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闘技勇者 其の六

 闘技大会を何日か戦って、一つ分かった事がある。


 私の預かり知らない場所で起こっているなんらか。それは、私を勝ち上がらせようとする意思によるものである。



「余裕すぎるわ」


「良い事ではありませんか」



 アンナが呑気な事を言う。

 確かに、困っているわけではないが。


 あまりにも、簡単に勝て過ぎてしまうのだ。


 相手があまりに弱過ぎたり、簡単に降参したり、あまりに労せず勝ってしまう。もしも自分が勝ちたくないだけならば、私が戦う相手が全員負けようとするのは辻褄が合わないだろう。

 それによって困る事などないのだが、しかし不気味である事に変わりはない。

 それを捨て置けるほど、私はズボラではないつもりだ。



「きっと何かあるはずなのよ。ただ私を勝たせたいだけなら、何もする必要なんてないもの」


「すごい自信ですねお嬢様。また頭が弱くなられたのかと思いました」


「ぶっ殺すわよ」



 ……私とした事が、ついついおかしな言葉を。

 お母様に怒られてしまうわ。



「そういえばお嬢様、賢者様のお話を覚えておいでですか?」


「……覚えているわ。変な一般参加者の事でしょう? ていうか話変えないでよ」


「その変な人ですけれど、勝ち進んでいるようですよ」


「無視しないでよ、私の話面倒臭がらないで!」


「このままでは闘技大会の歴史に傷がつくって大騒ぎのようです」


「飽きないで! 話聞いて!」



 私一応この子の主人なんだけど……



「本戦でもとても強いそうです。私は偵察に行けなかったのでよく知りませんが」


「……いや、なんで偵察していないのよ。別に私はそんなのなくても勝つけれど」



 もしも、どうせ勝つから偵察しなかったなんて言ったら怒ってやるんだから。



「いや、違うんですよ。お嬢様の応援を優先したんですよ」


「私の試合じゃない時間に行けばよかったでしょう。下手な言い訳はよしなさい」



 この何日かの間に何試合あったと思っているのいるのか。

 適当な言い訳でお茶を濁そうとしているのがわかりやすすぎる。



「いや本当に、お嬢様の試合と同じ時間だったんですよ、全部」


「全部……?」



 闘技大会の試合は全て対戦相手を伏せられているが、しかし偵察をする事は不可能ではない。

 参加者それぞれには、あらかじめ自分がどこで何時に試合を行うのかを通達されているのだ。

 という事は、自分と同じ場所で同じ時間に試合をする人間がいれば、それが自分の対戦相手だという事だ。

 そういった情報を集め、少しずつでも相手の情報を集めるのがこの闘技大会の醍醐味ともいえる。


 貴族たる者、情報を扱う術に長けているものだ。

 貴族が集まるこの大会では、当然高度な情報戦が行われる。


 まあ、私はそんなもの必要もなく勝利するが。



「それでは偵察はできないわね……」


「ああ、いえ。一応手の者を向かわせておりますので、多少の情報はあります」



 まあどちらにせよ、ほとんどの試合は我が家の者が目を光らせている筈なので、それ自体は困ってはいない。最初に行われたエリックとの試合は情報不足だったが、それ以降は時間が経つにつれて多くの情報が手に入った。

 事実、それ以降の試合は全て相手の情報を持って臨めた。もしも相手がわざと負けるような事をしなかったとしても、私は充分に余裕を持って勝利する事ができただろう。

 しかし、私が言ったのはそんな話ではない。

 自分の偵察の心配など、する必要もないのだから。



「その変な一般人は、きっと私の試合を偵察できなかったでしょうね」


「? そうですね……?」



 相手は貴族ではない。

 となれば、私のように多くの人間を動かすだけの権力はないだろう。


 つまり、私の情報など集められようはずもない。



「ちょっと分かってきたわね」


「何をでしょう?」


「なんで誰も彼もが私を勝たせようとするのか」


「あ、はい」



 あ、コイツ面倒臭いって思ったわね。

 別に話が戻ったのは偶然だから。無理やりにじゃないから。



「その怪しい一般人、どうやら相当手強いようね」


「え? はい。有力な貴族達がほとんど鎧袖一触であったと聞いています」


「誰が戦ったのか分かるかしら? 覚えていたらで良いのだけれど」


「そうですね……ダニエル・コレット伯爵令息、レオポルド・ロングペロー第三騎士班長、マルコム・マクガヴァン騎士爵、ステファニー・ノックス二科魔術師……」


「もういいわ。ありがとう」



 アンナの言葉を聞いて、確信した。

 私の考えは間違いないのだ。



「お嬢様、どうされたのでしょう?」



 アンナ、また私の事馬鹿にしてるわね。


 どうせ変な事考えてるんだろうとか思っている顔だ。めんどくさがっている顔だ。

 私はいつだって真面目だというのに。



「その怪しいフード男、どうやら私に倒させたいらしいわね」


「……ああ、そういう」



 ようやく、アンナにも分かったらしい。


 ほらぁ! 私はおかしな事なんて考えないし奇行もしません!

 変な子扱いはやめてもらうわ!

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