表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/93

調査忍者 其の二

 沖に行って帰った。

 それはつまり、呪いだとか祟りだとか、そういうものにみまわれなかったという事だ



「ほほぅ、それは……面白いの」


「是非とも詳しく聞きたい」


「お、おう……」



 漁師の男は少したじたじといった様子で、しかし確かに話を聞かせてくれた。

 なるほどこれは、一筋縄ではいかない何かが隠されていそうな話だった。



 ◆



 漁師ってのは、朝が早いもんなんだよ。まだほとんど夜みたいな時間から起きて、明日ぼんやりと明るい空の隅っこを見ながら漁に出るんだ。

 だからよ、その代わりと言っちゃなんだが、夜は結構早めに寝るんだな。それこそ、日が落ちるよりも早いくらいに。


 だがな、俺も大の大人だぜ。いつだってそんないい子ちゃんみたいな時間には寝てられねえ。たまにはちょいと夜更かししてよ、酒場なんかに遊びに出かけたりするんだ。


 そんで、その日もそうやって、ちょっと遊びに出かけてたんだ。


 時間は夜更けも夜更け、草木も眠るってくらいの時間だ。

 その日は、ちょっと風が強かった事を覚えてる。海風がよ。すっ転びそうになった。

 んで、その転びそうになった時に、海の方を見たんだ。別になにを見ようって思ったわけじゃないが、風がそっちから吹いてきたんでな。なんとなく目を向けた。


 ほとんどなにも見えねえくらい真っ暗だったんだけどよ、よく見ると向こうの方に動く影が見えるんだな。

 一瞬波かと思ったが、でも確かに人影だと思った。何十年も漁師をしてんだ。海の上の事を見間違えたりするもんかよ。


 その影は、見たとこ沖の方に行ってるみたいだった。

 その頃にはもう祟りの話は出てたからよ、こりゃ大変だって思ったね。


 でもよ、追っかける事なんてできねえじゃねえか。俺まで死んじまうかもしれねえんだからよ。

 だから、ビビってその船の方をジッと見てたんだ。いや、もう見えなくなっちまってたんだが、それでも消えてった方をジッとな。


 それで、その船は帰ってきたんだよ。ものの十分くらいで。

 見えなくなってからすぐに、何にもなかったみてえに戻ってきた。

 灯りをつけるわけでもないのに、夜の海で迷わなかったんだな。


 俺、もしかしたら幽霊かと思ってよ。ほら、祟りの元凶がとうとう来たのかとな。急いで建物の影に隠れたね。でも、全然そんな事ぁなかった。

 その船は真っ直ぐに岸まで戻った。俺は、その船が沖から岸まで真っ直ぐに来てる間目を離さなかった。瞬きだってほとんどしてない。


 その船から降りてきたのは……もう分かってるよな? アースキンのオヤジだったんだよ。


 アイツは周りに誰かいないのを確認すると、急いで宿に戻ったみてえだ。暗かったから、俺には気付かなかった。


 夜が明けてからその事を聞いてみたんだが、何かの見間違いだろうって言われたよ。酔っ払ってたんだろうって。

 でもな? 絶対そんなはずはねえ。俺は、あの時の風の冷たさや心臓の鼓動まで覚えてる。酔っ払いの妄想がそんな風になるか?


 俺は、この祟りにはアイツが絡んでると思ってる。

 間違いなくな。



 ◆



「なるほど、それは怪しいの」


「だろうとも。だから、アンタらも気を付けた方がいいぜ」



 男の話は、確かにキナ臭いものだった。

 これが事実なのだとしたら、オヤジさんは僕達に何かを隠しているという事になる。昨晩問いかけた時は、何も知らないと言っていた。



「だけど、それをただ信じるというのもおかしな話だ」


「なに……?」



 そもそも、男はオヤジさんを信じるなと言っているのだ。それはつまり、代わりに自分の言葉を信じろという意味だ。

 これはどちらを信じるかという意味に他ならず、結局僕達は疑いを持っただけで何も進展していない。



「それを見たのは貴様1人なのじゃろう?」


「……まあ、そうなるな」


「ならば、特別に貴様を信じる理由はないの。私達から見れば、貴様とオヤジのどちらが本当の事を言っておるのか判断がつかん」


「ま、待て! 確かに沖に出ているところを見たのは俺だけかもしれないが、アイツが怪しいところは他にもあるんだ! これは、アイツの知り合い全員が思ってる事だぜ!」


「ほう、話してみよ」



 男は、なぜこんなにも慌てているのだろう。

 たかだか目撃したという程度にしては、あまりにも冷静さを失い過ぎではないか。


 もちろん、元々落ち着きのない人間であるのならばそれまでだが、しかし僕は違うものを感じていた。

 それが何かまではわからないが、それでもただ不安に駆られているだけではない何か。


 ひとまず、話を聞こうか。判断は、それからしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ