ユメタロウ 覚醒その①
森の中、オークとオーガが注視する先、強烈な光が、地面から迸る。
光の中に、ゆらりと浮かぶ人型のシルエット。それは不鮮明でありながら、光の中で存在を主張していた。
光が弱まり、シルエットが形となってゆく。確かな実体を伴って。
「な、なんだお前…さっきの人間はどこに行ったブ!?」
オークの一体が、わけもわからず喚いた。
それに答える者は誰もいない。
彼らの目の前にあった光は既に消え、その場所には、光の中に浮かんだシルエットの持ち主が立っているだけだった。
「ほう…」
オーガの戦士ゾガンは、興味深そうに呟く。
それは、細身であった。人の形をしていて、全身は青く、一部が緑で、また一部は赤かった。衣服を着ているというよりは、肉体そのものといった様子であった。
それの顔相は、人のものとは大きく違っていた。バイクのヘルメットか、プロレスラーのマスクか、あるいはその両方の特徴を持っていた。
そして、目であろう部分は、横に歪めた逆三角形のような形をしていて、煮えたぎるマグマの如く赤く輝いている。
「てめぇ、何者だブ!」
オークが片手斧を振り上げ、その存在に振り下ろす。
しかし、瞬きよりも速い動作で、斧は避けられた。
「ブ?!」
見開かれた目。驚愕するオーク達。
現れた人型は、攻撃してきたオークの顔面に、右の拳を突き入れた。
拳の握り方も、振り方も、全くなっちゃいない。しかしそれ故に、その存在が振るうパワーとスピードは、その場で強く発現した。
「ぷぎぃあッ」
断末魔の叫び声。顔を殴られたオークが、真後ろに倒れた。
その豚顔は、目に見えるほど窪んでいた。拳によるものだ。
「なんっ…てめぇええ!」
「この野郎ッ!」
仲間が死に、激昂する残りのオーク。
怪物二匹を前にして、しかしユメタロウの心は落ち着いていた。
森林浴をしているかのような感覚が、彼を包んでいた。
「貴方に力を与えた」
「僕に…力を?」
体の色が変わり、頭部の形状が変わったことを、ユメタロウ自身は認識していた。
しかし、その肉体の操り方は、今までと変わらない。むしろ、よく動く分、この変化した体の方が自由であった。
「その力は、ガーディアンの力。その力で、多くの命を救って。守って」
ユメタロウの脳内に、大地の声がリフレインする。
土が、山が、地が、彼に与えた力のことを、教えてくれている。
「ガーディアン…それが、名前…!」
飛びかかってくるオーク。振るわれた棍棒は、しかしガーディアンに一切のダメージを与えてはいなかった。
大木を小枝で叩くように、ビクともしない。
「ブヒ!?」
困惑するオークの腹に、ガーディアンが振るった右ストレートが潜り込む。
脂肪と筋肉で膨らんだ大きな太鼓腹は、綿の塊に手を埋めたようにへこんだ。
派手に吹っ飛んで、木に叩き付けられるオーク。既に息絶え、ピクリとも動かない。
「ブヒ、ブヒィイイイイ!」
最後の一体のオークが槍で突き刺そうとするも、穂先を掴まれる。
槍は押しても引いても動かず、ガーディアンが手を捻ると、あっさりとへし折れた。
そしてガーディアンは、ひらりと飛び上がると、オークの胸に片足を叩き付けた。
「ブ!?」
情けない声をあげ、オークが森の向こうに吹っ飛ぶ。
他の二体同様、ガーディアンの一撃で死んだのは確かなようだった。
瞬く間に三体のオークを打ち倒したガーディアン。それを眺めながら、ゾガンと呼ばれたオーガは笑みを浮かべた。
「素晴らしいじゃないか」
「わぁっ!!」
今にもかぶりつこうとしていた人間の子供を雑に放り捨て、佇むガーディアンににじり寄る。
鬼瓦のような顔面には、ニタニタとした笑いが浮かぶ。
「オークなぞ歯牙にもかけぬパワー、スピード、ディフェンス。これ程の奴が存在するとは…偵察にかこつけて本隊から離れた甲斐があったというもの!」
オーガというのは戦闘民族だ。戦いのなかに己を見出だす武士達。
今、その典型であるゾガンの中にあるのは、強敵に出会った喜びに違いない。
ならば、今彼の顔にある笑みは狂喜に近い。
「何故貧弱な人間が化けたのかはわからんが…」
ゾガンが腰布に付けた剣を引き抜く。大の大人を上回るサイズの剣。大きく反りが入り、先端にかけて太くなっている。
漫画家なにかで見たことがある。ユメタロウは、それが青竜刀と呼ばれる剣であると考えた。
「血沸き肉踊る一戦ができそうだ!グァハハハハハ」
青い闘士ガーディアンと、オーガの戦士ゾガン。
森の中央で、二つの強者がぶつかり合おうとしていた。




