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思案忍者

 沖という言葉は、この街では少々意味合いが異なる。


 円形状の内海を持つこの街は、多くの漁がその内側で行われる。そしてその円から外、広がる外海の全てを、漁師達は沖と呼ぶのだった。


 これは、漁師達が主だって利用する海と、客船や貿易船などが行き来する海を分けた呼び方である。

 漁師の感覚で言えば、その円の内側全てが街の一部であり、そこから出た海は街の外なのだ。


 なので、漁師達は件の祟りについて、今のところほとんど困っていない。

 そもそも普段の漁が内海で済んでしまうので、その外へは表向きな用事がないのだ。

 そういった事情であるため、危険を冒して外海へと行く者はそうそういないだろう。


 ただ、それでも外界へと行く事もある。

 漁獲量の問題だとか、気分転換だとか、()()()()()()()()だとか、そんな理由で。

 そして、そうやって沖に出た漁船に事件があったのだ。


 ある一時を境に、それらの船が戻らなくなった。


 これが不思議なのは、客船も貿易船もそのような事態にはならないところだ。加えて、捜索のために出た救助船にも、漁船を発見できなかった事以外に異変はない。全て無事であり、むしろ海は穏やかなくらいであるという。

 明らかに、漁船のみが消えているのだ。


 漁師達は、これを祟りだという。

 長年にわたり海を食べてきた祟りが、漁船を沈めているのだと。


 この問題が困ったのは、いつからそんな祟りがきているのか分からないところにある。

 漁船以外の全ての船が問題なかったので、発見が遅れてしまったのだ。

 この事実は、おそらく調査に少なくない影響を及ぼすだろうと思われた。



「話、納得できましたか?」


「いや、全く」



 オヤジさんから話を聞いた夜、僕と師匠は部屋で緊急会議をしていた。

 思い当たる点、気になる点が多過ぎて、どうにも訝しんでしまったからだ。



「そもそも、なんで内海での漁は平気なんでしょうか? 祟りならそこが気になりますよね」


「ここは魔王軍と勇者の戦跡じゃ。恐らくは勇者の威光で祟りなど入らんと思うとるんじゃろう。なんぞ、そのような話を昼間にも聞いたわ」


「へえ、勇者がここで戦ったんですね」


「……魔王軍の幹部との。しかし、魔力の影響が出ておるのなら、むしろ祟りじゃなんだというものは呼び込みやすい気がするがの。もちろんそんな眉唾物があればの話じゃが」


「ああ、言われてみれば」



 考えれば考えるほど、分からなくなる。

 明日はその調査になるのだろうか。何をおいても、情報がなくては推理もできない。



「……しかし、おかしな伝わり方をしておるものよ」


「? どうかされたんですか?」



 師匠が何やら呟く。

 寂しそうに、あるいは懐かしむように。


 どちらにせよ、誰かに聞かせたかったものでは内容だった。口をついて出た言葉。

 僕は、問い掛けてからやめておけば良かったかもしれないと思った。どんな人にも、いちいち聞かれたくない事というものはあるだろう。



「いやの……街の者に聞くと、その円形内海は勇者が使った大魔法によるものじゃというのじゃ」



 師匠は、窓の外に見える海を指差す。

 既に日が暮れかけた暗がりでは、向こう岸をはっきりと見る事ができないほどの広さをもつ海だ。

 仮に師匠がユグドラル・トレントを倒した時の魔法でも、これほどの事にはなるまい。



「……そんなわけなくない?」


「そうなんじゃよ。()()()()()()()()()()()()()()


「そっちかあ……」



 勇者もっと強いのかあ。

 だとすれば、当代との差は思った以上だ。

 アレは確かに強かったが、かなり常識的な範囲での強者だった。



「これは……ああ……魔王軍の幹部がやったものじゃ。その穴に海水が流れ込み、今のような形となった」


「マジかあ……」



 魔王軍もそんなに強いのかあ。

 しかも幹部でそれかあ。魔王自身はどんだけ強いんだ。



「いやでも、なるほどそれなら内海が祟りを避けているのなんてのはおかしいですね」


「そうじゃろう? この海には勇者の威光などないんじゃからな」



 しかし、だとすればますますおかしい。

 やはりもう一度、街の漁師には話を聞かなくてはならないようだ。

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