 どれほど痛めつけようと、最終的に生きていればいいのだから。



「賢者の目的が分かれば、作戦も立てやすくなる」


「分かったわ。間者を用意しましょう」


「師匠を助けた後の逃走経路も用意しなくちゃ」


「任せて。何人か人員を割くわ」



 なんだコイツ頼もしいな!


 当人が強い事はもちろん知っていたが、しかし貴族の助力はこれほど頼もしいものか。

 当人だけでなく、それよって動かせる人員の方の利点が大きい。


 今までにも、こういった事はあった。

 僕だけではできない事、師匠と二人でもできない事。

 しかし、その時はやはり僕達だけでは解決しなかった。

 僕達よりもはるかに儚い程度の力しか持たない、とても頼れる者達の助けによって、僕はここまでやってこれたのだ。


 今、僕はそれを実感している。



「それよりも、貴方身体は大丈夫なの? ここ何日かはベッドから起きもしなかったじゃない」


「正直死にそう」


「今すぐ立て!」


「痛ぁい!」



 なんで蹴るの!?



「明後日って言ったでしょう! 万全でなくてはならないでしょう!」


「分かってるけど! 蹴る事ないだろ!?」


「いいえ、蹴るだけじゃ足りないわよ! 貴方はまだまだ頑張り足りないわ!」



 酷くない!?



「全力で足りなかったなら、全力以上が必要でしょう! それなのに貴方は、ただ普通に話しているだけで息も絶え絶えじゃない!」


「……っ!!」



 言い返せない。

 事実、僕の体調は万全とは程遠い。

 このままでは、僕はフローレスに頼り切る事になるだろう。


 そんな事はあってはならない。

 フローレスは師匠と何の関わりもない人間であり、彼女は僕のためだけに師匠を助けるのだ。

 僕のわがままに振り回される彼女を尻目に、僕が不甲斐なくあってはならない。


 師匠は、僕が助けるのだ。


 これは下らないこだわりなどではなく、必要であるという事実。

 師匠を助けるのは僕でなくてはならないのだ。

 もしもフローレスが僕がほとんど関わりなく師匠を助けるとするならば、そんな事に意味はない。



「やってやるさ……! あと二日、僕が師匠を助けるのに何一つ問題ない!」


「上等……っ!」



 フローレスが、今度は拳を打ち込んでくる。

 様々な角度で、強さで、技術で、形で、僕の体を打ちつける。



「い、痛……! 痛い! 痛い……! 痛いってば!」


「でも防げてるわ」



 ギリギリな!


 ただ、ある意味では正しくもある。


 落ちた筋力は、2、3日のうちに元に戻ったりしない。

 そうなれば、取り戻せるのは“勘”以外にない。


 どうあがいても取り戻せないにしても、それを諦める事などできるはずがない。



「まあ、このくらいでいいかしら?」



 フローレスがそう言ったのは、二時間もぶっ通しで組み手をさせられたあとだ。

 っていうか、なんで部屋の中で……



「ほんの少しでも、練習がいるわね」


「長ければ長いほどいい。ただ、時間があるとは言い難いね」



 何せたった二日。

 とてもじゃないが、万全でなどあるはずがない。


 ()()()()()()()()()()()()()()ものの、それに頼り切るのはあまりにもリスキーだ。



「一時間だろうと、一分だろうと、貴方は長く鍛錬をしないといけない」


「なら、作戦決行の日程は決まりだ」



 明後日。処刑当日に決定である。



「そのためには、やはり当日の正確な予定が知りたいね。何時に誰がどこにいるのか。たった二日で情報を集められるものなの?」



 手伝ってもらっている立場で文句を言うわけではないが、間者など数日のうちに入り込めるものではないだろう。

 長い時間をかけて信用され、その信用を失わないように慎重に動く。

 明後日の処刑の情報など、本当に手に入れられるのだろうか?



「馬鹿にしないで。間者なんてもう送り込んでいるわよ。賢者は昔からいけすかないんですもの」


「抜け目ないなぁ」



 そうなれば、後は指示を出すだけだ。

 つまり、問題は僕の他には何もないという事だ。



「もう一人だけ、用意して欲しい人員がいる」


「何かしら?」



 いくつも頼み込んで悪いが、すでに頼りすぎだと思うが、これだけはお願いしなくてはならない。

 僕が想定しているどの策をするにしても、その人員は必要となるだろう。



「お願いするよ。それは——」



 それは、恐らくフローレスでは想像もしていない人物。

 しかし、あるいは僕やフローレスよりもはるかに必要となるかもしれないのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ