ユメタロウ 覚醒その②
青竜刀を振り上げ、オーガが走る。
人間の三倍は余裕に越える体躯。そこから繰り出される一撃は、ガーディアンとて耐えられるかどうか。
「ぬぅあああッ!」
ガーディアンは、ゾガンが剣を振るう寸前に横へ跳び、避ける。
轟くような掛け声。振り下ろされる剣。爆ぜる地面。
オーガの戦士の一撃で、地面が削れ、土が弾け飛んだ。
「まだまだァ!」
ゾガンはすぐさま構え直す。幾度も振るわれる青竜刀は、空気を切り裂き、風を薙いだ。
しかしガーディアンはその攻撃を全てかわす。敵よりも一瞬早く動き、攻撃が当たらぬよう身を翻す。
「速いな!だが…」
青竜刀を振るいながらゾガンが嗤う。
その時、刃の代わりに足が突き出された。
重々しい音と共に、ガーディアンが派手に吹っ飛ぶ。
「くあっ…」
ガーディアンは森の木の一本にぶつかり、止まる。
今の蹴りは、避けることができたかもしれない。だが、意表を突かれて動きが固まったのだ。
「今ので死なぬか。大したものだ」
剣の峰を肩に乗せ、ゾガンが嗤う。
「肉体そのものが秘める能力は我らオーガよりも上と見た!しかし、戦闘経験はずぶの素人のようだなァ!」
「つっ…!」
「避けるだけでは何時まで経っても勝てんぞぉ!?」
ユメタロウは図星を突かれ、呻く。
確かにその通り。ガーディアンの体を動かしているのは、ユメタロウだ。
ガーディアンのスペックは確かに非常に高い。大地の力が生み出した闘士は、とても強い。
が、それを扱う本人はというと、そうではない。ユメタロウは、向こうの世界では殴り合いの喧嘩すら経験していないのだ。
「故に、貴様は討たれるのだ…我が手によってな!」
振り下ろされる剣。ユメタロウはそれをかわす。
剣が幾度も振るわれて、その度にガーディアンは避ける。剣による攻撃に注視すれば、ユメタロウでもガーディアンのスピードで避けることができる。
だが、そのなかに蹴りが入ると、どうしようもない。
剣による攻撃の中に混ぜられる蹴り。重々しい威力に吹っ飛ぶガーディアン。
「がッ…」
木に叩き付けられ、へたり込むようにずり落ちる。
この戦法はこれで二回目である。まともに食らったのもこれで二回目。
ゆったりと近付いてくるゾガン。なんとか立ち上がるガーディアン。
「食らえッ」
ゾガンが剣を振り下ろす。
ガーディアンは横へ跳んで剣を避け、次の瞬間前方へ跳んだ。
「なっ」
驚くオーガ。だがもう遅い。
恐るべき速さで敵の懐に飛び込み、握り締めた右腕を叩き付ける。
鈍い音が鳴り、巨体がよろめいた。
「…なるほど!オークを一発で殴り殺せるわけだ。グァハハハハハ」
しかしゾガンは倒れない。ダメージがあるものの、オークのように死んでいない。
オーガは、ガーディアンのパンチ一発では倒せない。これが格の違いか。
「だが、拳の握りも振り方も、未熟!まるで未熟!」
オーガが嗤う。剣を持っていない方の手を固く握りしめる。
まるで大きな岩のよう。ユメタロウが作る拳骨と比べると、外見からして別物だった。
「拳とは、こう打つのだッ!」
ゾガンがパンチを放つ。迫り来る大きな拳。
ガーディアンも、その拳に正面から右ストレートを打つ。
二つの拳がぶつかり合って、しかし吹っ飛ばされたのはガーディアンの方だ。
地面を転がりながら、土や落ち葉を巻き上げる。
一方のゾガンもダメージを負ったようだ。震える片腕を抑えている。
「これで終いだ…」
オーガが青竜刀を振り上げ、ガーディアンに走り寄る。
ガーディアンは起き上がり、敵を正面から見据える。
つい今さっきまで、オーガに対する決定打は無かった。だが今は違う。
「両手の拳を突き合わせ…」
大地の声が、ユメタロウに与えられた力の使い方を教えてくれる。
ガーディアンの戦いを、伝えてくれている。
「拳から肘までを撫でる…」
ガーディアンは、指示通りに動いた。両手の拳を突き合わせると、そこから光の粒子が発生した。
左手で右手の拳に触れる。発生した光の粒子は、吸い込まれるように右手に収束していく。
拳に触れた手を肘まで動かせば、ガーディアンの拳は光に包まれ、眩い輝きを放つ。
「虚仮脅しをッ!」
雷のごとく振り下ろされた剣先。
それは空を虚しく切るだけであった。
ガーディアンは、前へと踏み込んだ。それだけだった。
オーガの体は、人間よりも、ひいてはガーディアンよりも大きい。刃が落ちる前に踏み込めば、あとは広々とした懐が残るのみ。
輝く右手を突き入れる。付加されたエネルギーは拳自体の威力を上げ、鋼鉄のような胸板を貫いた。
「ごァぼッ…」
急所を抜かれ、ゾガンの体から急速に力が抜けていく。
戦闘民族オーガの戦士の、最期だ。
「グァハハハハハ…やられた!!」
ゾガンの笑い声は、途中で掻き消えた。彼の胸を貫く拳が纏うエネルギーが、彼の体内で起爆、炸裂したからだ。
オーガの巨体は解放されたエネルギーによって爆裂し、千々に弾けて、その痕跡を残さず無くなった。
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…はぁっ…!」
ゾガンにトドメを刺した姿勢のまま、ガーディアンの体が光となって消えていく。
そして、ガーディアンのシルエットが光に呑まれて消えたあと、そこにはボロボロのユメタロウが残った。
「はぁっ…はぁっ…大丈夫?」
ユメタロウは振り返り、未だ恐怖に震えるユリーの声をかけた。
話しかけられたユリーは、一瞬ビクッと震えたが、怖いものが去ったのを理解した。
「うん…」
「よかった…」
疲れはてた顔で、ユメタロウはひたすら繰り返した。よかった、と。
木々に囲まれて、体の力を抜く。
無謀にも少女を助けようとした彼の、奇跡の勝利だった




