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リューヤ 物見塔の夜の小話


ユメタロウとユカがファーストストレンジャーの話を聞く少し前、夜の物見塔の中で、ストレンジャー達が一同に会する。

燭台をテーブルに乗せ、ダイスケは足を組んで、マナカは頬杖をついて、リューヤは身振り手振りを交え、ある特定の話題について話している。


「どうしようもないクズじゃん」


マナカがそう吐き捨てた。


「向こうの世界の人間の品性ってやつが、ソイツのレベルに見られることになったわけだ。ソイツのせいで」


ダイスケは、首を振ってそう言った。


「正直…俺達がここに来た時にも生きてたらって思うと、ゾッとする」


リューヤも、渋い顔で述べる。

三人の話題は、ファーストストレンジャーだ。

リューヤは既に、この世界に最初に現れたストレンジャーのことを人伝に聞いており、今はそれを、他二人に教えている最中である。


「ひっでえ奴だな、まったく。この世界、よく滅ばなかったもんだ」

「ファーストストレンジャーが原因で生まれた状況だったから、ファーストストレンジャーがいなくなって沈静化し始めたらしいんだ。それでも、ファーストストレンジャーに関わった国は滅びまくったらしいけど」

「このパスゲートは関わらなかったってわけ?」

「当時は歯牙にもかけられなかったってさ。敵とも味方とも見られなかったおかげで、今はこうして大国になった…らしい」

「皮肉だなぁそりゃ」


三人が思い思いに話していると、部屋のドアが開かれた。

緑の髪の毛をたなびかせて、このパタスタ要塞の指揮官ヴィザレが部屋に入る。


「ダイスケ殿は…いるな」

「ブツが足りないんだろ?」

「その通りだ、行ってきてもらえるか」

「もう少し休ませてくれないか、出す物体をイメージし続けるのに疲れた」


ヴィザレは一つ頷くと、ストレンジャー三人の座る机の、空いている椅子に腰を下ろす。


「何を話していたんだ?」

「ファーストストレンジャーの話っすよ。マナカちゃんもダイスケさんも、気になってたらしくて」

「ファーストストレンジャーか…いなくなって暫く経ったらしいから、君らへの偏見もそこまで無い。差別や迫害は心配しなくて良いと思う」

「まあそこは心配してなかったけど…」


マナカは頬杖を解き、逆の手で頬杖をついた。

ヴィザレに視線を移し、気になったことを質問してみる。


「ファーストストレンジャーがいなくなった後、デーモンの魔王軍ってどうなったの」

「いつの間にかいなくなっていたそうだ」

「いつの間にかって…」

「黒い戦士に討伐された、というのがもっぱらの噂だ。そういう証言も残っている」

「黒い…戦士?」


マナカは視線をダイスケに移す。知ってるか、という質問の代わりだ。

ダイスケは、その意図を汲んで、首を横に振る。


「こっちでは有名なお伽噺だ。この世界で最も強い黒い戦士、炎神を討ち、竜母を滅し、魔王を倒した伝説の戦士」


ヴィザレは身振りを交えてその黒い戦士のことを説明し始める。

その顔には、羨望と尊敬の眼差しがあった。軍に属する者として、その黒い戦士というのは目標と言えるのかもしれない。


「じゃあ、その黒い戦士に倒された魔王が、どうしてまた人類の前に現れたんだ?」


ダイスケは指で机を小突きつつ、そう聞いてみる。

ファーストストレンジャーの話に出てくる魔王は、ヴィザレの話通りなら、ファーストストレンジャーの死後に一旦いなくなっている。その配下のデーモン軍団同様に。

だが、今このパタスタ要塞に迫るのは、魔王率いる魔族の軍勢だ。


「時期や、デーモンと魔族の違いからして、魔王を名乗ってはいても同一の存在とは思えない…というのが、パスゲート王のご考察だ」

「まあ、そりゃそうだろうな…」

「え?魔族とデーモンって違うの?」

「人外の文明生物という点では同じだが、くくりとしては別存在なんだ」


リューヤの疑問に、ヴィザレは頷いて返す。


「デーモンは羽が生えているらしい。姿を現さなくなってから長いので、詳しい特徴はわからなくなったのだが…」

「ほ~ん」


リューヤが、興味なさげに相槌を打つ。

ストレンジャーにとっては、デーモンも魔族も、いずれにせよ理解の外の化け物に違いはない。

ダイスケも似たような考えだ。マナカに至っては、何が来ようと戦って倒せば良いと思っている。


「まあ、それより今は」


ヴィザレが手を一回叩く。

ぱん、と乾いた音がして、だらけていたその場の空気が一瞬張り詰めた。


「今の魔王と、その軍団だろう。すまないが休憩は終わりだ」

「わかった」

「了解でーす」

「ウッス」


ストレンジャー達とヴィザレが立ち上がり、物見塔から外を見る。

その先には、土気色の荒野がパタスタ要塞に面する。明日の戦場になるであろうその荒野には、カンテラや焚き火の光が灯っていた。

その傍らでは、兵士達が土を掘ったり、樽の中に黒い粉を詰めたりと大忙しだ。

要塞の中の女達は、そんな作業中の兵達に水や食事を届けている。


「準備は良好。あとは…決戦を待つだけだ」


荒野からの光が、ヴィザレを照らす。

マナカも、ダイスケも、リューヤも、異世界の大合戦の予感に息を呑むばかりであった。

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