リューヤ 異世界の出会い
パスゲート王国王都より夜通し北へ歩いた位置。そこにパタスタ要塞はあった。
上から見れば周囲を山に囲われ、要塞から見て前方向に、山々の切れ目がある。
要塞の正面には荒れ地が広がっている。山を乗り越えられない敵の大軍勢は、荒れ地を通って正面から要塞にぶつからねばならない配置だ。
そんなパタスタ要塞のもっとも高い物見塔にて、一組の男女が向かい合っている。
片方は、茶色い髪の毛の男。もう片方は、緑の髪の女。
「リューヤ、偵察隊からの映像だ。これで敵の規模はわかるか」
「えーっと、遠いなぁ…四捨五入した感じになっちゃいますけどいっすか?」
「構わない」
緑の髪の女は、リューヤというストレンジャーに水晶玉を見せる。そこには、ゾロゾロと蠢き進軍する魔族の群れが映っていた。
これは魔法の一種だ。専用の水晶玉を用いて、術者の視界を水晶玉の持ち主に見せる魔法である。
リューヤはそれに目を凝らし、じぃっと見つめた。
「えーコボルトが六万、オークが三万、ジャイアントが一万、オーガが千…っすね」
「進路は?」
「まっすぐここっすね」
リューヤのストレンジャー能力は、情報だ。念じながら見れば、集団の数や、相手の情報を把握することができる。
視界に収めなければ相手の情報は把握できないが、戦争においては情報というのは絶対的アドバンテージになる。
向こうの世界の言葉には、敵を知り味方を知れば百戦危うからず、というものがある。敵味方の情報を得た者にこそ勝利は訪れるのだ。
緑の髪の女、パスゲート王国の将軍ヴィザレにとっては、相手の情報をガンガン入手できるリューヤは、どんな宝石よりも重要なものに思えた。
「リューヤ」
「えっ、なんすか?」
「ずっと私の近くにいてくれないか?」
ヴィザレはリューヤに問う。
将軍という仕事において、リューヤのストレンジャー能力ほど役に立つものはない。相手の情報をまるごと手に入れれば、必勝の策が無限に沸くのだ。
だから、リューヤはずっと手元に置きたい。
「えっ、ええぇっ!?」
驚いたのはリューヤである。
ヴィザレの質問を、リューヤはこう受け取った。人生の伴侶になれと。
リューヤはモテない高校生であった。女子に目立とうと髪を染めて、そのせいで遅刻し、慌てて自転車で学校に向かって、山道の下り坂で転落死した。そのくらいモテるのに貪欲な男だった。
「それって、プロポーズですか?!」
「えっ、ええぇっ!?」
思ったことをぶちまけるリューヤに、今度はヴィザレがびっくらこいた。
今の彼女は二十四歳。父から将軍の職を継いだとはいえ、この世界における普通の女子はとっくに嫁いで良い年なのだ。
軍人とはいえ、ヴィザレも一人の女性。そういうことにも興味はある。大いにある。
だが、目の前の男が相手で良いのか。いや、仕事が大助かりだし全く問題ないのでは。
「おっ、俺家事とか料理とか得意っす!家のことは任せてください!」
顔を真っ赤にするヴィザレを目にし、リューヤが錯乱した。
豊満な肢体、凛々しくも美しい顔、綺麗な緑の髪。そんな女性にプロポーズされた。リューヤはそう思っている。
絶対にこのチャンスは逃がしてはならない。
「わ、私も、将軍の仕事をするなら、家のことは任せたいのだけど…っ!」
今の今までここで行われていたのは敵の情報収集だったはずだ。
だが、リューヤの勘違いで、一瞬にして悶える男女が乳繰り合う場になった。
その雰囲気がグダグダと続く前に、物見塔最上階の部屋にノック音が鳴り響いた。
「えっ。あっ、な何者だ!」
指揮官の癖に威厳もなにもない声で、ヴィザレが誰何する。
「騎士団のケイン・アーサーです。お引き合わせしたい者がおります」
ドアの向こうから、男性の声が聞こえてくる。
ヴィザレはその人物を知っていた。
「騎士団最強の男が、わざわざ会わせに来る者か」
「はい。二人のストレンジャーをお連れしました」
「ストレンジャー?…ああ!」
リューヤは一瞬、聞き馴れない単語に首をかしげる。
しかし、すぐにその言葉の意味を思い出した。彼自身もそう呼ばれているからだ。
「入れ」
「失礼します」
「失礼しま~す」
「…」
白銀の鎧を着た黒髪の騎士。彼に続くように、半分金髪半分黒髪の男と、髪を一房青く染めたパンクファッションの女が部屋に入ってきた。
「紹介します。ストレンジャーのダイスケと、同じくストレンジャーのマナカ。この戦闘において、大いに活躍してくれるでしょう」
「ご苦労!ケインは持ち場に戻ってくれ」
「はッ」
ケインと呼ばれた騎士は、ヴィザレの命令に粛々と従い、入ってきたドアを潜って部屋を出た。
あとには、飄々とした感じのダイスケと、張り詰めた雰囲気を醸し出すマナカと、ヴィザレとリューヤがいた。
「さて…それではまず特技を教えてもらえるかな」




