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招待忍者 其の三

 厳密に言うのなら、僕と師匠の言った「何故」は意味が異なる。


 僕が言ったのは、純粋になんで魔法が使えないのかが理解できなかったためだ。

 魔力は正しく操作できているというのに、それが現象を伴わない。

 それが理解できずに、思わず「何故だ」と言葉を発した。


 言葉通りの意味で、「何故魔法が使えないのか」と。

 僕はそのように言った。


 だが、師匠は……



 ◆



 魔王の数ある能力の中でも、最も凶悪なものは何か。


 魔王はただの一度で一個旅団規模の被害を出す強大な魔法すら扱えたが、それを差し置いても上がる名前がある。

 千年前にはよく知られた、魔王を真に無敵とした最強の対人能力。


 名を【矮小なる世界イッツァ・スモールワールド】という。


 あるいは愛らしくもあるその名前に対し、能力は疑う余地もなく凶悪そのもの。

 あらゆる魔法とスキルの無力化という、究極の支配能力だ。


 魔王の御前に置いて武器を持つなど不敬である、と言わんばかり。

 その身に宿る支配欲を具現化した悪辣な力。


 魔王を前にしては、害する事はおろか身を守る事すらままならないのだ。


 歴史上この能力を破ったのは、勇者をおいて他にはない。

 しかしその勇者ですら、一度目の対峙ではこの能力の前に破れているのだ。


 一度敗北を経験し、思い新たに挑み、ようやく破った究極能力。


 現に時点において、この力を前に対抗できる者などこの世に存在しない。


 グレゴリーは、その力を使用したのだ。

 本来であれば魔核からその本人の力など使えようはずもないが、千年にも及ぶ研鑽の果てにようやくその一端を掴んだ。


 今この時発動されている力は魔王現役時のそれと比べるべくもないが、しかしそれでいて現存する全ての生物にとって致命的となる力には相違ない。


 マニエルドは思ってもみなかったのだ。

 まさか、グレゴリーの能力がそこまでの域に到達している事など。



 ◆



「な、何故……魔法が使えん……。どうやって……この力を……」


「説明の必要はありませんな」



 師匠はこの力を知っているようだった。

 とすれば、これはグレゴリーが千年の歳月をかけて開発された新魔法などではない。

 少なくとも千年前には存在したものだ。


 であるならば、あるいは打破の可能性がある。



「師匠を離せよ……っ!」


「おぉ、勇ましい事ですな。かつての友のように。まあ、だからといって聞いてやる事はできませんがな」



 頭から流れる血をぬぐい、僅かにブレる視界を無視して立ち上がる。

 本当ならば戦える状態にない事は、自分が一番よくわかっている。しかし、それでもなお、この場で引く事ができない事もまた事実なのだった。



「離せって言ってんだよ!」



 現状、無策。

 しかし、僕はここでおめおめと逃げ出すような臆病者ではないと自覚している。


 一度(ひとたび)退けば、二度とこの場に来られない気がしていた。

 体は助かったとしても、心は挫けてしまう。

 一度挫けた心をもう一度突き立てるのは、並々ならない胆力が必要となるだろう。


 だから、この場は引いてはならない。


 引いて生き残っても、意味がないのだ。

 勝利の布石とならない後退などいらない。僕は、何よりも師匠を助けたいのだから。



「ほほう、なるほど勇者が敵わないわけですな」



 言いつつ、グレゴリーは僕の拳を軽くあしらう。

 師匠を抱きすくめていたなお、その師匠が暴れていてなお、全力の僕では遠く及ばない。


 この力の打破。

 僕が一矢報いるための、最低条件。

 それを為さないうちには、この抵抗は全くの無意味である。


 考えろ! 何がおかしい!


 違和感がある事は間違いがなかった。

 ただ能力が無力化されているだけであるにしては、あまりにも不自然。

 これほどの力量差が見える時点で、ともすればおかしいのだ。


 普段から魔法によって補助をかけているとはいえ、僕本来の身体能力はそう低いものではない。

 多くの強敵難敵との経験や、師匠との鍛錬によって研鑽された力は、闘技大会で戦った一流の戦士たちと比べても遜色はないだろうと自負している。


 当然、極めるにしては未だ道半ばであるが、しかし魔法職であるグレゴリーにここまでの遅れを取るというのは不自然なのだ。


 すなわち、グレゴリーは魔法を使用している。


 無力化能力によってグレゴリーの魔力を見る事ができないが、それでも間違いはないだろうと思われた。

 そうでなくては、グレゴリーがこれほどの動きをする説明がつかない。



「挫けませんなぁ」


「当然……ッ」



 思わず言い返そうとするも、その程度の余裕すら僕にはない。

 面倒そうに言葉を発するグレゴリーと比べれば、どちらに分があるかは一目瞭然だった。


 どうして、グレゴリーは魔法を使えるのか。

 それが分かれば、せめて対等な勝負を仕掛ける事ができるというのに。


 僕は未だに、グレゴリーをその場から一歩を動かす事すらできていない。


 ……一歩も動いていない?


 一つ、思い付いた。

 現状では単なる憶測に過ぎないが、しかし試す価値は充分にあると思う。


 僕は息も絶え絶えの猛攻を取りやめ、ほんの一歩だけ距離を取った。

 そして——



「やっぱり……」


「……何が、ですかな?」



 たった一つだけ見つけられた突破口。

 この勝負、ここを越えられるかで決する事になる。

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