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街入り忍者

「見よアラン! 街じゃ!」


「わー、すごーい」



 思ったよりも遥かに早く、僕らは次の街に訪れていた。


 代りに、一人の悪人が犠牲になったわけだが。



「姉さん……喜んでもらえましたか……」


「話しかけるな下郎」


「いつまで殺意に満ち溢れてるつもりだババア」



 彼は、もう笑顔以外の表情をしなくなってしまった。その上目が死んでいる。ここまでの案内は元より、その道中の細やかな雑用まで全て押し付けてこき使われた。

 彼が悪人なのは言うまでもない事だが、ここまで疲れ切った様子を見るのは不便に思ってしまう。



「もう足を洗って、真面目に生きていくと良いよ」


「はい……兄さん……ありがとうございます……!」



 いや、誰が兄さんだよ。お前のが歳上だろうが。


 この人はきっと影響されやすいんだろうな。僕や師匠の言葉にいちいち影響されてる。

 多分また山賊になるよ。



「貴様など更生できるものか」


「僕が言わなかった事にわざわざトゲを追加しないで!」



 このまま一緒にいるとふとした拍子に師匠がトドメを差しかねないので、彼とはここでお別れとなった。

 心なしか早足で街に入る彼の背中は、驚くほど疲れているように見えた。

 いや当然疲れているんだけどね。



「ふん、邪魔者がようやくいなくなりおったわ」


「マジで言ってんのかロリババア」



 お前が半ば連れ去り気味に連れ出してこきつかったんだろうが。



「まず、ここがどこなのか知らねばならんのう。アラン、ぬしに心当たりはないのか?」


「ちょっと見て回りましょう。もしかしたらわかる事もあるかもしれません」



 地図があれば解決なのだが、そんな物が民間に出回っているはずもない。

 地形情報は、それだけ重要なのだ。それは国家で厳重に管理されており、貴族であった僕ですらほとんど目にした事がない。

 僕が今目にしている全ての人間は、おそらく地図なんて物を目にした事すらないだろう。



「随分と人が多いのう。ここは観光地か?」



 師匠が言うように、人通りがすごく多い。

 その上、どうやら街自体がかなり広いようだ。道の広さや建物の大きさからそのように感じる。

 もしもこの街全部を見て回るとすれば、かなりの時間がかかると予想された。


 ただ、今回はその心配はいらないようだ。

 少し街の奥へ進んだら、一つ気がついた事があった。



「アラン、ぬしも気が付いたか?」


「ああ、師匠もですか」


「硫黄の匂いじゃ。空気も湿っていて、少し重く感じるの」



 僕が気が付いた事と同じだ。

 それと、ここが無権領域から徒歩で三日以内の場所であるという事を加味すれば、ある程度心当たりはついてくる。



「多分、オルネオの街ですね。昔、父上と一緒に来た事がある」



 幸運だった。

 僕たちはとにかく最寄りの街へと来たために、もしかしたら王都とは反対方向に行っているのではないかと心配していたのだ。

 ただ、それは杞憂だったらしい。オルネオなら、確か王都へは直通の馬車が出ていたはずである。


 そしてもう一つ、この街には大きな特色がある。

 硫黄と、独特の湿気。どうやら、師匠も気が付いている。



「温泉か。良いのう、丁度汚れが気になってきたところじゃ」


「だったら期待して良いですよ。オルネオは、クリスティア国内でも一番有名な温泉街です」

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