招待忍者 其の四
この力が魔王のものである事は、容易に想像がついた。
あるいはグレゴリー元来の魔法である可能性もあったが、師匠はグレゴリーがこの力を使う事に驚いていたようなのでそうではないのだろう。
加えて、魔王の魔核などというこれ見よがしな物を前にしては、答えなど一つしかない。
ならば、打開の可能性は充分にある。
まず、千年前の魔王は、一体どうやって戦っていたのだろうか。
いくらこの能力が無類無双の究極能力といえど、身体能力のみで揺るがぬ最強になどなれるはずがない。
すなわち、魔王もまた、現在のグレゴリーのように魔法やスキルを使用する事ができたのだ。
つまり、この能力下にあっても魔法を使えるのは、グレゴリーの力ではない。
十中八九、魔王元来の力である。
無論、これは僕の予想の範囲を出ない要素のみで構成された拙い憶測だ。
僕自身に何か致命的な無知がある場合において、何もかもが水泡に帰す可能性がある。
十中八九などといいはするものの、それは希望的観測を多分に含んだ上でしかないのだ。
故に、カマをかける事にした。
一歩下がり、回り込み、様子を伺う。
この時グレゴリーは、僕が動いた方向に自らもまた同じだけ移動したのだ。
僕が攻撃するのはグレゴリーなのだから、本来のこの動きは必要がない。
グレゴリーはその場でじっと構え、あくまで僕を迎え撃てばいいのだから。
「やっぱり……」
思わず、そう呟いた。
「……何がですかな?」
そう言うも、グレゴリーには動揺が窺えた。
グレゴリーがわざわざ僕に合わせて動く必要など、たった一つしかない。
背後を守る事をおいて、他にあるはずなどないのだ。
「その魔核、よっぽど大事とみえる」
「…………」
恐らく、ややこしい条件付けなどされていない。
魔王の能力であるために、魔王自身が対象外なのだ。
ならば、魔王の魔核を持つグレゴリーが魔法を使える事に不思議などない。
つまり、グレゴリーが背後にする魔核を奪えば僕も魔法が使えるはずなのだ。
当然、それがわかってなお難しい事は疑うべくもない。
魔力の効かない現状で、魔法の達人であるグレゴリーの背後を取らなくてはならないのだから。
しかし、反撃はここから始まる。
ただがむしゃらにぶつかる事でしか抵抗できなかったつい今までとは、全く違うのだ。
「っラァ!!」
「ほう……」
拳に掛け声を乗せるなど、生まれて初めての事だ。
それほどに、僕は師匠を救いたいと思っている。
しかし、師匠もただ待っている囚われの姫ではない。
僕の考えを瞬時に理解し、どうにかグレゴリーの動きを阻害できないかと暴れている。
「やれやれ、疲れますな」
「っソが!!」
あまりに余裕。
まるで巨岩に撃ち込んでいるような重たさ。
とてもではないが、崩せる気がしない。
しかし、崩す必要はないのだ。
ただ小脇を抜けるだけ。
たったそれだけで、勝負は五分となる。
そして、それはそう難しい事ではないのだ。
「……っ!!」
「ッシャ!」
まさしく、ニンジャの本領。
戦闘よりも身のこなしを重視する職業の特性が生きた。
師匠が抵抗するのに合わせ、全霊の力で駆けたのだ。
一瞬の死角を縫うようにして身体をくねらせる様は、この職業が僕のものとなってから最もニンジャらしい動きだったろう。
いや、ニンジャってどんなのかよく知らないけど。
どうやら僕程度に出し抜かれるとは思っても見なかったらしいグレゴリーは、見事に対応が遅れている
もう一度僕を視界に収める時には、僕はもう魔核を手に入れている事だろう。
最も大切なこの瞬間。
時間が膨大に引き延ばされ、一瞬が永遠にも感じられる。
ほんのわずかな時間に多くの事を考えられ、今まで起こった様々な出来事が思い出された。
——あれ? まるで走馬灯みたい……
【魔法:————】
僕の視界が、にわかに爆ぜた。
何が起こったのか全く分からなかったが、どうやら吹き飛んだらしい。
壁に頭をぶつけた事は、側頭部の痛みで気が付いた。ただ、ぶつけた瞬間は認識できなかった。
恐らくは一瞬、意識を失ったのだ。
困った事に、四肢に力が入らない。
だらりと体を投げ出すばかりで、糸の切れた大道人形のようにピクリとも動かない。
「アラン!! アラン……ッ!!」
「ああ、少しやり過ぎてしまいましたな、失敬失敬」
師匠と、憎い奴の声が聞こえる。
僕はそれに答える事ができず、ただ倒れ伏していた。
今すぐにでも立ち上がらなくてはならないというのに。
「まあ、どちらにせよ殺すつもりでしたからな。問題はありませんぞ」




