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応戦忍者 其の五

「師匠ぉおおお!! 遅いよぉおお!!!」


「ぬぉお!? 気持ちの悪い声を出すな!」



 流石にひどくない? 僕はクソ頑張ったんだけど。



「気持ち悪くなっとらんで、さっさと終わらせるぞ。もう一仕事せい」


「え、マジ!? 身体中がビキビキいってるし、痛くないところがほとんどないし、熱気で皮膚が火傷しそうだし、身体中の水分が全部流れ出たのかと思うほど汗かいてるし、魔力も枯渇寸前なんだけど!!」


「つまり……?」


「万全です!!」


「よろしい」



 とんでもねえブラック師匠だ。


 ただ、ここからする事はそう多くない。

 精々が、竜の動きを十分くらい止める程度のものだ。


 クソったれ!!



「一歩も動かすなよ。それができなんだらこの街は滅ぶ」


「脅すなあ! 集中乱れる!」



 一応、師匠も手伝ってくれるので、これまでよりは遥かにマシだろう。

 まあ、だからといって楽なのかと言われればそんなはずはないが。



「泣き言を言っている暇はないぞ! ほれ、はよ消えんか!」


「わがままだなぁ! もう!」


【スキル:火遁の術】



 竜の視界から逃げるため、師匠を抱き上げてスキルを使う。



「あぁ、ヤバい死にそう! 腕が取れそう!」


「取れんわ。安心せい」


「他人事だと思いやがって!」



 枯渇寸前の魔力を振り絞り、辛うじて動けるだけの体力へと補う。

 師匠の言う通り。死にそうだの、動けるだの言っている場合ではない。



「師匠! コイツ、魔力でこっちを感知する! 僕のスキルはほとんど役に立たないよ!」


「黙れ」


「なんぞ!?」


「竜が魔力を感知するなんぞ常識じゃ。よくもそんなもので時間が稼げたの。その程度で手を詰まらせぬからこその秘策じゃろう」



 だからって黙れはないだろう……


 師匠は辺りをキョロキョロと見回すと、魔力を練って魔法を使う。

 そんな事をすれば、当然龍は察知してしまう。せっかくの僕のスキルだが、魔力までは欺けないのだ。


 いや、しかしそれは師匠も分かっている。

 僕のスキルが視界にしか作用しない事も、竜が魔力を感知する事も、それによって僕の場所が割れてしまう事も全て承知だ。


 承知の上で、行っているのだ。



「……なるほど」



 師匠の技術は感服ものだった。

 自らの魔力を辺りに散らし、さながら霧のように感知を阻害したのだ。



「ぬしには教えておらんかったの。千年前でも廃れつつあった、古い小細工じゃよ」


「教えてもらってもできる気はしません。これ、すごく難しそうだ」


「そうさ、使いどころが少ない割に難しい。しかし、今にはもってこいの術じゃろう」



 事実、竜は僕たちの場所が分からなくなってしまったようだ。

 僕程度の魔力では師匠の魔力に隠れてしまい、感知するのは難しいらしい。



「元々は、逃亡用の術じゃった。ウサギが足跡を辺りにつけて回って逃げ先を隠すように、魔力によって感知の目隠しをしたのじゃ。ただ、今の魔術師は魔力を感知できんからあまり関係がないの」


「ああ、確かに」



 職業(ジョブ)で魔術師になった者は、どうやら魔力の感知ができないようだった。

 カログラット大森林で戦った兵士達と一緒にいた魔術師もそうだった事を覚えている。



「竜がアホ面を見せておるうちに懐に行け。撹乱は任せたぞ」


「うっへ……今度こそ僕死ぬって」


「良いから早よせんか。何もせねば直径一里の内は皆生き残れんわ」



 師匠に喝を入れられて、少し体が楽になった気がした。いや、楽になったのは心か。

 どちらにせよ、まだ暫くは動けそうだった。


 師匠を竜の懐に下ろす。

 僕から離れればスキルの対象外となるが、ここまで近ければ死角となる。これから僕がうまく注意を引けば、そうそう見つかる事はない。



「気休め程度じゃが、疲労を軽減する魔法をかけた。多少は動けるようになろう」



 楽になったの、喝のおかげじゃなかった。



「分かったら早よ行け。こんなところでチョロチョロしておったら見つかってしまうわ」


「辛辣だなぁ……」



 僕が離れても、竜は師匠に気がつかないようだった。

 当然といえば当然か。人間だって、足元を蜘蛛が這っても気がつかない事もある。



「さて……」



 勝負はここから。

 そして同時に、ここまででもある。


 これまでの全てはここから先のためにあり、ここまできた以上もはや終わらせる他ない。

 成功すればこの事態は終わり、失敗すれば世界が終わる。


 どちらに転ぶか、それは僕と師匠にかかっているのだ。

 あまりにも大きなプレッシャーだが、先程よりも遥かに楽に思える。


 たった一つ、確実に言える事は、僕も師匠も負ける気などさらさらないという事実だけだ。

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