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マナカ 激突


魔王軍によるパタスタ要塞への突撃戦は終わりを見せない。

魔族の軍団の先頭を走るのはオーガ。種族としては最強の魔族である。

要塞から投射される巨大な矢を掴み、それを投げて降ってくる火薬樽を落ちる前に破壊する。他の魔族、ましてや人間には絶対にできない芸当である。

だが、そんな彼らにも犠牲者が出始める。


「ぬごぁッ」

「兄者ァ!」


真っ赤な肌のオーガが、地面にもんどり打って倒れた。

その頭部には小さな穴が開いている。この世界の住人には馴染みが薄いが、弾痕と言われるものだ。

さしものオーガだとて、対物ライフルが急所へ直撃すれば殺せる。

そして、パタスタ要塞側には、オーガを屠ることのできる手段がもう一つ存在する。


「兄者の仇ッ…なんだ?!」


黒い影がオーガの一体の足下を通り過ぎる。そのオーガの足首に深々とした切り傷が生まれる。

吹き出す血液に顔をしかめる暇もなく、影はオーガの首筋目掛けて、オーガの体を駆け上る。


「小癪ッ…速い!」


武器を持っていない方の腕で相手を捉えようとするも、動きが速すぎて掴めず。

伸ばした腕の指を軒並み飛ばされ、次は喉笛に裂け跡を付けられた。


「かはッ…」


致命傷を受けたオーガは、そのまま膝をつく。喉を抑えてもがくものの、首からの出血は止まらず。

やがてオーガは地面に倒れ伏し、動かなくなった。

オーガから跳んで離れるマナカの変身態。

外骨格の兜を左右に巡らせば、魔族はまだまだ無数にいる。そして、その殆どがマナカを無視してパタスタ要塞に向かっている。


「やばいかな…」


オーガを一体倒したくらいでは、魔王軍を止めることはできないようだ。

マナカは所詮一人。対処できる数は限られている。

対して敵は大群。マナカに襲われていない部隊は彼女を無視して先へ進めばいい。


「これ結構不利っぽい…ねッ!」

「ギャオン!」


背後からにじり寄ってきたコボルトを斬り伏せる。しかし、この程度では戦闘の勝敗は決まらない。

ふと振り替えれば、パタスタ要塞の目の前にまで魔族がたどり着いていた。

マナカの視線の先では、有刺鉄線の柵が吹き飛ばされる瞬間が見えた。


「マジ?!」

「隙ありィ!」

「ぐっ」


マナカの横腹に、鉄塊が叩き付けられる。マナカは数秒宙を飛ぶと、放物線を描いて落地した。

余所見をしている間に、他のオーガの攻撃を受けたのだ。


「貴様、弟を殺したのは誉めてやるが、戦場で敵から視界を離すとは言語道断!」

「ゴチャゴチャうっさいな…」

「驚いたな、息が残っているとは。なら今トドメをくれてやろう」


ぼろ雑巾のように横たわるマナカに歩み寄るオーガ。その腕には、巨大な金属製のメイスが握られている。

人間からしてみれば巨大だが、オーガが握る分には片手サイズだ。それを振り上げ、一息に振り下ろす。


「ヌンッ!」


土が舞い上がり、地面が抉れた。爆発のような威力であった。

しかし、オーガの表情は優れなかった。

その心臓に、深々と刃が刺さっていたからだ。


「ば…か…な…な、何故」

「再生力、上げたから」


マナカは腕のブレードをオーガの胸から引き抜く。傷口から、噴水のように、赤黒い血液が吹き出す。

最期に一矢報いようとメイスを振り上げるオーガ。しかし、マナカは、捕まっていたオーガから蹴って離れた。

強化された脚力で蹴っ飛ばされたオーガは地面に転がり、血液を失って死んだ。


「もうあんなに…」


またもオーガを倒したマナカだったが、声音には焦りが滲んでいた。

パタスタ要塞の目の前に到達した魔族達は、杭を避け、堀に落ち、登り、有刺鉄線が除去された箇所から兵士達のいる最終防衛ラインに襲い掛かる。

コボルトと人間の兵隊が斬り結ぶ。兵士が有刺鉄線越しに長槍でオークを刺す。数十人がジャイアントに吹っ飛ばされる。オーガの一撃でミンチ肉が飛び交う。


「爆弾矢用意!」


乱戦に発展した状況でも、ヴィザレの指示はあくまで冷静に下される。

兵士の何人かが矢を弓につがえた。矢には小さな筒状の物体がくくりつけられていた。

火の付いたダイナマイトである。ダイスケが用意したものだ。

爆弾矢が一斉に放たれ、オークやジャイアントといった巨体の魔族に突き刺さる。そして、爆発。

小さいサイズながらも火薬樽に匹敵する威力の矢。直撃を受けたオークやジャイアントが木っ端微塵と化す。


「あんなんじゃ間に合わない。要塞に取り付かれる!」


マナカは焦って引き返そうとした。パタスタ要塞にいる人間の兵隊は、単体戦力も数も、魔族には到底及ばないからだ。

特にオーガは最も危険だ。こちらの用意した罠も特殊兵器も退けた。ダイナマイトをくくりつけた爆弾矢でさえ、身をよじって回避することで封殺している。


「行かせんぞ人類の戦士」

「仲間と合流はさせん」


走り出そうとしたマナカの目の前に、オーガが複数。肩を怒らせ、じりじりとにじり寄ってくる。

一体ずつならすぐに突破できるだろうが、同時に何体も相手にしては、パタスタ要塞へ合流するのは無理だ。


「チッ…」


悲鳴や怒号、剣のぶつかる音。舞い上がる砂埃に血の香りすら混じり始める。

爆発音が途切れ途切れに聞こえる地獄の戦場。だが、不利なのは人類側だ。

要塞に取り付かれた今、オーガ部隊の攻撃で壁に穴を開けられ、中に魔族が入り込んだら。そうなれば、あっという間に制圧されて、こちらの敗北だ。


「そこをどけッ…」

「断る」

「通りたければ我らを倒して行くがよい。すぐにできるのならな」

「ぐ…」


歯噛みするマナカ。いくら彼女と言えど複数のオーガには敵わない。こうしている間にも、人類の兵士は次々やられているというのに。

その時である。マナカの目の前に、光の柱が立った。


「なんっ…」


光の柱はオーガの一体を飲み込み、そして消えた。そして爆発。


「のがぁああああ!!」


マナカを阻むオーガの一体が、悲鳴をあげて消し飛んだ。

マナカは上を見上げた。光の柱が延びた先には、何者かが空を飛んでいた。


「何アレ」


それは、細身であった。人の形をしていて、全身は青く、一部が緑で、また一部は赤かった。衣服を着ているというよりは、肉体そのものといった様子であった。

それの顔相は、人のものとは大きく違っていた。バイクのヘルメットか、プロレスラーのマスクか、あるいはその両方の特徴を持っていた。

そして、目であろう部分は、横に歪めた逆三角形のような形をしていて、煮えたぎるマグマの如く赤く輝いている。





魔王軍の魔族も、パタスタ要塞の人間も、突如現れたその存在に、一瞬目を奪われた。

彼の名はガーディアン。ストレンジャーの一人、ユメタロウが変身する、大地の意思を受ける闘士である。

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