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執行賢者 其の一

 かつて、まだこの世を救うつもりだった頃。


 私は自分の力を世界のためにあるものだと思っていたし、研鑽は人々のためだと思っていた。

 十年来の友と一緒に何度も死線を越え、その友情は不壊のものであると信じていた。


 しかし、それは誤りだったのだ。


 魔王様を初めて見た時に、その事に気が付いた。


 何よりも美しかった。

 この世の全ての悪を束ね、この世の全ての力を掌中に納める神。

 世界にあまねく愛を与える誇らしき我が友とは真逆の、それでいて比べ物にならないほど魅了される存在だ。


 それを目にして以降、私の考えは変わった。


 私の力は私自身のためにこそ使われるべきなのだ。


 他人を救う事にうつつを抜かしていては、決して辿り着けぬ境地。

 自らのためにあらゆる命を食い物として散らかしてようやく辿り着ける領域。

 無類の力は無情の傲慢によってのみ形取られるのだ。


 友を裏切る事には、何の躊躇いもなかった。

 魔王様を討つ事など、決してあってはならないのだ。


 しかし、甘くみていた事は間違いないだろう。

 まさか一度で心が折れず、逃げもせずにもう一度向かうなどないと思っていた。

 彼の下らない勇ましさを、甘くみていたのだ。


 それが私の、過ちだった。


 おかげで魔王様は死に、私は生きる標を失った。

 魔王様に仕えたいという私の願望を叶えるために使われるべき私の力は、行き場を失ってしまったのだ。


 衝動的に、友を殺した。

 魔王様との戦闘で疲弊した彼など、私の相手ではなかった。


 私は素知らぬ顔で凱旋した。

 勇者は魔王と共倒れであると嘯き、民衆の信用を買ったのだ。


 そうしていつしか名を変え、私が私であるという事実は千年という時間の中に溶けて消える。

 こうして、私は私である事をやめてしまった。


 私は身を潜めた。

 この国を牛耳ながら、表に立ちながら、私という存在を世間から隠し続けた。

 全ては()()()()()()()()()


 民衆を“支配”する術。

 私が保有する魔核。

 そして膨大な魔力の持ち主。

 最後に、私自身。


 何が欠けてもなし得ない。

 千年の研鑽の果てに、ようやくこの時を迎える事ができるのだ。


 時には諦めてしまう事もあったが、マニエルドの復活が予期せぬ助けとなったのだ。


 処刑は、そのために行われる。

 魔族以外の生物は、死際にその魔力を魔核として凝縮する事がない。

 これはつまり、命を落とせばその場に魔力が放出されるという事に他ならないのだ。

 通常では大した意味のないその現象も、マニエルドほどの実力者であれば気候に影響を及ぼすほどとなる。


 その強大な魔力を、私の魔法に利用するのだ。


 そうして、私の体を依代とする。

 心臓に埋め込まれた魔核に干渉し、魔王様の精神を蘇らせるのだ。

 私の命は失われるが、私の体は魔王様の物となる。

 これほど嬉しい事が、他にあるだろうか。


 王都の中心で、魔王が再臨する。


 その場に集まる者共は、その生贄だ。


 今回の処刑には、多くの貴族が見物に来る。

 国王も、他国の貴族も、有名な冒険者すらも。

 そんな連中を魔王様が刈り取る事によって、世界に布告するのだ。


 蘇った魔王が、宣戦を。


 もちろん、冒険者や貴族などに連れ立つ護衛はそれなりの実力者だ。

 個々の実力では魔王様に及ぶべくもないが、しかし処刑当日はかなりの人数が集まるだろうと予想される。

 さしもの魔王様といえども、蘇ったばかりでは遅れを取らないとも限らない。


 なので、先んじて手を打っておく。


 魔王様の領域—— 【矮小なる世界イッツァ・スモールワールド】でこの街全てを包み込むのだ。

 そうすれば、誰一人抵抗の余地はなくなる。加えて、マニエルドの拘束もしやすくなる。


 これが“支配”である。


 完璧な計画。完全な結果。

 想像するだけで、今から震えが止まらない。


 この世界は魔王様が蹂躙するのだ。

 私は、その足がかりとなる事ができる。


 これ以上に嬉しい事など、何一つない。

 あるいは多少の邪魔が入る可能性はあるが、その全ては些事であると断言できる。


 誰一人、何一つ、できるはずなどないのだから。

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