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対話忍者 其の一

 それは、ほんの少し前。

 たった一時間ばかり遡った頃。


 僕と師匠は、海の見える通りで事態の真相について話していた。



「既に言ったが、口を挟んでくれるなよ。何度も言うのは面倒じゃし、あまり言いたい事でもない」


「…………」



 言葉を返さず、ただうなづいた。



「私はかつて、魔王軍で幹部をしていた」


「……は?」


「四天王という言葉を聞いた事はないか? 私はの、その一席をあずかっておった」



 師匠の言葉は、想像よりもはるかに驚愕の事実だった。

 当然、聞きたい事など山ほどある。今できた。

 しかし、師匠が口を挟むなと言った以上、僕が何かを言う事はない。


 驚きはしたものの、それ以上口を出す事はなかった。

 思わず口から漏れた声を最後にして、師匠が話し合える事を待つと定まっているのだ。



「……ありがとう」



 師匠は、口を出さない僕に小さく呟いた。



 ◆



 かつて勇者と戦った私は、終ぞ勇者を討ち滅ぼす事はなかった。

 まさしくこの地でぶつかったのじゃが、命を懸けた最後の一撃も耐えられてしまっての。

 私の命は地面に無意味な穴を開ける程度で、人っ子一人殺す事などなかったのじゃ。


 そして、そんな死に体の私を、勇者は救いおった。


 彼奴は嫌みなほどの善人じゃった。

 私が魔王軍の幹部であろうと、かつてどれほど人類と敵対していようと、見殺しになどできんとのたまったのじゃ。

 後に私が命を狙おうとも構わんとな。

 ある意味では恐ろしいほどの善意よ。


 しかし、その恐ろしいものが私を救ったのも事実。

 傷を癒すまで勇者に匿われ、魔王と人類の戦争には不干渉でおった。


 ……いや、嘘じゃな。

 たった一度だけ、私は勇者に味方した。

 あれは、勇者と魔王の()()()の戦いじゃった。勇者は仲間の裏切りにあい、ひどい手傷を負ってしまったのじゃ。


 その時ただ一度だけ、私は勇者に力を貸した。

 借りを返すつもりで、勇者に襲いくる追手をことごとく討ち滅ぼしたのじゃ。


 しかしどうやら……いや、やはりと言うべきか、魔王はその事にひどく腹を立て、私を森の奥へと閉じ込めてしまった。


 以後千年間、私はその場を出る事が叶わんかった。

 時折迷い込む人間との会話で魔王が倒された事を知ったが、主が来るまでは知っての通りよ。



 ◆



 師匠の話は、長いようで短く、短いようで長いような気もした。

 ただ、僕の知りたい事のほとんどが詰まっているような話だ。疑問に思っていた事のいくつかが、この話できっちり解決してしまった。


 道理で、師匠は魔族や勇者の事に詳しいわけだ。

 道理で、強いわけだ。


 師匠の身の上を思えば、それらは全く不思議ではない。

 むしろ、そうでないほうが不自然とすら思えるようなものだった。



「いくつか、聞いてもいいですか?」


「……なんでも聞け。もうぬしに隠すのはやめたのじゃ。軽蔑しようと、契りを分かたれようと、私はぬしに嘘はつかん」



 随分悲しそうにしているところ申し訳ないけれど、そういうのはちょっと興味ないかな。



「ここで勇者とぶつかったって?」


「然り。それを機に、私は魔王軍を裏切る事となったのじゃ」


「ここで、命を掛けた一撃を使ったって?」


「然り。しかし、それでも勇者は倒れなかった」


「もしかしてだけど、この街の円形内海って……」


「……然り。私と勇者の戦痕である」


「師匠すっげえ!?」



 絶対だいぶ謙虚な言い方だ!

 勇者との戦痕!? ここから感じる魔力は師匠のものなんだが!?


 千年経っても消えない魔力の残滓ってなんだよ!? この街にきてから師匠の魔力が探りにくいと思ってたんだよ!?


 師匠すっげえ!?



「強い強いとは思ってたけどこのレベルかよ!! 伝説のそれじゃん!?」


「よ、よせ! なんか恥ずかしくなるじゃろうが! 命を懸けようやくこれじゃし、千年経っても未だに力が戻らん。褒められるような事などありはせんのじゃ」


「力が戻らんって……じゃあ千年前は今より強かったんだ……」


「無論じゃ。もっと言えばこんな風体でもなかった」


「え、マジ? 師匠がちっこいのにそんな理由が?」


「いくらエルフじゃからってこの歳でこんなチンチクリンなわけなかろう……誰がチンチクリンじゃ!!」


「自分で言ったんだろ!? ボケてんのかババア!?」



 ◆



 師匠は全てを話してくれた。

 これから起こるだろういざこざを思い、あらかじめ僕に話してくれたのだ。

 事実、それは正しい選択だった。当然、僕は不意にこの事実を知ったとしても師匠に不信感など抱かなかったろうが、もしかしたら動揺くらいはしていたかもしれない。


 現にクラークは僕の動揺を誘うためにこの事に触れ、僕は師匠から話を聞いていたために平然とできる。



「マニエルド何某(なにがし)がかつてどんなエルフであろうと、僕の師匠が僕の師匠である事に変わりはない」



 この言葉を言えるのは、師匠のお陰だ。

 また一つ、感謝する事が増えてしまった。

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