実行忍者 其の二
「なんでコイツが襲ってくるんだよ!?」
「オレに言われても分かんねえって!!」
「お前が分かんなくて誰が分かるんだよ!!」
「多分私やアランの魔力に反応したんじゃろうなあ。飢えた腹には極上じゃろうて」
師匠めっちゃ落ち着いてんな!!
そんな会話をしているうちにも、クラーケンの触手は船を抱き砕いてしまおうとうねる。キモい。
【魔法:水流操作】
「捕まってろ!」
僕が無理やりに波を起こして、船を移動させる。
とんでもなく船体は揺れるし軋むけれど、これがなくては海の藻屑だったろう。
「クソ! めんどくせえ!」
海に干渉して、波ひとつ立たない理由がわかった。
クラーケンが、海を操作しているのだ。なるほど船の動きを止めたなら、これほど楽な狩りもそうはないだろう。
魔力を食うだけでなく、魔力を扱う事もできる。僕が思っていたよりも遥かに恐ろしい魔物だ。
「こんな調子でも殺しちゃダメなのか!?」
「ダメに決まってんだろ!」
「じゃあどうしろって言うんだよ! 仲良くイカの糞にでもなるつもりか!?」
「作戦は練り直しだ! とにかく港に戻るぞ!」
クッソ! 船動かすのも簡単じゃあないのに!
っていうか、この船港まで保つかな? なんか軋み方が尋常じゃないが。
「いや、続行する。港には戻れん」
「いやいやマジか師匠!?」
確かに師匠ほどの腕があるのなら、海の上というハンデがあってもこのくらいの魔物は退治してしまうだろう。
しかし、今は撃退が目的ではないのだ。殺さぬように死なぬようにとなれば、いくら師匠でも仕損じかねない。
それでも、師匠は作戦を続行するというのだ。
「港に戻れば、このクラーケンも……」
「ジョージ!」
「口挟むな!」
「……すまん、つい」
「……ジョージもついてくる事じゃろう。そうなれば、被害は尋常にならん。元より選択の余地などないのじゃ」
師匠の言い分はもっともだ。いたずらに被害を増やすくらいなら、こんな事は初めからするべきではない。僕らは、ジョージの問題を解決するために来たのだから。
「……意外だな。千年前のお前なら、こんな状況は考える余地もなくジョージを殺していただろう」
「丸くなったという事じゃな」
「少なくともちっこくはなってますよね」
「アラン、ぬしは手足の中でどの指が一番必要ない?」
「脅し方が遠回しで恐い!?」
ちなみに言うと、いらない指なんて一本もない。
「自信満々だがマニエルド、お前には何か策があると見ていいんだな?」
……あ、マニエルドって師匠の事か。聞き慣れないから名前で呼ばれるたびに誰かと思うんだよな。
「いやない。今の策を断行する」
「……できるの?」
「私は無理」
「頭おかしいのかババア!?」
できるか分からないならともかく、できない事がハッキリしてるのにどうやってやるんだよ!?
「そう慌てるな、落ち着け。私に無理だからといって、現状不可能であるという意味にはなるまい」
「あー……それはまさか……?」
まさか、まさか、という考えならある。
クラークと目が合う。彼もまさかと思っているのだ。
僕がまさかと思うのはいいけど、他人に思われるの腹立つな。
「あの、師匠。それはつまり……」
「ぬしがやれ、ぬしならばできる。ぬしと私の二人ならの」
あ、やっぱりぃ〜。
もしも勘違いだったらいけないから一応確認してよかった。やっぱり僕にやれという意味だった。
クラークめ、よくも「まさかそんなわけないよなぁ」って顔しやがったな。
……まだ見てるなコイツ!
「いってぇ! なんで今殴った!?」
「ムカつく」
とはいえ、僕自身あんまり自信はない。
「そう不安そうにするな。私は信じておる。ぬしは信じられんか?」
「……ずるい言い方だ」
「おい! イチャつくのは今度にしてもらえるか!?」
「ぶっ殺すぞ」
「そんなキレる!? そろそろもう一回来るんだよ!!」
再び高く上げられた触手は4本。その中のたった一つでも当たれば僕らは命を落とす。
「揺れるから捕まれ!」
師匠に期待された以上、手を抜く事はできない。
そして師匠が言うように、僕と師匠が本気を出した以上、イカ公程度の思い通りになどなるはずがない。




