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ダイスケ 開戦


地平線の向こうから、土煙をあげ、無数の影が走ってくる。

その数は、肉眼ではもはや数えきることはできないほどだった。

轟く地響きは、魔族の兵団が迫り来る音。地面が震え、大気が震え、パスゲートの兵士達が震えた。


「引き付けろ…引き付けろ…」


それを双眼鏡で見るヴィザレは、絶対に相手から視線を離さない。

彼我の戦力差をよく知っているヴィザレであるが、今回の戦いに関しては勝利を確信していた。

全力の準備に加えて、ストレンジャーの協力すら得られたのだ。パスゲート王国の女将軍は、この戦いに大いなる自信を持っている。


「幾千幾万用意しようとも、魔族にこの要塞は落とせんぞ…」


パタスタ要塞の前には有刺鉄線の柵があり、空堀が横へ続き、その向こうには尖った木の杭が前方を向くように生えていた。

兵士達は柵の後ろで待機しており、震えつつも魔族の進攻をじっと見つめている。

要塞自体は石煉瓦造りの大きな城といった風情で、壁の上には投石器や据え置き式の大きなボウガンがズラリと並べられている。

ここまではこの世界の技術と物資で用意された防衛装備である。特に、有刺鉄線と巨大ボウガンはヴィザレの発案で開発されたものであり、このパタスタ要塞の独自装備である。

しかし、これでもまだ備えが足りないくらいだ。

人間の何倍もの数で迫るコボルト、人間より遥かに強いオーク、人間を片手で掴めるジャイアント、戦闘民族オーガ。これらが大挙して攻めてくるのだから、この世界の人間の軍隊など歯が立たない。

その証拠に、魔王率いる魔族の軍団は既に複数の国をその力で粉砕した。

そんな軍隊が今、このパタスタ要塞めがけて一直線に迫ってくる。


「射撃はまだ。いいか、射撃はまだだ!もっと引き寄せろ!」


ヴィザレは、水晶玉に向かって指示を叫ぶ。

これは魔法のアイテム。呪文によって別の位置の同じ機能を持つ水晶玉との間で通話ができる代物だ。


「相手は大軍団だ、一度動けば方向転換は不可能であるし、巨大すぎて突撃以外の戦法がとれん!確実に、こちらの策にハメるんだ!」


ヴィザレの命令が水晶玉越しに届いて、前線の兵士達の恐慌を押さえ付ける。

その間にも、無数の土埃と狂暴な影達が迫ってくる。

魔族の軍隊は各種集めて十万と千。一方パタスタ要塞の兵士は、一万人に満たない。

いくら堅牢な要塞で身を守ろうとも、このままでは魔王軍に囲われて蹂躙されてしまう。

そう、このままでは。


「ガウガウ!」

「グァウ!」

「アォーンッ!」


先頭を走る犬面の魔族コボルトが、足元からの爆破で下半身をもぎ取られた。


「来たな」


パタスタ要塞の兵士達はまだ攻撃を行っていない。しかし、そのパタスタ要塞に近付こうとする物は、先頭から続々に下からの爆発で吹っ飛んだ。


「アウアオーン!」


爆発の衝撃で下半身を失い、そのまま死ぬ者。


「グァアオオゥ!」


片足を失って転んだところを、止まれなかった味方に踏んづけられて命を落とす者。


「バウッバウッ!」


仲間が爆死した衝撃で転び、顔が地面に激突した瞬間その顔に爆発を浴びて絶命する者。

魔族がパタスタ要塞までの地面に至ってから、彼らは足元からの爆発を受けて次々リタイアしてゆく。


「流石、世界四大非人道兵器」


双眼鏡を顔から降ろし、ダイスケは苦笑いした。


「四大…」

「まあ俺がそう呼んでるだけなんだけど」

「あとの三つは何?」

「全部ABC兵器」

「なにそれ」

「知らない?」


隣にいるマナカと話しながら、ダイスケはもう一度双眼鏡を敵へ向けた。

魔族の軍団は今、地雷原と化したパタスタ要塞前面を進もうとしている。

パタスタ要塞前面を地雷原にするアイデアは、ダイスケから出たものだ。ダイスケのストレンジャー能力は物体の創造であり、片手に乗るサイズならいくらでも出せる。それを活かし、無数の対人地雷を産み出し、パスゲート王国兵の協力を得て、パタスタ要塞の荒野に埋め込ませたのだった。


「これで、数の多いコボルト…あわよくばオークまでは無力化できる」

「そうなればかなり楽になる、かな」

「敵戦力大幅にダウン、ストレンジャーとパスゲート王国の大勝利だな」


指揮官のヴィザレとストレンジャー達は、魔族の軍団に驚異度判定を行っていた。

オーガ、ジャイアント、オーク、コボルトの順である。これは、それぞれ単体戦闘力とイコールである。

一斉に襲い掛かられたらまずもって勝ち目はないが、種族ごとに封殺できれば手はある。

片手に乗る程度のサイズの対人地雷ではオーガやジャイアントは倒せないかもしれない。が、比較的軟弱なコボルトやオークは排除できる。


「見ろ、魔族どもが吹っ飛んでるぞ」

「そのまま全滅しちまえ!」

「いいぞ。もっと倒れろ」


兵士達が見る先で無数の爆発が起き、肉片や骨が飛び散る。広範囲に隙間なく敷き詰めた地雷原に、魔族の軍団はタジタジといった様相だ。

先程まで怯えていた兵士達も、一方的な戦況に士気を取り戻しつつあった。

一部の者は、自分達の出番はないとすら思っていた。

彼らがそんな風に思っていると、爆発が徐々に止み始める。

地雷の起爆はやがて完全に収まり、それと同時に、魔族の突撃にブレーキがかかった。

土埃と無数の足音が治まる。次の瞬間、魔王軍の真ん中から、晴天に向かって光が走った。


「おん?なんだ」

「光ったぞ」

「敵部隊中央に発光を確認!司令官に伝えろ!」

「なんだありゃ…」


光は太陽に呑まれるかのように消え、次に灰色の雲がぐわっと産まれた。

雲の中で幾つもの光が走り、続いて耳をつんざく爆音も響いてくる。


「あっやべぇ」

「え、何?」


顔を青ざめさせたダイスケに、マナカがどうかしたのかと問う。

ダイスケはそれを無視して、通信機代わりの水晶に怒鳴り付けた。


「伏せろっ、皆伏せろーッ!!!」


灰色の雲から、雷が一斉に解き放たれる。十や二十では済まない数が、魔族軍とパタスタ要塞の間、つまり地雷原いっぱいに降り注いだ。

闇が消え、光がその場を呑み込んだ。

そして、パタスタ要塞の前方に埋められた地雷が、一気に誘爆した。

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