立案忍者
僕が師匠の処刑に驚いたのには、理由がある。
もちろん、それ自体が悲しかったというのもあるが、それだけではないのだ。
まさか、殺されるなどとは思わなかった。
殺すだけならば、屋敷でもできたはずだ。
それをわざわざ加減して、弄ぶように戦っていた。
確かに僕を爆破したりはしたけれど、それまでは完全に無傷だった。
だから、殺すつもりはないのだろうと思っていたのだ。
もしも処刑が目的ならば、あれほど優しくする必要はない。
どれほど痛めつけようと、最終的に生きていればいいのだから。
「賢者の目的が分かれば、作戦も立てやすくなる」
「分かったわ。間者を用意しましょう」
「師匠を助けた後の逃走経路も用意しなくちゃ」
「任せて。何人か人員を割くわ」
なんだコイツ頼もしいな!
当人が強い事はもちろん知っていたが、しかし貴族の助力はこれほど頼もしいものか。
当人だけでなく、それよって動かせる人員の方の利点が大きい。
今までにも、こういった事はあった。
僕だけではできない事、師匠と二人でもできない事。
しかし、その時はやはり僕達だけでは解決しなかった。
僕達よりもはるかに儚い程度の力しか持たない、とても頼れる者達の助けによって、僕はここまでやってこれたのだ。
今、僕はそれを実感している。
「それよりも、貴方身体は大丈夫なの? ここ何日かはベッドから起きもしなかったじゃない」
「正直死にそう」
「今すぐ立て!」
「痛ぁい!」
なんで蹴るの!?
「明後日って言ったでしょう! 万全でなくてはならないでしょう!」
「分かってるけど! 蹴る事ないだろ!?」
「いいえ、蹴るだけじゃ足りないわよ! 貴方はまだまだ頑張り足りないわ!」
酷くない!?
「全力で足りなかったなら、全力以上が必要でしょう! それなのに貴方は、ただ普通に話しているだけで息も絶え絶えじゃない!」
「……っ!!」
言い返せない。
事実、僕の体調は万全とは程遠い。
このままでは、僕はフローレスに頼り切る事になるだろう。
そんな事はあってはならない。
フローレスは師匠と何の関わりもない人間であり、彼女は僕のためだけに師匠を助けるのだ。
僕のわがままに振り回される彼女を尻目に、僕が不甲斐なくあってはならない。
師匠は、僕が助けるのだ。
これは下らないこだわりなどではなく、必要であるという事実。
師匠を助けるのは僕でなくてはならないのだ。
もしもフローレスが僕がほとんど関わりなく師匠を助けるとするならば、そんな事に意味はない。
「やってやるさ……! あと二日、僕が師匠を助けるのに何一つ問題ない!」
「上等……っ!」
フローレスが、今度は拳を打ち込んでくる。
様々な角度で、強さで、技術で、形で、僕の体を打ちつける。
「い、痛……! 痛い! 痛い……! 痛いってば!」
「でも防げてるわ」
ギリギリな!
ただ、ある意味では正しくもある。
落ちた筋力は、2、3日のうちに元に戻ったりしない。
そうなれば、取り戻せるのは“勘”以外にない。
どうあがいても取り戻せないにしても、それを諦める事などできるはずがない。
「まあ、このくらいでいいかしら?」
フローレスがそう言ったのは、二時間もぶっ通しで組み手をさせられたあとだ。
っていうか、なんで部屋の中で……
「ほんの少しでも、練習がいるわね」
「長ければ長いほどいい。ただ、時間があるとは言い難いね」
何せたった二日。
とてもじゃないが、万全でなどあるはずがない。
全力以上の力を出す手段はあるものの、それに頼り切るのはあまりにもリスキーだ。
「一時間だろうと、一分だろうと、貴方は長く鍛錬をしないといけない」
「なら、作戦決行の日程は決まりだ」
明後日。処刑当日に決定である。
「そのためには、やはり当日の正確な予定が知りたいね。何時に誰がどこにいるのか。たった二日で情報を集められるものなの?」
手伝ってもらっている立場で文句を言うわけではないが、間者など数日のうちに入り込めるものではないだろう。
長い時間をかけて信用され、その信用を失わないように慎重に動く。
明後日の処刑の情報など、本当に手に入れられるのだろうか?
「馬鹿にしないで。間者なんてもう送り込んでいるわよ。賢者は昔からいけすかないんですもの」
「抜け目ないなぁ」
そうなれば、後は指示を出すだけだ。
つまり、問題は僕の他には何もないという事だ。
「もう一人だけ、用意して欲しい人員がいる」
「何かしら?」
いくつも頼み込んで悪いが、すでに頼りすぎだと思うが、これだけはお願いしなくてはならない。
僕が想定しているどの策をするにしても、その人員は必要となるだろう。
「お願いするよ。それは——」
それは、恐らくフローレスでは想像もしていない人物。
しかし、あるいは僕やフローレスよりもはるかに必要となるかもしれないのだった。




