混乱忍者
ガラス玉……? ガラス……ガラ……? え……?
師匠がなんと言ったのかわからず、意味もなく目を泳がせてしまう。
「……さっさとここを出るぞ。いる意味がなくなってしもうたわ」
「え、はい」
お堂の出入り口には係りの人間が数人おり、うまく人を流しているようだった。
なるほど思ったよりも早く中へ入れたわけだ。道理で人の流れが淀みない。
いや、今はそんな事はどうだっていい。
「師匠、どういう事ですか?」
「どうもこうもあるか。言葉の通り、贋作なのじゃよ。古い伝承を持つ宝具には珍しくもない、全くの偽物……じゃったら良いんじゃが」
なんで不穏な言葉付け足すんだこの人。
「何かあるんですか……?」
「いや分からん。もしも、宝具の話など初めから嘘っぱちで、あそこにはずっと偽物が置かれておったというのなら何も問題はない。しかしの、もしそうでなかったなら、大変な事やもしれん」
めっちゃ濁すやん、言葉。
ただ、その言葉を軽んじる事はできない。
なにせ、あの宝具が偽物であるはずなどないのだから。
「……師匠、一ついいですか?」
「思うところがあるんじゃな。言ってみろ」
「はい……あれは、五年くらい前だったと思います。師匠が言うように、ただのガラクタを宝具と偽る事件があったんです。トゥーロンという港町の事でした」
「なるほど、千年前にも同じ事はよく聞いた。世界は変わらぬものじゃの」
「いや、重要なのはその後なんです。この件を重く捉えたクリスティア王は、賢者ジェレミー・アトウッドに国中の宝具を検めるよう命じました」
「ほほう、なるほど。話が見えてきおったわ」
賢者はその後、執務の合間を縫って国内の宝具の鑑定を行った。
当然多忙な男である故、それは長く時間を有する。
この命は受けてから遂行まで、実に四年の時間をかけたが、しかしそれでも想定よりはるかに早く終わった方だ。
つまり、約一年前に国中の宝具の実在性は明らかとなっているのだ。
「この街の宝具が偽物であるはずがありません。もしそうなら、今こうして飾っていられるはずがないんです」
この事実はすなわち、少なくとも五年前の時点では本物であったという事。五年前の時点で偽物であったならば、既にその事は知られているだろうからだ。
にもかかわらず今の宝具が偽物であるのなら、それの理由は一つしか考えられない。
「すり替えられておる。あるいは悪意を持って」
どのような理由をもってそんな事をするのか、皆目見当もつかない。
しかし少なくとも、それが善意であるようには思えなかった。
「ど、どうしましょう師匠……」
「どうもこうも、何をする必要がある。何かをする義理があるのか?」
「……まあ、そうですね」
「私達は正義の味方ではないし、どうやら誰もあの贋物に気が付いておらんようじゃ。ならば、わざわざ事を荒立てる事もあるまい」
師匠の言い分はもっともであるように思えた。
そもそも気が付いていないのなら、あの堂を管理している者は真贋の区別がつかないのかもしれない。もしも僕達が贋物であると言ったとしても、それを信じてもらえるかは怪しいところだ。
そして、区別がついた上で放置しているのなら、それこそ言う必要はない。僕たちが分からない理由によってそのままにしているのだろうと予想できるからだ。
「知ったこっちゃないわ。折角の観光じゃぞ? そんな事に時間を割きたくないの」
「辛辣……! でもまあ、放置が最善という事もあるか」
「そういう事じゃ」
アレが贋物であるとバレれば、この街の観光事業はどうなってしまうだろうか。
世の中、偽りを全て暴いてしまえばいいというものでもない。今が平和なのなら、知らぬ顔をする事が善行である事もある。
「見ろ! ちょうど宝具と瓜二つの土産が売っておるぞ!」
「ああ、欲しいんですね。はい、買いましょう買いましょう」
「遅れるなアラン!」
「はぁ〜い」
年甲斐もなくはしゃいでいる師匠の姿は、どうしようもなく見た目通りだ。
これを言ったら怒るから絶対に言わないけど。
「店主! これはいくらじゃ……」
「まいどあ、り……」
「どうしました師匠……? ……あ」
奇遇、と言うには特に嬉しくもない再会。
少し不格好な造りの露店には、僕らが多少見知った顔があったのだ。
「貴様、山賊の……」
「い、今は真面目に働いてますぜ!?」
僕たちが……というより師匠が滅した山賊の男が、似合わない笑顔をその顔に貼り付けて接客をしていた。
どうやら、真面目に働くと言った約束を果たしているようだ。
まあ、果たしているといっても昨日の今日なのだが。
「貴様、よくも私の前に顔を出せたものじゃの」
「怒り方理不尽過ぎか!? 待てババア!! 殺してしまうぞ!?」
「ひぃ!? 死にたくない!!」
なんで急にキレたんだよ!
まだコイツ何もしてないだろ!!




