調査忍者 其の一
「さぁ、知らんね。沖に行った奴らは誰も帰って来ないからね。ところで兄ちゃんタコ買ってかない?」
「そうですか、ありがとうございます。タコはいりません」
「チッ、冷やかしかよ」
ホントに申し訳ない……
朝から色々な人に聞いて回るが、芳しい成果は得られていない。
そもそも、誰も詳しい事を知らないのだ。
当事者は一人残らず行方不明で、行って確かめた人間だって存在しない。
「こりゃ困ったのう」
「本当ですよ……できれば一ヶ月以内に王都入りしたいのに……」
一応普通の客船は行き来しているが、流石にそれに乗っては行けないだろう。乗客には厳重な確認作業がなされる上、王都への直通便は兵士も乗っている。見つからないように隠れるのは困難だと予想された。
これは、王都と直通する貿易船にも言える事だ。常軌を逸しているとすら思える厳重調査によって、僕たちが入り込む余地はない。
「ぬしのスキルに、魚群隠れの術とかはないかの?」
「都合良すぎだろ。流石にないよ」
そんなものがあるならば、貿易品の魚に紛れる事ができた。遁術なら師匠も一緒に隠れる事ができるが、どうも世の中そううまくはいかない。
「僕だけだったら方法はあるんだけど……」
「なにおぅ!? 貴様私を見捨てるつもりか!?」
「落ち着けよ!? 僕達はいつだって一緒だ!」
「じゃろうとも!!」
例えば変化の術でなら、魚の中に隠れる事も可能だろう。
しかし、それでは師匠が置き去りとなる。変化の術では、師匠を魚に紛れさせる事ができないからだ。
ただ、師匠は別に罪人ではないため、正しい手順を踏めば客船に乗れるだろう。どれくらいの時間がかかるかは分からないが、一応二人で海を渡る事は不可能ではない。
最後の手段として考えておくか。なにより、僕がどれくらい変化を保っていられるかが不明瞭だ。
今まで時間経過によって強制解除された経験はないが、最長使用時間は三十分にもならないだろう。
自分がどれほどやれるか分からない以上、この作戦をとる事はできれば避けたい。
やはり、漁船に乗せてもらう必要があるようだ。
「漁師たちだって、いつまでもこの調子じゃあ困るはずだ。今は困っていなくても、結局いつかはこの問題を放っておけなくなる」
漁師なんてものは、どの港にも売買の繋がりを持つ。国営の貿易船に任せて手数料を取られる事に我慢ならない人間は、漁獲量の幾らかを直接業者と取引をするのだ。これがなくなったとあれば、必ず痛手となるだろう。
当然密輸だが、今の僕達にはありがたい。この密輸に便乗する事が、僕の計画への第一歩となる。
「……おい、アンタら」
「? 何か用ですか?」
僕達がアレでもないコレでもないと話し合っていると、急に声がかけられた。
控えめに、声を潜めて、周りの目を気にして、そんな感じの声音だ。
振り返ると、肌の焦げた男性が立っていた。
何人か話を聞いた漁師のうちの一人だ。
「アンタら、アースキンって宿に泊まってるってのはホントか……?」
「え? まぁ、はい。そうですけど」
「…………」
え、なに?
なんかあるの?
「アンタら、外海の祟りについて調べてるよな……?」
「……はい、その通りですけれど」
なんだよ、一体なにがあるんだよ……
順を追いすぎなんだよお前ら。ゆっくり一個ずつ確認してんじゃねえ。
「さっさと本題に入れ」
「あ、すみません……」
師匠ナイス。
僕はこういう時、ちょっと遠慮しちゃう時があるからとっても助かる。
「えっとですね……」
いきなり敬語になったな。
師匠がちょっとイライラし始めてるのを感じて怯えているのかもしれない。
「アースキンの旦那、気をつけた方がいいと思いましてね」
「……それは何故じゃ? 彼奴は気のいい男じゃぞ」
師匠オヤジさんの事気のいい男とか思ってたのか。煩くて嫌ってるのかと思ってた。
男たちは、周りを気にしながら顔をこちらに近付ける。口には手を添えて、いかにも聞かれたくないという様子だ。
僕達が耳を向けると、ほんの小さな声でささやく。
あるいは街の喧騒に掻き消えてしまいそうな声だったが、しかし確かにハッキリと聞き取ることができた。
「アイツは沖に行って唯一帰ってきた漁師なんだ」




