疲弊忍者
「師匠……師匠……? 次からせめて周りを気にして怒ってください」
「反省はしておるが、保障はできんの」
「周りに迷惑かからなかったら俺は殺してもいいみたいに聞こえるんですが……」
「なんじゃ、見た目よりも利口なんじゃな」
「酷い!?」
クソ怒ってる師匠を鎮めるのは、驚くほどの労力を使った。
おかげでヘロヘロだ。
なんなら死ぬかとすら思った。
「一度腹を立てると、次からも腹が立つものじゃ。じゃから二度と姿を現すなと言ったろう」
「……言ったっけ?」
「いや、俺の記憶には……あ、はい、何でもないです」
師匠が杖を向けるので、山賊は急いで言葉を訂正した。
「俺、言われた通りちゃんと働こうと思ったんすけど、どこにも置いてもらえなくて」
「貴様のようなやつはいない方がマシじゃからの」
「師匠黙って」
「だから、自分で稼ぐしかないと思ったんす」
「いや、貴様は死ぬべきじゃと思うぞ」
「黙れって言ってんだろ」
師匠が口を挟んだが、ともかく話はわかった。
なるほど彼なりに考えて、どうにか更生しようとしているのだ。
いやぁ、立派だ。
願わくば、このままこの店が続けばいいと思う。
思っていたのに——
「一応聞くが、この店許可は下りておるのか?」
「…………」
師匠の言葉に、詰まる山賊。
え? マジ?
「いやあ、この辺の申請厳しくてえ。俺じゃあなかなか通んねえんすよ」
「貴様はいつまで無法者なんじゃ」
「擁護不能」
「唯一の味方だった兄さんが向こう側に!!」
いや、これは仕方ないだろう。
捕まったって文句が言えない状況だ。
というか、多分すぐに捕まる。
「おい貴様ら、許可証を出せ」
ほら来た。
随分と高圧的な憲兵が人だかりを割ってきて、間髪入れずにそう言った。
全く失礼な物言いだが、今この時に関しては彼の態度は正しい。なにせ、目の前にいるのは犯罪者だ。
……コイツ貴様らって言った?
「おい、早く出せ。3人ともお縄につきたいか?」
「やべえ!? 逃げますよ兄さん姉さん!!」
何僕たちの事呼んでんだよこの脳足りん!?
憲兵さん完全に僕たちが共犯だと思っちゃっただろ!!
僕たちの心配などよそに駆けていく山賊の背中を見て、心底腹が立った。どうやら初めから見つかる事は考慮済みなようで、露店の店舗は車輪付きの可動式だった。
よくもまあこんな物を押して走れる物だと感心するが、今はそれよりも怒りの方が強く感じる。
「テメェふざけんなよ!?」
「よっぽど死にたいようじゃなクソガキィ!!」
「この人達憲兵より怖い!?」
もう僕は師匠の味方だ。
彼が今後、雷の五月雨に打たれそうになったとしても助けない。
「待て貴様ら!」
お怒りの憲兵さんの前ではとりあえず逃げるほかないが、後で覚えていてもらうしかない。
「おい、アラン。今宵は明るいかのう?」
「確か新月だよ師匠。とびきり暗い夜になる」
「とびきり辛い夜になる気がするんですがね!?」
土地勘のない場所で逃げ回るのは無理なので、差し当たって山賊についていく事にする。
これで逃げ切れたなら御の字だし、逃げられなかったら“責任”を取ってもらう事になる。
まあ、どうせ師匠は最後と手段として実力で逃げ切るだろうし、僕もそれについていくので捕まる事はない。
「こっちっす、こっちっす! 急いでください!」
「偉そうに言ってんなよ誰のせい——!?」
「立ち止まった時が貴様の最後——ッ!!」
言われるがままに路地裏へと曲がると、急に行手が遮られた。
罠か!? そう思った瞬間には、今度は背後に壁ができる。
「……静かに」
立ち止まり、言われた通りに息を潜める。
足音が壁の向こう側まで近づくと、緊張がより一層高まった。
「どこ行きやがった!」
「おい、こっちに来たのは確かなんだろうな!」
そんな声が聞こえるが、やがて足音は遠ざかっていく。
完全に気配が消えたところで、ようやく僕たちは深く息を吸う事ができた。
「兄さん姉さん、もう大丈夫っすよ」
山賊がそう言う背後で、小さな人影がわらわらと動いた。
「みんな!偽壁の設置、ご苦労だったぞ! 前よりも随分手際が良くなった!」
「本当かい、にいちゃん!」
「やったー!」
その影は、師匠よりも少し背が高い程度の子供だ。それも大勢。小汚いストリートチルドレンたちが、肌を寄せ合って窮屈そうに生活している。
この場所は一見すると建物の中。
しかし、僕たちは走ってこの中に入った。扉を開けてはいないし、当然閉めてもいない。
それでいて、背後には壁が設置されている。おそらくは、緊急避難用のカラクリがなされた隠れ家なのだろう。
「紹介するっす。俺の家族だ!」
山賊はそう言う。
それは、今まで見た中で一番の笑顔だった。




