ダイスケ 旅の休息
辺りは静まり、闇が広がり、生い茂る木々が月の光さえも遮る。
そんな暗い森の一角で、煌々と暖色の光が点っていた。
大きな焚き火を囲い、暖かそうな上着を着た男達が、酒を飲んだり火に薪をくべたりして、夜の暇を楽しんでいた。
彼らは隊商だ。彼らは三本角の牛に荷車を引かせ、街に品物を届けに行く最中だった。
「いやぁ、ストレンジャーのお二人には本当に助けられましたよ!あなた方がいなければ、今頃何人があのキマイラの腹の中だったか…」
「貰ったお金のぶんはしっかりと働かせていただきますよ。飯とかも御馳走になりますしね」
「いやいや、安い買い物です。うははは!」
その中に、根本以外を金に染めたストレンジャーがいた。
ダイスケだ。酒の入った木製の器を片手に、隊商のリーダーと談笑している。
「ところで何作ってんの?」
「根菜と干し肉のスープ、あと川魚をミンチにして、鉄板焼きに。堅パンもあります」
「お、うまそ。待ち遠しいなぁ~」
すぐ近くにいる食事当番の方を向き、今晩の献立を聞き出す。
異世界から来てそこそこ経っているからか、ダイスケの態度は明るかった。
楽観的に笑みを浮かべるのは、彼本来の性格もあるだろう。
「おーい、早くしないと飯ができちゃうぞ」
ダイスケは、今度は自分の真後ろに声をかけた。
そこには、カーテンに包まれた何かがある。
「うるさい」
返ってきたのは少女の声。ダイスケと同じストレンジャーの、マナカの声だ。
ダイスケは隊商のリーダーの方に向き直る。
「すごいですねアレ。こんな場所でも体をしっかり清められるなんて」
「うちの三番目の息子の発明でしてな!」
「あれも街で売るんです?」
「その通り!」
リーダーは、聞いてもいないのにカーテンの中身について語りだした。
いわく、あのカーテンの中には樹脂でできたホースと温水を送り出すペダル付きのポンプがあり、外側には温水を入れる樽が付いている。
ペダルを踏めば、そのぶんだけ樽の中の温水がポンプによってホースから吐き出される仕組みだという。
「似たようなもんが俺のいた方でもありましたよ。シャワーマシーンって言うんですが」
「ほうほう、流石ストレンジャーの世界。技術が進んでおりますな」
「ホースの先端にある口に小さな穴が開いていて、こう、雨みたいな細い流水をたくさん吐き出すんです」
「それはそれは。より広い範囲を洗えますなぁ。息子に改良点として教えておきます」
男達の話を他所に、マナカは黙々とシャワーを浴びる。
一部を青く染めた黒髪を濡らし、手櫛で撫でる。白めの肌を、流水と水滴が這う。
温い水で体を流す。ただそれだけなのに、それがとても心地いい。
「ん」
マナカはカーテンから片手だけを出し、手のひらを上に向けた。
「はっ、はい!」
シャワーマシーンの隣に突っ立っていた少年が、顔を真っ赤に染めつつその手のひらにタオルを乗せる。
彼は隊商のリーダーの七番目の息子だ。社会勉強として、父に連れられてこの旅に同行している。
「ありがと」
「どどどっどういたしまして」
ぶっきらぼうに例を告げると、マナカはそのタオルで体を拭い始める。ある程度拭うと、また手のひらをカーテンから出す。
「どうぞ…」
少年はその手にパンツとブラジャーを乗せた。手が引っ込み、今度は金具だらけの上着や変な模様がプリントされた白Tシャツを渡す。
しばらくして、着替え終わったマナカが出てきた。
「マナカさん!」
「何?」
「片付けしておきます!」
「じゃ、お願い」
「はいっ!」
夕陽にも負けないほど赤くなった顔を押さえて、少年は鼻息荒くシャワーマシーンを片付けていく。
マナカはそれから目を離すと、草むらに座って夕飯を待つダイスケに歩み寄る。
「着替え欲しいんだけど」
「下着以外は渡さないぞ」
「なんで」
「俺が無制限に出せるのは片手の上に乗るサイズだけで、それ以上は最低でも半日に一回」
「次に出してくれれば良いから」
「それと…」
ダイスケは目の前で指を振った。
「こっちの世界の服を着てくれ。いままでの服なんかもう手に入んないんだから」
マナカはダイスケの顔をじっと見る。その瞳には若干の苛立ちがあった。
だがダイスケも引かない。マナカには、この異世界に慣れてもらう必要がある。ワガママは許しすぎてはいけないのだ。
二人の間に凍えそうな空気が流れる。
「できましたよ!」
焚き火の前で調理をしていた料理当番が、周囲に向けて声を出す。
待ってましたと言わんばかりに、その場の隊商達が立ち上がった。
「飯にしよう」
「そうだね」
冷たい空気を保ったまま、二人のストレンジャーも夕飯を受け取りに向かった。




