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本領忍者 其の一

 深夜。


 草木も眠るとはよく言ったもので、時折風が吹く音が聞こえてくる程度の静寂が街を支配している。

 そんな中では、自分の足音が恐ろしく大きく感じてしまう。隠密が目的である現在においては、精神衛生上非常に良くない。



【スキル:抜き足】



 この街に来て間もなく手に入れたスキルだ。

 僕自身の足音を消してくれる。


 どうでも良いけど、ニンジャって本当に攻撃用のスキル覚えないんだな。


 これで、できるだけ倒竜堂に近付く。

 英雄譚に出てくる暗殺者のような、闇に溶ける技術なんてない。そういうのは、ヴァンパイアの領分だ。

 なので、これが僕にできる最大の隠密であるといえる。



「……?」


「どうかしたか?」



 見張りの冒険者が、僕の方を見た。とっさに隠れなかったら見つかっていただろう。

 流石に節穴ではないらしい。


 そもそも、経験を積んだ冒険者とスキル頼りの僕では実力に差があるのだ。

 姿を完全に消す木の葉隠れの術はこの場所では使えず、足音を消していても呼吸音までは抑えられない。

 彼らにとっては、充分に容易い相手だろう。


 唯一僕に有利な点といえば、これが完全に奇襲であるという事だけだ。

 不意を打つ以上、つまり彼らは臨戦態勢にない。



「気のせいみたいだ」



 事実、そうして僕の事を発見できなかった。

 もしも彼らが僕の存在を知っていれば、間違いなく発見されていた。こここそが唯一僕の有利な条件(アドバンテージ)

 これを考えれば、僕の目的を達成する事は不可能ではない。


 しかし、それでも彼らは熟練の冒険者。

 多少近付く事はできたとしても、その距離が近付けば近付くほどに難易度は高くなる。


 おそらく、今僕がいる場所が限界だろう。これ以上一歩でも近付けば、たちまち発見されてしまう。

 その上、この場所でも完全に安全地帯とはいえない。

 彼らは常に見回っており、それに伴って死角も移動し続けているからだ。


 これ以上、近付く事はできない。

 少なくとも、僕の実力では。


 しかしそれでも、ここで眺めているだけで解決する問題でない事は明らかだ。


 僕は、意を決してその場から一歩踏み出した。



「貴様、何者だ!」



 やっべ、速攻見つかった。



「待て!」



 待てと言われて待つ人間がいるはずもない。

 冒険者のうち3人が、僕の背後へピタリと迫る。


 僕自身足には自信がある方だが、身体を頑丈な防具で覆った上で僕に迫る彼らはものが違う。

 当然僕も必死なので追いつかせてやる事はできないが、それでも内心ではとても感心している。



「あいつは殺して良いんだろ?」


「かまわん、どうせ無法者だ!」


「やったぜ、ぶっ殺してやる!!」



 感心を取り消そう。

 人間としてはあまり褒められた人格をしていないらしい。


 単純で、単調で、良くいえば素直。

 搦手に弱いタイプだ。



【スキル:木の葉隠れの術】


「何!?」



 何故僕が馬鹿みたいに逃げ出していたのか。

 勝てるわけでもないのに姿を現して、結局逃亡していた理由がここにある。


 スキルが使えるところまで、おびき寄せていたのだ。


 当然、街中のそんな都合のいい場所をあらかじめ把握していたわけではない。

 僕は街中でこんなスキルを使う予定なんてなかったし、何よりも観光地であるこの街には木の葉が集まっている場所が少なかったのだ。

 落ちていたとしても踏み荒らされ、崩れ、スキルの使用には足りない場所ばかり。


 なので、僕は多少の一計を案じた。


 子供たちに協力させて、街中から木の葉を集めさせたのだ。

 それを、あらかじめ伝えてあった場所まで運ばせる。

 これで、無理矢理にスキルの使用条件を満たした。


 あまり範囲は広くないが、これだけでも充分な効果を発揮する。

 スキルによって足音を消せるようになった僕の木の葉隠れは、森にいた頃とは比べ物にならないレベルへと昇華した。

 驚いてその場に立ち尽くす冒険者の不意を打つ事くらい、もはやわけない事なのだ。



「…………」



 声を出さずに、落ちていた石を拾って上空へと投げる。

 弧を描くように、直上よりも少しずらして。


 やがて重力に耐えかねた石は地面に引かれ、緩やかな加速度をもって落下する。

 何を狙ったわけでもない。ただ投げただけの石だ。

 それはどこかの茂みに落ちて、ガサガサといった音を出すのだ。


 静寂の中にあって、それはそれは気を引く音だった。



「そこか……! ぅ!?」


「ぐぁ!?」


「なんだ……!? ぉッ」


「残念外れ」



 容易い、容易い。

 あまりに容易い。


 まんまと僕に背中を見せた冒険者の意識を奪う事など、赤ん坊の手を捻るほどに容易い事だ。


 懸念がなかったわけではないが、少なくとも仕損じる事はなかった。

 難しいのは、むしろここからだ。


 作戦の第二段階。

 即席で立てた作戦の、最も難しいところだ。

 なにせ、ほとんど運任せとすら言えるのだから。

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