闘技勇者 其の七
ダニエル・コレット、レオポルド・ロングペロー、マルコム・マクガヴァン、ステファニー・ノックス。
この名前を聞いて、何も思い当たらない貴族は存在しない。
その誰もがここ数年の間に大きな武功を上げ、その名ありと国内外に知らしめた豪傑である。
恐らくは、この闘技大会の中でも指折りの実力者だろう。
「そんな相手ばかりが、偶然にも注目のフード男に当たる。これは偶然かしら?」
「意図を感じますね」
「間違いなく」
フード男を前にしてあえなく敗北を期した彼らだが、しかし期待はかけられていたに違いない。
聞くと呆気ない試合であったらしいが、そんな事は誰も予想していなかったろう。
つまり、『彼らであれば、フード男に対して少なからず食い下がるだろう』と思われて選出されたのだ。
「フード男に勝たせたくなくて、実力者ばかりを彼と当てている。実力者との連戦で体力を奪われるだろうから、後半になれば堪えるだろう。そんな風に感じるわ」
「ははぁ、なるほど」
実際にはまったく致命打にならなかったわけだが、しかしそういう意図は感じる。
「それに、私と同じ時間ばかりに試合があるのもおかしいわ。今まで全部の試合がそうだとなると、偶然とは考えづらい。私の事を偵察させないように手配されているんじゃあないかしら」
「対するお嬢様は、手の者を遣わせれば相手の情報を得る事ができる。一般人に同じ事をするのは難しいでしょうね」
そうなると、初めから対フード男の本命は私であると考えられる。
自惚れなどでなく明確な根拠を持って、私はそう結論付ける。
今回の闘技大会参加者の中で一番強いのは恐らく私なので、それ自体に不思議はない。
ただ、不満がないのかと言われればそうではなかった。
「過保護すぎじゃあないかしら?」
「……?」
私の力を頼ろうとしいている割に、私に話が通っていない。
当然、こんな話を持ちかけられたら一も二もなく断っていたが、恐らくそれを見越して話されなかったのだろう。
貴族の誇りなど、あったものではない。
つまるところ、ここまで策を弄するだけの相手であると判断されているのだ。
お兄様に勝利した事がそれほどに評価されるというのは悪い気分ではないが、しかし同時に不満でもある。
ここまでしなくては、勝てないと言われているようで。
「私では力不足だと言われているみたいだわ。この私が……フローレス・ハミルトンが、軽んじられている」
「別に軽んじるって事はないと思いますが」
「何よ、貴女も私を疑うわけ?」
「そうですね……いつものお嬢様を見ているとどうしても……」
「どういう意味よ!? まるで私が信用ならないみたいじゃない!」
「信じてはおりますが、信用と言うと……」
「言い淀むな!」
失礼だわ! 人が真面目な話をしている時に!
「そんな事より貴女! フード男の情報はちゃんとあるんでしょうね!」
「あ、はい抜かりなく。お嬢様にもしもの事があればいけませんので」
……この子って私を好きなのか嫌いなのかイマイチ判断ができないのよね。
「その情報は全部聞かない事にするわ」
「お嬢様、何を!?」
「お黙りなさい。この私……私が、小手先と賢しさで勝利を拾う事などあってはなりません。勝利は拾わず、この手で掴むものですわ」
私が軽んじられているのなら、その目を覚まさせる必要がある。ハミルトンの次期当主として、勇者として、貴族として、そして私自身として、この私に手を貸そうなど思い上がりであると知らしめなくてはならないのだ。
手助けなど必要はないと、勝利をもって証明する。
「もしもこれが、私の指示によって成されたものならば、それは私の力だわ。結局はフード男と私の勝負であり、何も問題はありません。しかし、私の知らない場所で出された指示によって、私の知らない間に成された手であれば、これは看過できない。これで勝利しようとも、私の誇りは守られない」
だから、せめて条件を等しくする必要がある。
相手が私の情報を得られないというのであれば、同じく私も相手の情報を得るべきではない。
「アンナ、分かってくれるかしら?」
「いいえ、ガチガチの対策をするべきです」
「嫌よ!」
「お嬢様のためです!」
こいつ話が通じない!?
そんなこんなで、説得には随分と時間を使った。
おかげで翌日は寝不足で、試合には本調子が出せずに臨まなくてはならなくなった。
流石にそれでは意味がないので、アンナはようやくそこで折れてくれたのだった。




