撃退忍者
森を出てから(というか破壊してから)、僕と師匠の目的は概ね一致していた。
「私は世を見て回る」
つまるところ、世界旅行である。
僕の最終目標は生まれ故郷である王都にあるのだが、馬で来た道を人の脚で踏破するには時間がかかる。
直線距離上には町もなく、今はもう使われていないような古びた街道を延々と歩き続けなくてはならなくなってしまうのだ。
ならば、街を巡りつつ王都を目指すしかない。
「道中で修行もできるでの。一石二鳥というやつじゃ。王都につくまでに、勇者を超えねばならんの」
師匠は、わりとその時の気分で話す。
ユグドラルトレントを倒す時も、何かと付けてきた理由は全て戦ってみたいという前提を補強する後付けなのだった。
「そんな短時間で……」
「できるさ、やるさ、やらせるさ」
「いや死ぬが」
そんな会話をして、僕たちは街道をやや逸れたところを歩いていた。
街道を直接歩いたりはしない。もしもハミルトン家の私兵がこの道を来た時、すぐさま身を隠せるようにだ。
なので、すぐそばに森や岩場のような隠れる場所が多そうな道を選んでいる。
「野宿はすぐそこの森ですれば事足りよう」
「何せ慣れていますしね、師匠は」
「森から出てすぐに森へ入るというのは、少々奇妙な気もするがの」
しかし、森で野宿が一番理にかなっている事は確かだ。
野生動物程度の脅威は僕達に関係がないし、姿を隠す上ではどこよりも適している。
何より、日陰で寝られるのが良い。
目に当たった日の光で起きるのはちょっと苦手だ。
ただ一つ気になるのは……
「おい、兄ちゃん嬢ちゃん。金目の物置いてきな」
「…………」
隠れる場所が多いという事の弊害。
僕がハミルトン家の兵士から姿を隠しているように、憲兵から姿を隠したい者もまた同じような場所にいる。
「こういう連中は千年の間で絶滅しとるもんかと思っとったわ」
師匠がため息をつく。
最初の声を合図として、5人ばかりの男たちが僕達の周りを取り囲む。
「なんならさらに千年経ってもいる気がしてならないですがね」
「そんなもんかのう」
英雄譚なんかで出てくる人類の大敵はだいたい「愚かな人間どもよ」って言うけれど、人間は愚かかどうかはともかくとして愚かな人間はいつまでもいる。
まあ、僕自身そんな褒められるような人間ではないけれど。
「テメエらこのままティーブレイクでもするつもりかあ? こいつがなんなのか分かんねえのかよ」
最初の男が手に持った棍棒をこれ見よがしに振るって見せると、それに倣って他の連中も得物を取り出す。
親の真似をする小動物みたいでちょっと微笑ましい。
「師匠、今度は止めないで下さいね」
「なんじゃい、一体」
「こいつらは僕がやる」
ようやく言えた。
実は、昔から一度行ってみたかった言葉だったのだ。
「別に止めんわ、好きにせい。此奴ら程度ならば、それぞれが3ダースずつおってもぬしの相手にはなるまい」
「んだとクソガキ!!」
「誰がクソガキじゃとぉ!?」
「師匠!? 僕がやるって今言ったのに!?」
おっかしいな、かっこよく決めるはずだったんだけど……
師匠が起こした豪雷と、業火と、轟音と、豪風と、あとは隆起した地面やそれらの二次災害によって、哀れなならず者たちはボロ布になった。
10秒もない程度の災害だったが、人間を相手にするにはあまりにも過剰な暴力。
……いや、これ死んでないかな?
「ぅ……!!」
あ、息してるわ。
よかったよかった
「起きろ塵芥!!」
「殺す気かババア!?」
この人年寄り扱いしてもダメなのに子供扱いしてもキレるのかよ! めんどくせえ事この上ないな!?
「アラン、繊細なレディーの心を蔑ろにすれば貴様もこうなる。心するのじゃ」
千年の間にそういう感性は克服しとけよババア!
「顔に出ておるぞ!!」
「ごめんなさい!!」
師匠めんどくせえ!
「それで、こいつらはどうするんですか? まさか晩飯にするわけではないんでしょう?」
「当たり前じゃ、人を妖怪扱いするでないわ。こんな薄汚いゴミカス蛆虫にも辛うじて奇跡的に馬糞程度の価値がある」
「貶しすぎだろ、流石に」
「此奴らは長くここで旅人に被害を出してきた悪党じゃぞ。どれほど言っても言い足りんわ」
「こいつらがここで長く活動してたのかなんて知らないし、今回被害を出したのは師匠の方だよ。森に」
「知らんわその辺の木片の事など」
「木片にしたのお前な?」
僕達の周りには、師匠が10秒間だけ暴れた痕跡が残っている。
直径10メートルほど、森の木々が生えていない空間ができてしまっているのだ。
「少なくとも、こいつらは私が森を出て初めて会った人間じゃ。人間と認めるのは業腹じゃがの」
「まだ言うか。で、それがどうかしたんですか?」
「つまりは近くに人間が住む場所があるという事じゃ。此奴らも生活の全てをこの森で賄う事などできまいて」
「ああ、はいはいなるほど。案内させると」
「あとは金目の物を根こそぎ頂く」
「山賊じゃねえか!」
「山賊は此奴らじゃよ」
いや、少しは悪びれろ。千年で克服したのは罪悪感だけかよ。
「決まれば急げ、アラン。私は早う人に会いたいのじゃ」
言いながら、師匠は山賊を杖で殴って叩き起こす。
小突くなんてものじゃあない。全力で殴っている。
あれ、いよいよ死ぬんじゃあないかな?




