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闘技忍者 其の三

「ここは納めてくれませんかな? この私に免じて」



 それは、国王に次ぐ権力者の言葉だ。

 例え問い掛けの形になっていようとも、断る事などあってはならない。



「……御意に」


「失礼しましたな」



 笑顔で、しかし抗い難い言葉。

 さしものマクドニス卿も、頭を下げるより他なかった。


 ……意外だ。


 マクドニス卿の事だ。賢者に言われたくらいでは手など引かないだろうと思っていた。

 愚かしくも食い下がり、不敬であると切り捨てられはしないかと期待していたのに。



「アラン君、ここでは話しにくい。この後の表彰が終わったら、是非うちに招待したいのだが、かまいませんかな?」


「……はい」



 正直、あまり望ましい事ではない。

 僕の目的はすでに達成されたし、この街に残る必要はもうないのだ。

 どうせ僕は追放者だし、さっさと逃げ出す方が自然だろう。


 後の人生は、師匠と世界旅行でもして暮らすのも悪くない。

 そんな風に思っていた。


 だが、ここで断る事はできない。


 逃げるだけならば、できない事はないだろう。

 この国ほとんどの衛兵が追ってきたとしても、逃げるだけならばわけはない。

 だが、賢者ジェレミー・アトウッドに目を付けられればその限りではない。


 彼自身の実力もさる事ながら、その私兵の練度は目を見張るものがある。

 ジェレミーは、単なる小悪党を捕らえるために私兵を動かす事などないが、それでも機嫌を損ねた者にはどうかわからない。


 つまり、僕は彼の顔色を伺いながらの行動を余儀なくされたのだ。



「では、また後ほど。楽しみにしておりますな」



 僕に今できる事といえば、嘘くさい笑顔を返すくらいなものだ。



 ◆



「どうやら上手くいったようじゃの」


「全部師匠のお陰ですよ」



 師匠は、僕の試合を見ていない。

 それだけ僕の勝利を信じてくれていた事と、街の観光がしていたからここに来れなかった。


 予選中はかなり手伝ってもらっていたので、そのくらいの息抜きはしてもらわないとこっちが気を遣ってしまう。


 師匠の魔法で、街中の声をひたすらに収集してもらっていた。

 情報戦に関してはほとんど僕らの勝ちだ。

 どこで誰が何をしているのか、全て把握しているのだから。


 まさか、貴族でもない僕にそこまでの情報収集力があるなどとは思ってもみなかったろう。

 師匠の変幻自在な魔法は、予想だにしない程の利便性を持つのだ。


 なので、僕は相手の情報のほとんどを持った状態で戦っていた。


 常に相手が対応できない方法で、常に相手が反応できないタイミングで攻撃していた。

 実際に相手が感じたほどの実力差はなかったはずだ。

 当然、そんな小細工がなくとも勝利できたと思っているが、相手にほとんどこちらの情報を与えずに倒しす事は難しかったろう。


 そうなれば、おそらくフローレスとの試合は厳しいものになっていたに違いない。



「勇者に勝ったのじゃぞ? もっと喜ばんか」


「……それもそうですね」



 勇者。

 果たして、あのまま試合が長引いた場合、僕は彼女に勝てたのだろうか。

 フローレスの力は見た事があるが、その時点のままだと思うのは楽観だろう。なによりも、僕が成長しているのだから。

 僕が知っている時点でも充分な実力者だったが、あれからさらに成長とすればかなりの脅威だ。


 今の僕でも、勝てないかもしれない。


 それを思えば、やはりもっと喜ぶべきなのだろう。



「何かあったのか? そんな顔をしておる」


「……鋭いなぁ師匠は」



 別に隠すつもりなどない。ただ、ほんの少し思っていたのと違うというだけの事だ。



「賢者に呼び出しをくらってしまいまして」


「賢者? たまに名を聞くの。どんなやつなんじゃ?」



 どんなやつ、と聞かれると答えづらい。

 あの食わせ者である雰囲気。逆らいがたい態度。

 恐らくは、言葉では理解できないものだろう。


 正面から対峙して初めてわかる不快感。

 何か特別な事をしているわけではないというのに、彼の言葉はどうしようもなく不気味なのだ。



「見た方が早いかもしれません。どうぞこちらへ」


「ふむ、そうか」



 今まさに表彰の準備を整えている闘技場の端から顔を出し、客席の方を見る。

 賢者はまだ王の後ろに控えており、遠目にもその姿を確認する事ができた。



「アレです。あの一番上の、王の後ろの人が賢者です」



 指を差し、師匠に伝える。

 ただ、遠目で見ただけでは賢者の異常性は分からないかもしれない。

 こうして見ているだけでは、イマイチ不気味さも不快感も感じられないのだ。


 今のない事だったか。


 そんな風に思うも、しかし師匠を見て思っていた全てが吹き飛んだ。



「あ、アイツ……っ!? アイツは! っ、なんで……っ」


「師匠……?」



 あの師匠が、動揺しているのだ。

 いや、動揺なんてものじゃあない。恐怖のあまり後退り、そして足をもつれさせて尻餅をついた。



「師匠! どうしたんです!」



 師匠の呼吸は不規則で、立ち上がる事もままならないようだ。

 こんな師匠を見るのは初めてだった。


 そして、ようやく、こう言うのだ。



「逃げるぞアラン……っ! アイツに関わってはならん……!!」

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― 新着の感想 ―
[一言] とても面白かったです! でも、もっと忍術がみたいという個人的なわがままが…。続きを期待します!!
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