焦燥忍者
「これ、知らんぷりはできねっすかね……?」
「お前ちょっと黙れ」
「せめてそのない頭使って」
「どこまで恥をさらせば気が済むんじゃ」
「子供たちが不憫でならないね」
「そこまで言うっすかぁ!?!??」
まあ、半分くらいはノリで言ったところあるよね。
正直、言わんとしている事は理解できる。
今のままで問題が起きていないのなら、現状維持を望んでも仕方がないだろう。
なにせ、本物の宝具がこの場にあるという事を知っているのは、この場にいる者だけなのだから。
ただ、それはこの事実を知る人間が未来永劫増えない場合の話である。
「……五年だ」
「は?」
僕の言葉を理解できない山賊が、随分大きな疑問符を浮かべる。
そうだろう、知らないだろう。こんな事、いちいち民間に周知されているはずがない。
必要がない、意味がない、しょうがない。
「五年おきに、国内で確認されている宝具は、その真偽を定めるための検査が義務付けられている。これは、賢者ジェレミー・アトウッドが自ら足を運んで行われるんだ。まず間違いなく……ごまかしは効かない」
「え、それはつまり……?」
「わからんか? 見つかるんじゃよ、これは。知らん顔などしておられんぞ」
やはり知らなかった。
そうでなくては、知らんぷりしようなどと出てくるはずもないのだ。
「えっと……ちなみに、その検査まであとどれくらいなんすか……?」
「詳しくは知らない。何月何日なのかとか。でも、あんまり長くはないな。なにせ、前回の検査は五年前だ」
山賊の顔が引きつる。僕だって引きつっているかもしれない。
「あの、じゃあなんすけど……悪い事なのは承知なんすけど……仕方なくなんすけど……」
「歯切れが悪いの、さっさと言ったらどうじゃ」
「いやえっと……これ捨てちゃダメっすかね?」
……なるほど盲点だ。
持っているから疑われるんだ。捨てればただの紛失として扱われる。
いやしかし、多くの場合、問題とはそう簡単に解決できないものだ。
「無理じゃよ。やめといた方がいい」
この中で一番宝具に詳しいらしい師匠が、ハッキリと否定したのだ。
「主らはそれに触れとるじゃろう。宝具と呼ばれる魔導具は、所持者の魔力を干渉させる関係上、それに触れた者を追跡できるのじゃ。その宝具ならば、過去二百人ほどは遡れるじゃろう。ぬしらに辿り着くのはそう難しくない」
「二百人以上が宝具に触れば……」
「現実的か?」
「……いいえ」
山賊がしょぼくれる。
ビックリするくらい肩を落としている。
別に可哀想とは思わないけど。
「あの、じゃあ……もっと悪いんすけど……」
こいつ次から次に悪い考え浮かぶな。
さすが山賊だけある。
「粉々に壊すってのは……」
「悪党」
「恥を知れ」
「そうっすけどぉ……言われるのもわかるっすけどぉ……」
いやしかし、かなり現実的かも知れない。
当然、今置いてある宝具は偽物であると知られるだろうが、山賊の手元にはもう宝具はないのだ。疑われる余地などないではないか。
だが、この意見を否定したのも師匠だった。
「この街のためにもやめておけ」
「? 珍しいですね。師匠がそんな事を言うなんて」
「ぬしは私をなんと思うとるんじゃ。別に誰かが悲しむからなんぞ言っとるわけではないぞ」
「なるほど、安心した」
「ぬしは私をなんと思うとるんじゃ」
決して、断じて、悪逆はどうだと思っているわけではない。
ただ、街のために善意でそんな事を言うような人ならば、街のシンボルが偽物であるという事を無視しようなどとは言わないはずだ。
「別の物ならば良い、壊さなければ良い、しかし、この宝具を壊す事だけはしてはならん。一眼見てわかったわ。この宝具に、豊穣の力など微塵もありはせん」
周りくどい。物凄く周りくどい。
しかし、それを言うと「お約束なのじゃ!」と機嫌が悪くなるので言わないようにする。
こういった些細な気遣いが、僕が良き弟子たる所以だ。
「だったら、この宝具には一体どんな力が……?」
こうやって促す。
なんだ? 僕は気遣い名人か?
「封印じゃな。勇者が倒した竜がこの宝具で封印されておる」
「つまり壊すと……」
「竜が出る」
「壊すのは無しにするっす! 誰だ、こんな大事な物を雑な保管してたのは!??」
「鏡があれば見せてあげられたのになぁ、そいつの顔」
手詰まりだ。
僕らの手元にあるこれは、捨てようとも壊そうとも僕たちに不幸をもたらす。
山賊はもちろん、なぜか僕たちまで見舞われるのだ。
罪人となるか、竜に食い殺されるか。
二つに一つだというのなら、どちらかと言えば前者の方がマシにも思える。
……いや。
「……だったら、打てる手は一つだね」
「そうじゃ。面倒じゃが仕方あるまい」
「返さなきゃね、この宝具」




