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マナカ 迫り来る死線


「火薬樽を放て!用意!」


ヴィザレの号令を聞き、城壁の上にいた兵達が慌ただしく動き始める。

彼らは城壁の上に置かれた兵器の担当である。今作動したのは、投石機だ。

迫り来る魔族の大群へ、投石機の一つが何かを投射する。名前通りの石ではない。

樽だ。木製の樽が、パタスタ要塞の城壁から、コボルトの群れに到達した。

コボルトの一匹が潰される。


「ギャウッ!」

「グルルッ、バウワウ!」

「グゥウウ…?」


コボルト達は飛んできた樽を見た。樽には紐が付いているようだ。その紐には火が付いており、その火は紐を通じて樽の中に潜り込んだ。

次の瞬間、樽が破裂した。


「ギャオォーン!」

「グアォオオ!」


樽の近くにいたコボルトは即死。少し離れた位置のコボルトも、身体中に突き刺さった何かに悶絶し、死にかけている。

パタスタ要塞の投石機は、火薬の詰まった導火線付きの樽を魔族へ放ったのである。

この火薬樽の威力は爆発だけではない。火薬と一緒に入れられた屑鉄と、粉々になった樽の破片が、爆発の衝撃で四方へ飛び散り、かなりの勢いで敵に突き刺さるのだ。

爆心地近くにいたコボルトやオークはバラバラの肉片と化した。


「行けるかな…」

「さあ…」


双眼鏡で様子を見ていたマナカとダイスケは、爆撃される敵の動きから目を離さない。このまま圧倒できればいいが、そうでない場合は彼らストレンジャーの出番である。


「あ、なんか出てきた」


爆炎と爆煙を蹴散らしながら、コボルトの間を遠すぎて突き進む影が複数。

姿形は人間に似ているが、その巨大さは比べ物にならない。目測で10メートルはあろうかという巨駆は、聞いていたジャイアントという魔族の特徴と一致する。

身体中に鉄片が刺さっていても構わず駆け抜ける巨人達。巨体のタフさは折り紙つきだ。


「弩を放てッ!目標、敵ジャイアント部隊!」


ヴィザレの続いての号令。城壁の上の固定型ボウガンに、杭のような矢が設置された。

弦がぎりぎりと引き絞られる。ボウガンの向く先は、でかくて目立つジャイアントだ。

めいっぱいに引き絞られた矢が解き放たれ、その勢いで巨大矢が飛んでいく。

矢はあっと言う間に目標へ到達。火薬樽を通さない皮膚を突き抜け、その胴体に風穴を開けた。

火薬樽の爆発に喚く魔族達の前方で、ジャイアントの巨体が土煙をあげて倒れた。


「お、一匹やった」

「私達の出番無いかもね」

「またジャイアントに当たった。この調子なら楽勝だな」


そう言い終わる頃、迫る魔族の前線に、ジャイアントと比べ一回り小さい魔族が出てくる。

数はコボルトやオーク、ジャイアントよりも少ない。


「あれがオーガ?」

「みたいだね」

「ジャイアントよりも小さいじゃん、この調子なら楽勝でしょ」

「そだね」


マナカの視界の中で、オーガに向けて発射された杭が飛んでいく。

それは寸分違わずオーガへと進む。直撃コースだ、外れはない。

そのはずだった。


「ぬぅウン!」


標的とされたオーガは、弩から放たれた矢を片手で掴んだ。


「どぉラァ!」


そして、掴んだ矢を虚空へ投げつける。投げられた矢は、魔族へと投射された樽を空中で粉砕した。

他のオーガも、その筋肉質な身体を蠢かせ、飛んできた巨大な矢を掴んで、火薬樽撃墜のためにひたすら投げた。

矢と樽による空中戦が、パタスタ要塞前の荒野にて繰り広げられた。その間にも魔族達はどんどん要塞へ向けて突き進んでくる。


「まじ?やば」

「オーガ…最強の魔族か。本当に強いみたい」

「あんなのがこっちにくっついたら終わりじゃん。行ってくる」

「あっ、ちょ、マナカちゃん?」


止めるダイスケを無視して、マナカは石造りの要塞の窓から飛び降りた。落ちる間に、その体が人間のものとは全く違う外見へと変化する。

外骨格に身を包んだマナカは、軽やかに着地すると、目前に迫る魔族の軍勢に向けて走り出した。


「あーあー、無茶すんだから全くもう」


そうぼやきつつ、ダイスケは隣に置いた巨大な銃を窓枠に乗せた。

ダイスケのストレンジャー能力は創造だが、出せる大きさや量には制限がある。

片手に持てるサイズならインターバル無しで無制限に。両手で抱えるくらいなら半日に一つ。自分の体と同じくらいなら、一週間待たなければならない。

両手サイズのものを出すインターバルを待つ間に片手サイズの物を出すことはできるが、片手サイズのものを我慢しても両手サイズの物を出すインターバルは短くならない。

そんな制限の中で彼が週一待って出したのは、黒くて巨大なライフル銃。銃の上部分に取り付けられたスコープでさえ、彼がさっき使っていた望遠鏡より遥かにごつごつして巨大である。


「FPSでしか撃ったことねえけど、どうかな…」


スコープを覗き、スコープの点をオーガの頭に合わせるダイスケ。そしてそのまますぐ、引き金を引いた。

三脚のような部品で要塞の石畳床に固定された対物ライフルは、破裂音を放ち、銃口から巨大な火を吐いた。

そして、ダイスケの覗くスコープの中で、オーガの頭が破裂した。


「つつつ…行けるもんだな」


発射の反動で痺れる腕を振りながら、ダイスケは次の敵に照準を合わせた。

変身したマナカも、敵部隊の只中へ突っ込んだ。

魔族の軍勢がパタスタ要塞に到達するまで、あと百メートル。

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