最初の異世界転移者、ファーストストレンジャーのすべて
昔々、具体的には六十年ほど昔。
この世界は、別世界から現れたデーモンを率いる魔王に脅かされ、人々は苦しみ、国々が焼かれた。
そんな折りに、異世界から来たと述べる若い男が現れた。
男は自らを、この異世界にとって未知の存在、ストレンジャーであると名乗った。
それが、最初に現れたストレンジャー、ファーストストレンジャーである。
ファーストストレンジャーは、自らを創造の女神の遣わした勇者であると名乗り、様々な行動を行った。
まず、魔王の手下、万を数えるデーモンの軍勢を一瞬にして焼き払った。
彼はこう述べた。
「なんで皆驚いてるんだ?これくらい普通だろ?」
次に、稽古として、この世界で最強と謳われた剣士を圧倒して、こう述べた。
「どうしたんだ?俺の剣、弱いってことか?」
そして、各国の戦場の軍議をこの一言で終わらせた。
「俺が一人で突撃して、あとは皆着いてこい。わかるよな?」
まだ理性のあった人間は、ファーストストレンジャーのことを即座に見抜いた。
与えられた力を無闇に振るうことに抵抗がなく、巨大な威力の危険性を全く理解せず、頭を使って努力しようということをしない。
いてはならない異物。制御も不可能。圧倒的な力に、かしずく以外の選択肢を与えない。
しかし、魔王に脅かされた人々にとって、ファーストストレンジャーは救い主となった。
何も考えずに敵を消し飛ばす。人類共通の敵を持っていた彼らには、非常に都合の良い存在であった。
「ストレンジャーさえいてくれればなんとかなる」
「ストレンジャーがいれば敗けはない」
「ストレンジャーが我らを勝利に導くんだ」
多くの人々が、ストレンジャーの力に酔い、考える力を放棄し、彼を祭り上げ、囃し立て、依存する道を選んだ。
それに対し、魔王は最善の手を打った。自らの世界に帰ったのである。
人々は最初、大いに喜んだ。魔王を撃退した、我々が勝利した。その嬉しさを噛み締めた。
が、彼らはすぐに気付かされる。戦後に残された最大の問題を。
それこそがファーストストレンジャーの存在であった。
各国は、ファーストストレンジャーを囲い込もうと様々な媚びを売った。王女を嫁がせるのは当たり前、金銀財宝や土地、彼が望むなら何だってやってみせた。
ファーストストレンジャーは、与えられたハーレムの中で、自分の存在の危険性を理解せず、ただ無為な日々で力を振るった。
「こいつらが皆をひどい目に合わせているんだよな?」
ファーストストレンジャーは、オークやコボルトといった、魔族と呼ばれる種族に対し、殺戮を行った。
確かにオークやコボルトは人間に対し、盗みや人さらいを行う場合もあったが、基本的には自然の中で狩りをし、木々を慈しむ種族である。
ファーストストレンジャーはそれを、人間に害のある一面を取り上げて焼き払った。
退屈しのぎが理由なのは誰の目にも明らかであった。
「ファーストストレンジャーは恐ろしい」
「力の大きさを全く理解していない。軽々しく振るうことになんの抵抗感もない」
「自分の言うことを邪魔されると露骨に不機嫌になる。会話にならない」
「うちの国がオークやコボルトのように暇潰しにされるのは嫌だ」
異世界の人間達の多くが、徐々にそう思い始めていた。
だが、ファーストストレンジャーの存在感は既に止められぬほど膨れ上がっており、そうでなくても『無駄に』強い彼を排除する方法は皆無だ。
「私の子供こそがファーストストレンジャー様の後継者よ」
「わたくしが一番早く嫁いだのですから、ハーレムで序列最上位はわたくしですわ」
「あんたらにファーストストレンジャー様の経済管理ができますかえ?」
「あたしが一番愛されてるもん!」
「あの女さえいなければ…」
そんな折、ファーストストレンジャーのハーレムに異変が起きる。
ハーレムの中の女達が、様々な理由でマウントの取り合いを始めたのだ。
道中拾った女性、異世界の国から嫁ぎに出された王女、力を見せびらかして靡かせた女戦士。彼女らは出自が様々でそれぞれ考え方も違っていた。
そんなハーレムを、現代日本で生まれた若造がどうこうできるはずもなく。
「おい、このアサシンを送り込んだのは誰だ?」
ファーストストレンジャーの元に、彼を排除しようとして刺客が現れるのは時間の問題だった。
最悪だったのは、そのアサシンが女で、ファーストストレンジャーが見せびらかした力に惚れ、情報のすべてをさらけ出したことだった。
ハーレムを作りやすいように、女によく効くフェロモンを出す。ファーストストレンジャーにはそのような力もあった。
「この国だな」
アサシンから得られた情報を素に、ファーストストレンジャーによる国潰しが始まった。
焼き払われた国の人々は巨大な難民の集団となり、それが原因で各国で戦争が起きた。
ハーレム内でもまた、暗殺や密告が横行していた。ハーレム要員の中に王族貴族かいたのもあり、ハーレムの混乱は異世界の国々に波及して、問題を更に複雑にしていった。
「魔王だ!」
「デーモンが現れたぞぉおおお!」
「魔王軍が戻ってきたぁ!」
この頃合いを見計らって、魔王の軍勢がこの世界に戻ってくる。
魔王は、『無駄に』強いファーストストレンジャーにぶつかり合おうとせず、一旦引っ込むことでファーストストレンジャー自身がその力で起こした問題に忙殺されるタイミングを狙ったのだ。
異世界は混乱した。混迷の渦中に沈んだ。
ファーストストレンジャーにはどうすることもできない。強力な力を与えられただけの人間にはどうしようもないからだ。
なぜなら、もう単純な力でどうこうできる段階では、なくなっていたから。複雑な問題解決能力を要求される事態だったからだ。
ファーストストレンジャーにはそれがなかった。
「こっちで死んだら、この面倒ごとから解放されて、元の世界に戻れるのでは?」
その言葉を最後に、ファーストストレンジャーは蛇の巣と化したハーレムごと、自分を焼き払った。
かくして、ファーストストレンジャーはこの世界から消え去ったのである。




