闘技勇者 其の二
寝坊してしまい投稿が遅れてしまいました
申し訳ありません
「やあやあ、今夜はゆっくりしていきたまえ」
「では、お言葉に甘えさせていただきますわ」
夜。
私は賢者ジェレミー・アトウッド様のお宅で夕食をご馳走になっていた。
今日だけでも二件の挨拶回りと毎日の修練を終わらせたので非常に疲れているが、それでも賢者の誘いを蔑ろにはできない。
例え、夕食という気の休まる時間を潰されたとしてもだ。
アンナは私の後ろに控え、声をかけるまでは微動だにしない。
一応身内がすぐそばにいるという事実は、ある程度安心できるものだろう。
私は、いつもそんな風に気休めをする。気を休める気休めとは、中々おかしなものだが。
「勇者殿は女性の身で闘技大会に出場なさるとか。流石に勇ましいですな」
「今はそう珍しい事でもありませんわ。強力な職業は性差をものともしないのですから」
「なるほど違いない。ああ、いや、少し失礼な言い方でしたな。申し訳ない。私はただ、勇者殿へ称賛を贈りたかっただけで」
ジェレミーはワインで口を濡らす。
濃厚なぶどう酒だ。私はお酒があまり得意ではないので、匂いだけで気持ちが悪くなってしまう。
「まあ、とりあえず。この闘技大会では、勇者殿のお力がようやく見られるのですな? 楽しみですな。今までは見せて頂けませんでしたので」
「淑女ですもの。いたずらに力をひけらかすような野蛮は致しませんわ」
これだ。
ジェレミー・アトウッド。彼は、どうしても私に勇者の力を使わせたいらしい。
たびたび同じような文句で、私が力を使う事を促す。
当然全て断っているが、どうやら諦めるつもりはないようだった。
そもそも、私は勇者の力を使いたくはないのだ。
勇者であるがために家を継ぐ事になった以上、その後の努力は私自身の力で行わなくてはならない。
努力なくして得た力などに、私の価値は左右されたりしないのだと、証明しなくてはならないのだ。
でなくては、お兄様に申しわけがない。
もしも私が実力で跡継ぎにふさわしい人間であったならば、それは順当な結果だ。しかし、もしもそうでなかったならば、お兄様は単なる運で跡目を追われた事になる。
そんなの、やるせないではないか。
だから、私は勇者の力を使わない。
両親と、お兄様と、アランにしか見せた事がない。アンナですら、私の真の力を知らないのだ。
ジェレミーが何故勇者の力にそこまでの興味を持っているのかは知らないが、残念ながら私はそう易々と使うつもりはない。
例えそれが、闘技大会であってもだ。
「そういえば、兄君の試合は今日ではありませんでしたかな?」
「……ああ、そうだったかもしれませんね」
お兄様の試合。
闘技大会の本戦は明日からだが、今日のうちに予選が行われているはずだ。
一般参加枠は全員がそこで振るいにかけられ、ほんの一握りだけが本選に進める。
これは、別にお兄様が一般に混ぜられてしまうほど落ちぶれたという事ではない。
むしろその逆。これは、実力を買われての役目だ。
予選には、毎年何人かの腕利きが混ざる事となっている。
これは、一般参加者を全て落とし、まんいちにも貴族以外から優勝者が出ないようにする措置だ。
お兄様は騎士の職業を受けた優秀な剣士であるため、その役目の一席を賜ったのである。
随分と小賢しい慣例だ。何よりも、この事実が一般に伏せられているというのが見苦しい。
一応一般枠を設ける事によってこびを売りつつも、その実何一つも与えるつもりがない。
なので、その予選には全く興味がなかった。
私は私として、正々堂々と試合に勝利すればいいのだから。
「はは、中々辛辣ですな。兄君の試合は興味がないと?」
「そう言われれば語弊がありますわ。私はただ、お兄様とは直接勝負がしたいんですの。予選には用がありませんわ」
直接の勝負。それに勝てれば、少しは私は認められるだろうか。
「おや、ご存知ありませんかな?」
「? 何をです」
「兄君は敗退されましたぞ」
……は?
間の抜けた声をどうにか押し殺す。
いやしかし、ジェレミーの言葉は信じがたいものだった。
「お兄様が? 予選で?」
「間違いありませんな。それはそれは酷い大敗であったと聞いておりますぞ」




