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本領忍者 其の二

「おい、どうだったんだ」



 冒険者が、僕に問い掛ける。



「逃げられちまった。あとの二人はまだ追い掛けてる」


「そうか、随分すばしっこいやつだな」



 気付かれてはいない。

 だとすれば、今日の僕はすごくついている。


 作戦の第二段階とは、ずばり変化の術で冒険者たちに潜り込む事。

 しかし、これがかなり難しかった。


 変化の術は、誰か特定個人になるのは難しいのだ。


 例えば輪郭や顔の造形、身長や立ち居振る舞い、そのような要素から、どうしても違和感が拭えないのだ。

 もしかしたら練度によって解決する問題なのかもしれないが、僕はまだそのレベルにない。

 特に、警戒心の強い冒険者ならば騙すのは難しいだろう。


 だから、僕が変化したのは倒した3人のうちの誰でもない。


 より正確に言うのなら、あの3人の特徴を混ぜたような顔になっているはずだ。

 例えば目鼻立ちが、例えば輪郭が、例えば口元が、ほんの少しずつ彼らに似ている。


 この場にいる冒険者は、全員が見覚えを感じるはずだ。

 しかし、誰も僕の顔を見た事がない。当然だ、初めて会うのだから。

 なので、別のチームの人間なのかと思う事だろう。別チームと嫌々任務に当たっている連中が、互いの顔を正確に覚えているとは思えなかった。



「……お前は何で戻ってきたんだ?」



 警戒心の強い言葉。

 しかし、確信ではない。確信があるのなら、わざわざ問い掛ける必要などないからだ。


 つまり、彼らは僕がこの場所にいなかった人物であると気が付いていない。


 正直、かなり賭けだった。

 もしかしたら一瞬でバレてしまうのかもしれないと考えて、心臓が刻まれてしまったかと思うほどの苦痛を感じていた。

 今でもまだ痛い。それを悟られないように平静を装うのは、中々に大変な事だ。


 しかし、僕の芝居はまだ続く。


 たったこれだけでは、宝具の返品を完了していないのだから。



「いや、アイツはまだ仲間がいるらしかったからな。それを伝えにきた」


「複数犯か。ちっ、面倒な事してくれるぜ」



 適当な事を言って、仲間に潜り込む。

 今はまだしばらくこうしている必要がある。こうして、少しばかり付き合う。



「それにしても、こんな石っころのために何でこんな必死にならなきゃならねんだよ」



 宝具を指差して言う。

 もちろん、それがただの綺麗なだけの石でない事など承知の上だが、会話を介してほんの少しでも宝具に近付く必要があるのだ。



「石じゃねぇよ、金のためだ。俺たちは金のために働くし、金のためなら命をかける」


「まあ、そりゃそうなんだけどよ」


「下らねぇ事言ってねえでさっさと外に出ろ。交代までジッとしてろよ」


「はいはい、分かりましたよ」



 ほんの少しでも近付いた。

 これを彼ら全てに認識させる。

 これは、後で大きく響いてくるはずなのだ。


 しかし、思いもよらぬ事というのは、こういう時にばかり起こるものだ。



「全く、宵闇は仕事が雑でイケねぇや」


「は?」



 やっべ……



「テメエ何モンだぁ!」


「ノータイムか。めっちゃ反応早いな」



 例えば「コイツはうちの仲間じゃねえぜ」とか「お前の仲間じゃねえのか」とかそういう確認作業が一切なく、冒険者は全員臨戦態勢に入った。

 経験だ。割と抜けている集団なのかと思っていたが、やはり僕とは経験が違う。


 この状況、仮に勘違いだったらそれでも良いのだ。

 もしも勘違いだったら、どちらかのチームが僕の事を庇うはずなのだから。つまり「彼は自分の仲間だよ」と。


 どちらのチームからも、誰からもそんな言葉が上がらないのであれば、僕は間違いなく不審者だ。

 ここに集まっている者の中で、誰一人と面識のない者などいようはずもないのだから。


 しかし、当然僕だってこの展開を全く予想していなかったわけじゃあない。


 全員の目が僕に向いている瞬間。つまり今、誰もが宝具の方への意識を手放している。



「僕に気を取られすぎだよ」


「は? ……!?」



 言葉を話し、注意を引く。

 この瞬間が、これまでの間で最も大きな隙だ。


 僕は彼らに「逃げた奴は仲間がいるらしい」と言っている。「それを伝えるために戻ったのだ」と。

 彼らは、僕が偽物であると分かった時点でこれを嘘だと判断しているのだ。後者が偽りであったために、これまでの全てが偽りであると。


 つまり、彼らは僕が単独犯であると思っている。

 無自覚に、潜在的にそう刷り込まれている。


 その油断が大きなものになるのだ。

 なにせ僕には、師匠がいるのだから。


 僕に気を取られているその瞬間、彼らの認識の外から魔法が飛来する。

 目に写りづらい風の魔法は、師匠ほどの魔術師が使えば鋭利に刃物となる。


 その刃は、()()()()()()()()()()()()()()()()



「何ぃ!?」


「宝具が!」



 彼らは夜だという事も構わずに声を上げる。

 それもそのはず。彼らの目には、木像ごと真っ二つになった宝具がはっきりと見えているのだから。

 まさか、僕たちがそれを傷つけるなどとは思ってもみなかったのだろう。

 その油断が、この事態を招いたのだ。



「じゃ、僕はこれで」



 僕から意識が逸れたところで、ここぞとばかりに逃げ出した。

 反応が遅れた冒険者たちは、二拍か三拍を置いてようやく声を出す。



「捕まえろ!!」


「分かってんだよ!」



 分かってなどいるものか。

 僕が逃げると決めた以上、彼らに捕まえられるはずがないのだ。

 なにせ、僕はニンジャなのだから。

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