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傍観忍者

 魔王軍には、シェイプシフタを集めた特殊諜報組織があった。

 とはいえ、その数は十人に満たない。元々数の少ない種族である事はもちろん、シェイプシフタの全てが魔王に従属していたわけではないのだ。

 しかし、たかだかその程度の人員に、人類は長く苦しめられた。

 突如として混乱が起こり、全ての情報は信用がなくなる。

 誰一人と兵を必要とせずに、内部崩壊だけで戦争を終わらせた事もあるほどだ。


 それほどに、彼らは強力な部隊だった。


 その組織の中で、特に海に対する思い入れが強い者がいた。元々が曲者だらけの部隊だが、彼だけはそれを考慮してなお別格。

 任務のほとんどは海辺の街であり、海から遠い場所への任務になると断る事すらあったほどだ。


 それが、魔王軍特殊諜報部クラーク・シェイプシフタである。



「テメェ何モンだよ。なぜ俺の事を」


「知っているとも。よく知っている」



 それは、クラークの望む答えではないのだろう。

 しかし、師匠もどう言ったものか迷っているのだ。


 正しい事を伝えるべきか、それが最善なのか、師匠自身でも判断できないでいる。


 ただ、わざわざ言葉にするまでもなく、クラークには反応があった。



「まさか……」



 クラークの目が細くなる。

 明らかに、何かに気が付いた様子だ。

 なるほど、どうやら無能者というわけではないらしい。諜報活動をしていたというのは伊達ではないようだ。



「ぬしである事はすぐに分かった。というか、ぬししかあり得まい。ハモンドも、リカルドも、コナーもデービットも、もうおらんのじゃからな」



 その名前は、かつてクラークと共にあったシェイプシフタ達のものだ。その全ては勇者に討ち滅ぼされ、残ったのはクラークただ1人なのだった。


 師匠の目は、遠くを見ているようだ。

 千年前を思い出しているのだろう。本来、師匠が生きていたはずの時間だ。その時間に取り残してきた記憶を、久方振りに思っている。



「仲間を知っている……その口調……そしてエルフ……お前、名前は?」


「忘れてしまったのであれば教えてやろう。マニエルドじゃ」


「や、はり……」



 その反応は、おそらく動揺。もう会う事もないと思われた人物に、千年も過ぎて会うなどとは思わなかったためだろう。



「生きていたとは驚きじゃ」


「こっちのセリフだ。お前は、魔王様に殺されたものと思っていた」



 師匠の言葉が、心なしか寂しそうなのは気のせいだろうか。

 クラークの言葉に、心なしかトゲがあるのは気のせいだろうか。


 いや、きっと気のせいなどではない。

 断じて、思い違ってなどいない。

 二人の思いは今、間違いなくすれ違っている。全く交差していない。


 しかしそれでいて、いやだからこそ、師匠は対話をやめようとはしない。



「なんのつもりなんだよ。なんのつもりで俺の前に現れたんだ」


「そうツンケンするな。別にぬしとやり合おうというわけではないのじゃ」


「ほほう、それは嬉しいな。なにせ、お前がその気になれば、俺の命なんて既に無いようなものだ」



 僕は、クラークの事情など知らない。

 しかし、この様子を見れば、二人の間にただならない事情があるのだという事くらいは理解できる。

 それに一々口を挟む気などないが、こうしていると少し窮屈に思える。


 ただ、だからといって話に混ぜて欲しいなど思っていない。



「小僧! お前はなぜコイツと一緒にいるんだ!?」



 いや、混ぜて欲しくないんだって。



「コイツの正体を知っているのか!?」



 しかもなんかしつこい。


 師匠には勝てない、しかし言う通りにするのは嫌だ。そんな事を考えているのだろう。

 恐らく、僕達が何を求めてこうしているのかなど、何一つ分かっていないのだろうが、それでも反抗的な態度を崩さない。

 だから、僕にアプローチをかけている。どうやら師匠と仲のいいらしい僕に。


 いい迷惑なのだが。



「いや、僕はいいんで……」


「よく聞け! コイツはな!」



 人の話聞かねえ!!

 いいって言ってんのによ!!



「コイツの正体は! ()()()()()()()、四天王マニエルド・狂エルフ(マッドエルフ)なんだよ!!」



 誰もいないこの通りに、クラークの声は酷く響いた。


 それは、あまりにも残酷な事実。師匠は表情をわずかに歪ませ、涙を流しそうなほど悲しい顔をしている。


 ああ、師匠。そんな顔をしないでくれ。

 師匠が悲しんでいると、僕まで悲しくなってしまう。


 だから、僕は言葉を発する。

 めんどくさそうだったから部外者でいるつもりだったが、師匠がそんな悲しい顔をするのなか言わなくてはならない。

 わざわざ言葉にしなくては、師匠の悲しみは消えてなんてくれないのだろうから。



「知ってるよ」


「……なに?」



 クラークは、目を丸くして驚く。

 しかしそんなに不思議がるような事ではない。

 なにせ、師匠は師匠であり、僕にとってはそれ以外であるはずなどないのだから。

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