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応戦忍者 其の三

 見上げるほどの巨体。およそ、人の身でどうこうできる範疇を超えている。


 しかし、全く手立てはないのだろうか?


 巨大な肉体、それを動かす筋力、それを覆う鱗、そして圧倒的熱量。

 一見して無敵に思える。

 いや、それでも、全くの無敵などありはしない。

 現に、この竜は勇者に封印されている。


 そこにこそ、この事態解決への糸口がある。



「しゃああああ!!!」



 普段は気合を入れるために声などあげない僕だが、今は大声をあげる。

 それほど必死にならなければならないという事もあるが、竜の気を引きたかったというのが一番だ。



【魔法:武神の加護】



 加護とは、エルフに伝わる秘伝らしい。魔力を放たず、身体能力の向上などに使用するタイプの魔法だ。

 これによって強化された拳を、竜の足へと集中する。

 場所は関節。ダメージにはならなくとも、多少の影響はあるだろう。



『グゥ……!』



 うめいた!

 いや、驚いたのか。


 僕がそのまま竜に攻撃したとしても、効果が見込めるはずがない。

 なので、攻撃は足に絞ったのだ。歩く際に持ち上がり、そして下される時の軸足。少し動けば、たちまちバランスを崩してしまう。


 当然、そんな事で倒せるはずもない。

 まるでダメージにはなっていないようだし、そもそも四足で歩く生物は一本足を弾いたところでそうそう転んでしまう事はない。


 ただ、注意を引く事はできた。今はそれで充分。

 ただ歩くだけで街を燃やし尽くしかねないこの強大な敵を、ほんの数秒でもこの場に釘付けにしておかなくてはならないのだから。



「マグナドラゴぉ!!」


『……!!』



 反応あり。

 流石に知能が高い。自分が人間からなんと呼ばれているのかを把握しているらしい。


 だが、これが常によく働くかといわれればそうではない。

 今だって、駄々をこねる赤ん坊のように暴れ回られでもしたらひとたまりもない。

 反応を示し、僕の存在を認識し、だからこそ僕は無事なのだ。()()()()()()()()を不思議に思うだけの知能があるがために、僕を仕留められないでいる。



【スキル:火遁の術】



 炎の中で姿を隠すというスキル。

 覚えた時は使い時が限られすぎだろと思ったが、今この瞬間にこれ以上適したスキルもそうはない。


 一生を炎に包まれる事によってすごすマグナドラゴに対して、このスキルの使用条件は無に等しい。

 カログラットの森で木の葉隠れの術がアレほど有用だった事を思えば、使用条件を満たしたこのスキルがどれほど強力か理解できるだろう。


 加えて、炎の中にある事を条件とする故に、このスキルの発動中は熱に対して一定の耐性がつく。

 もちろん完全ではないが、これがなかったならマグナドラゴになど近づく事もできなかったろう。僕の魔法で補助を加えれば、充分に実用レベルとなる。


 ……まあ、それでもクソ暑いんだけど。


 竜がキョロキョロと周りを見回しているうちに、もう一度背後に回り込む。

 足音は気にしなくていい。竜は人間の足音などいちいち気にしないだろうし、何よりも轟々と燃えあがる炎が足音など消してしまう。


 さて、ここで使う魔法は一度目と同じではない。それではいけない。

 いくら不意打ちだと言っても、まさか二度も同じ事をして対応できないはずがない。触れたという感覚がしたその瞬間に、その自慢の巨体で振り払われてしまうだろうからだ。

 ただ振り払われる程度だと思うだろうか?

 いや、まさかそんなはずはない。竜の巨躯を思えば、ただ小突いた程度でも僕の体はひしゃげてしまうだろう。


 ならば、今後の一切は竜に触れるべきではない。



【魔法:ランドクエイク】



 これは地盤を一時的に脆くして地震や地盤沈下などを誘発する魔法だが、僕の実力ではそこまでの現象は起こせない。

 炎以外の魔法は苦手なのだ。災害を起こすレベルのはもうなど使えるはずもない。


 だが、今は僕程度でも充分。

 地面の脆弱性は地震を起こすには程遠く、そのままでは地盤を沈まない。その上効果は局所的で、とてもではないが実践に耐えうるレベルにはない。

 しかしそれでいて、これは充分な効力を発揮する。



「こっちだ!!」


『……っ!』



 竜がこちらに気が付いた。

 僕は火遁の術を解き、わざわざ竜から見えやすい位置に移動する。


 暑い、超熱い!!

 なんだこれ熱い!! 暑くない、熱い!!

 考えてなかったけど火遁解いたら熱耐性弱まるじゃん!!


 どうにか焼け死なない程度に魔法で熱を防ぎ、竜が僕の方へ来るようにと誘導する。


 さっさと来いよ! こっちはすぐにでももう一度火遁を使いたくて仕方がないってのに!!


 竜が踏み込む。僕が創った領域に。



『ギゥ!!』


「よっしゃ!」



 僕程度の魔法でも、流石に竜が上に乗ったら地面は落ちる。

 突如落ちた足場に目を白黒させる竜は意外に可愛いが、僕には戯れてあげられる程の余力はない。


 ただ、無理ではないようだ。

 辛うじて、相手をする程度ならできる。



「やってやるさ……!」



 再び炎の中に身を潜め、僕は命懸けの準備をした。

 しかし、命を落とすつもりはない。



「いける……!」



 手応えを感じた。

 この調子なら、充分に対応できる。

 飄々と、悠々と、命を懸けて翻弄してやる。

 それができると、ハッキリ感じた。


 ——そう、もしもその調子が続いたなら。



『ギアゥ!!』


「……!?」



 その時、竜の尻尾が僕の目の前を通り抜けた。

 つい今し方まで僕の事をキョロキョロと探していた竜が、僕の眼前へと攻撃を合わせた。

 わずかに逸れはしたものの、もしもあと数メートル手前だったなら僕の命は失われていた。避けられるような速度ではない。


 コイツ……!!


 僕の事を、()()()()()()()

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