都入り忍者
船で海を行く事三日。僕達は、ようやく目的の場所を視界にとらえた。
間も無く日が昇るだろうかという深夜、僕達はついに目的を達成したのだ。
「……師匠、王都が……見えました」
「死ぬな小僧……寝るな小僧……倒れちゃ……!」
「アランもクラークも休め。後は私に任せておけ」
今にも崩れそうな船の介護は、昼夜問わず行われた。
一箇所を直しても、一時間と待たずに他の場所が悲鳴を上げる。師匠と僕とでどうにか持ち堪えながら、その間にクラークがその箇所を直す。それを延々と繰り返し、なんとか海の上に浮いている状態だ。
もはや、航海とすら呼べない。ともすれば遭難しかけの状態にあった。
恐らくは、今魔法を解けば船の形など保たないだろう。
すぐにでも無数の木片と化し、僕達は数キロメートル先の王都港まで泳ぐ必要が出てくる。
だから、死に物狂いで魔法をかけ続けた。集中を切らしてはならないという極限状態にあり、その上食料なども限られている。
僕個人の感想としては、およそ人間が置かれるべき状態ではない。
「てか、なんで師匠はそんなにへっちゃらそうなんです?」
「そうだ……! 実は手ぇ抜いたんじゃねえのか……!?」
クラークの言い方はどうかと思うが、もしかしたら何か秘訣があるのかも知れない。
そう思って聞いたのだが、どうやら僕に真似できる類ではなさそうだった。
「エルフじゃからの」
「エルフすげぇな……」
なんでも、エルフは魔力にあてられる事によって体力を回復するのだそうだ。エルフの多くが森で生活するのも空気中の魔力が濃いからだし、非常に小食なのも魔力から力を蓄えられるかららしい。
今回は魔界を通り高濃度の魔力を浴びたために、僕達よりも遥かに体を休める事ができたのだそうだ。
いいなぁ、便利だなぁ。
そんなわけで、僕とクラークは王都まで休憩する事ができた。
師匠には感謝だ。
こんな時間だが、日の出を境に漁師が起きてくる。つまり、街を夜が支配しているうちに行動しなくてはならないという事だ。
「いい時間に着けたね。明るいうちに来ていたら海の上で暗くなるまで待ってなきゃいけないところだった」
「そんなのゴメンだぜ……」
周りに人がいない事を確認して、ようやく港入りする。憲兵の一人もいないなんて、随分と無用心な事だ。
陸に脚をつけると、今までの疲れがドッとくる感覚がする。
ダメだ、倒れちゃ。僕の目的はここからもまだ続く。
しかし、多少緩んでしまうのもやむなしか。
なにせ、ずっと意識を集中し続けていたのだから。
「ああ!? 俺の船が!!」
……うっかりしていた。
集中を切らしたせいで、クラークの船が崩れてしまった。
デカいイカから逃げる時には随分と無理をさせたからな。維持を解いたらこうなるだろうとは思ってた。
「大声を出すな。憲兵にでも見つかっては面倒じゃぞ」
「そんな……俺どうやって帰れば……」
「むしろ隠蔽の手間が省けてよかったではないか。代えの船代は私達が持とう」
師匠、結構酷いな。
都合よくクラークをこの街に釘付けにするつもりだ。
もしもの時は、海から逃げるつもりなのだろう。僕が見つかれば街を追われるかもしれないし、そうなった時は航海術を持つ彼が必要になる。
「間も無く日が昇る。それまで身を隠し、やがて現れる人混みに紛れて王都の中心に行くぞ」
「……気になってたんだが、お前らは何をするつもりなんだ?」
そういえば、詳しい話はしていなかったか。
まあ、それもそうだろう。そもそも、クラークはそこまでついてくるつもりなどなかったのだから。
「差し当たっての目的地は王都の中心街。そこの、教会に用があるんだ」
教会。
僕にとっては苦々しい記憶のある場所だが、目的のためには避けて通る事はできない。
僕のささやかな、そして決定的な報復のためには。
「数日中に、そこではとある催しが行われる。厳密にはその受付だけれど、僕はそれに参加するんだ」
「催し……?」
クラークが目を細める。
もしかしたら、思い当たったのかもしれない。
「国内最大規模の『闘技大会』。僕はそこで優勝する」




