対話忍者 其の二
「知っていた……?」
「そうだね、僕は師匠が何なのか知っている。聞かされたのはさっきだけど」
僕にとっては大した事がなくとも、どうやらクラークにはそうではない。
当然といえばそうかもしれない。
彼にとっては、僕達の仲間割れ以外に望みなどないのだ。師匠には勝てるはずもないので、僕と仲間割れをしている間に逃げ出そうと。
もしもそうなれば、とても面倒な事になっていただろう。シェイプシフタの特性を思えば、人混みの中から見つけ出すのは非常に困難だ。
今回見つけられたのも、偶然と幸運が重なった結果だ。彼がもう一度人混みに紛れて、さらに姿を変化させたなら、僕達は彼に追いすがる事は二度とないだろう。
結界を張ったのは、そういう意図もあった。
誰にも聞かれたくない話であるため。
誰も巻き込みたくないため。
念のために結界を抜けられるだけの魔力量があるかの確認をするため。
そして、誰にも変わられる事ができないようにするため。
事実、クラークは追い詰められていた。
「まだ師匠の話が途中だから、続きを聞いてくれよ。僕はここで見てるだけだからさ。君が逃げない限り」
実のところ、僕らがクラークを傷つける気がないというのは本当だった。
この事態がクラークを排除しても解決しない事はもちろん、師匠がかつての仲間に仇なす事を嫌っているように思えるからだ。
ならば、僕が彼を害する事はない。
もちろん、彼が僕らを害しない限りではあるが。
「話を聞いてくれるか……?」
「……選択肢はねえだろうが」
其の言葉を聞き、師匠は安心したようだった。
「で、何の用だ」
「なに、別におかしな話ではない」
これから話すのは、僕達の事情について。
つまるところ、秘密裏に王都入りしたいという事だ。そのためには漁船が最適である事も、現場ではそれが難しい事も話した。
正直言って、僕は未だに事態の全容が見えていない。
クラークが祟りと関わりがあると言う事はわかるものの、そもそも祟りとは何なのかが不明瞭なのである。
その事を師匠に聞けば、「私に任せろ」と一言返されるだけ。ぶっちゃけ答えになっていない。
なので、ここからの話は僕にも初耳だ。
ようやく、僕は師匠がなにを考えているのかを把握する事ができる。
「……なるほど、話はわかった」
「頼めるか?」
「……やってできねえ事はないだろうな」
少し、含みのある言い方だ。しかし少なくとも、敵対しようとは思っていないらしい。
まあ、僕達が敵対しようと思っていないのだから敵対の意味なんてないけれど。
「そうか、助かる。困っておったんじゃ」
「あんたが困るなんてのは、なかなか貴重じゃねえか」
「そうでもあるまいよ。そもそもこの体では昔ほどの力を出す事はできん」
随分と、気楽に話すようになってくれた。
僕らとしては敵意もない人に殺意を向けられてるのは居心地が悪いので、これは非常に望ましい事だ。
「ひとまず宿に戻ろう。ずっと結界を張ってるのも手間だろう」
「……戻って平気なのか?」
師匠がそう聞くも、クラークは眉一つ動かさない。
「平気さ。宿には愛する妻しかいないんだからな」
◆
「お帰り、アナタ。あら、お客様と一緒なのね」
女将さんは、変わらない笑顔で僕らを迎えた。
楽しそうに、幸せそうに。
「ただいま。それと、コイツらの前ではクラークの方で呼んでくれていいぜ」
「あら、そうなの」
平然と、当然と、女将さんはそれだけしか言わない。
「……知っておるのじゃな」
「知っているさ。彼女には全部打ち明けてる。でなけりゃ、オレはこの街に残っていないだろうぜ」
この宿に旦那さんの死体があった事から予想はできたが、女将さんはクラークの事情を知っているらしい。知っていて、旦那さんとして扱っているのだ。
いくらシェイプシフタの能力といっても、長く住もうと思えば協力者が必要だろう。女将さんが、クラークの協力者なのだ。
秘密の話をする上で、この宿は非常に都合がいい。
言ってはなんだが、お客が全然いないからだ。
今は僕達だけ。ならば、誰の目も耳も気にする必要はない。
食堂のど真ん中だと言うのに、ここはすでに秘密の場所だ。
「さて、それでは緊急会議といこうかの」
師匠が一番に席に着き、僕とクラークの着席を確認してから話し始める。
「議題は?」
「無論、沖に居座っておるクラーケンの対処じゃ」




