リューヤ 魔王の姿
パタスタ要塞の防衛線と、魔族の軍団の間に、無数の雷が落ちた。
それと同時、折角埋設した無数の地雷が起爆。誘爆に誘爆を重ね、そのすべてが爆発し無力化された。
「うわー!」
「煙で見えねえ!」
「ぐわあーペッペッ、土が口の中にぃ!」
沢山の爆発物が一気に起爆したことで、巻き上げられた土がパタスタ要塞を襲った。
兵士にかかる土の量が、士気の上がりようと反比例していた。
「あいつら無茶苦茶だ」
「地雷が全部ダメになってんじゃん。どうすんの?」
「まだやりようはあるんだ。向こうがこっちに来る前に態勢を建て直せば…」
ダイスケが悔しげに言う。地雷を全て潰された以上、魔族全軍とパタスタ要塞とが大規模な正面衝突になるのは避けられない。
そのための地雷だったのだが、敵の強引な手で無理矢理に封殺されてしまった。
「今のを撃ったのはどいつだ…?」
魔王軍から雷の魔法攻撃が放たれた後、パタスタ要塞の兵士の一人が遠視の魔法で、魔法を打った者を見た。
そしてその光景を、通信の魔法の媒体とした水晶玉に写す。物見塔にて指揮をとっていたヴィザレと、その傍らに控えていたリューヤは、届いた水晶玉の中の映像でその姿を眼に焼き付けることになった。
「青い鎧の敵…」
岩の剣山といった感じの場所の上に置かれた豪華な椅子。そこに座っている、青い全身鎧の存在こそ、雷雲を生む魔法の使い手であるようだ。
厳つい鎧は装着者の素肌をまるごと隠し、その正体を探らせない。
だが、ストレンジャー能力で対象のデータを把握できるリューヤには、その青鎧が何者かすぐにわかった。
「こいつ…コイツが魔王だ!」
「それは本当か、リューヤ!?」
「間違いないっすよ、頭の横に魔王って出てきたし!」
「戦場に出てきているのか…」
「でっ、でも、魔力が切れたからしばらくは魔法は使えないらしいっすよ?!」
ヴィザレは息を呑んだ。あの攻撃を撃ってきたのが魔王なら、魔族の軍団の長たる存在なのならば、その戦闘能力は今まさに証明された。
強大な威力の魔法。あんなものを食らったらひとたまりもない。
魔力が切れている様子なのは不幸中の幸いといった感覚だが、ヴィザレは、どうしてこの青鎧が魔王足り得るのかを理解した。
力。圧倒的な能力。
だが、怯える時間はない。
「第二作戦を開始せよ!繰り返す、総員第二作戦を開始!」
地雷原がなくなったために進軍を再開した魔王軍。
それを睨みながら、ヴィザレは次の戦術に頭を巡らせていた。
青い鎧を着た何者かが、輿に座っている。その者の鎧は豪奢で、全頭兜に施された装飾は冠を彷彿とさせた。
傍らには、青い肌の、人間によく似た魔族が二体。彼らに守られながら戦場を見渡す。
彼こそが魔王。オークやコボルト、ジャイアントやオーガを率いて、人類の住みかを攻め立てるすべての魔族の長。
「魔王様、後ろに下がり、少しお休みになられては…」
傍らを飛行しながら、青い肌の女魔族が魔王に耳打ちする。
その姿は、人間で例えるなら十代前半というところか。肌を九割晒した紐水着のような格好だが、体に張り付いているのかずれたりはしない。
「ミルラーよ」
「は、はい!」
名前を呼ばれた女魔族は、魔王に恭しく礼した。
「ミルラーよ、今はチャンスなのだ。人類の不可思議な兵器は無力化された。今こそが我らの攻勢の時なのだ」
魔王は震える左手を右手で抑え込み、鎧越しに視線を向ける。
「そのような時に、私が退いては、我らの軍団全てに弱気を招くことになる。わかるな」
「は…はい、魔王様。この好機は、絶対に無駄にはしませぬ」
「それでいい…お前はゴーレムの仕度をしろ。今回の戦いは、一筋縄ではいかない」
「わかりました、魔王様!失礼します!」
ミルラーは姿勢を正し、背中から羽を出現させた。蜂のような羽が高速で動いて、幼女のようなミルラーを空へと運ぶ。
ミルラーが部隊後方へ赴くのを見届けた後、魔王は声を張って部下の名を呼んだ。
「マーテイン!」
「はい、魔王様」
名を呼ばれたマーテインは、ミルラーと同様に羽を持っている青い肌の魔族だ。
軽鎧に身を包み、その隙間から筋骨粒々の手足が顔を覗かせる。扇情的なミルラーと比べると、武人という印象を抱かせる格好である。
「敵はまだ策を残しているかもしれん。私の護衛はいい、前へ出て敵を倒せ」
「御意に」
「此度の戦、見たこともない兵器が出てきた。ストレンジャーが再び現れたのかもしれない。マーテイン、死ぬなよ」
「ならばストレンジャーの首級を持ち帰ってみせます、魔王様」
寡黙に応じたマーテインは、羽を広げて飛び上がる。ミルラーと同様の形状をしているが、より速く、より力強く動き、あっという間に全線へ飛んでいった。
「本隊を前進する。突撃再開ーッ!」
魔王の号令がかかり、コボルトが、オークが、ジャイアントが、オーガが鬨の声をあげた。
空気が震え、大地が震え、視線の向こうの砦に籠る人間の兵士どもも震えさせた。
魔王はそれに呼応するかのように、輿に引っ掛かっていた紐を引く。
すると、魔王が座る輿がくくりつけられた場所、岩の剣山がぐらりと動いた。それは天へ向かって盛り上がり、土に埋めていた全容を晒す。
岩山のように見えたのは、四足歩行の巨大な竜の背だった。目隠しを付けられた竜は、雄叫びをあげて歩行を始めた。
魔族の軍団も、その全てが、動き出した魔王と共に真っ直ぐ全身を開始した。




