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マナカ 戦場への旅路で


ガタガタと揺れる馬車の中で、二人のストレンジャーが向かい合って座っている。

ダイスケは幌の一部をめくって外の景色を眺め、マナカは行儀悪くぐでっとしていた。


「そういえばさ」

「何」

「ケインさんの剣避けたろ」

「うん」

「どうやったの?」


ダイスケの何気ない問い掛けに、マナカはそっけなく答える。


「動体視力、瞬発力」

「あ~…」


ダイスケは納得したように頷いた。

マナカのストレンジャー能力は、身体変化と言えるモノだ。一度に三つまで、身体能力を凄まじいまでに引き上げる。

外骨格で体全体を包んだり、切れ味鋭いブレードを腕から生やしたりと、身体能力の向上以外もできる。

非常に汎用性が高く、正面戦闘においてはダイスケなど足元にも及ばない。

この世界では凄腕なのであろう騎士ケイン・アーサーでさえ、不意打ちも当てられない。


「…怖くないの?」

「なにが?」


ダイスケが、別の問い掛けを投げ掛ける。

マナカは気だるげに相槌を打つ。


「これから戦争に行くわけだけど」

「別に」


灯りのない馬車の中は、真っ暗闇同然だった。ダイスケはマナカの表情を伺えない。

だが、声音から、マナカが恐怖を感じていないのは事実だと思えた。


「そっちはどうなの」


マナカが問い掛けを返す。


「そりゃ、怖いさ。死んじゃうかもしれないし」


ダイスケはあっけらかんと言い放つ。嘘なのか、隠しているのか、言いぐさに怖がっている様子はない。


「じゃあなんで着いてきたの」


そう聞かれて、ダイスケは口角を吊り上げる。


「聞きたい?」


星空と月明かりのみが世界を照らす。

真っ暗な馬車の中では、互いの表情はうかがい知れないが、マナカが呆れ声をついたのは聞こえた。

それを無視して、ダイスケが喋る。


「女神って名乗ってた人が言ってたんだ。魔王を倒せば願いを叶えてやるってさ。それに懸けた」

「願いを叶える、か…」

「マナカちゃんは違うの?」

「私はお金稼ぎのためだし…それに、あんな胡散臭い奴の言うことを信じるわけ?」


一拍置いて、ダイスケは、自分の思考を反芻する。

迷い、ではない。あえて言うならば、それは決心だ。改めて自分の腹を決めるための一拍である。


「大事な人がいるんだ」

「その人をこっちに呼ぶの?」

「いや、うん…半分合ってる」

「半分?」


マナカは、意味がわからないという調子だった。ダイスケのハッキリしない物言いに苛立ちを持ったのかも知れない。


「病気で死んだ恋人を、蘇らせたい。できれば治った状態で」


ダイスケはそう呟いた。普段の飄々とした彼からは想像もできない、大真面目な声音。

マナカは一瞬、その雰囲気に呆気にとられる。


「そう…だから魔王を倒そうってわけ?」

「そゆこと」

「叶うと良いね」


マナカが、ポツリとそう言った。ダイスケの恋人が甦ってほしいと、そういう気持ちを込めて。


「ありがとう」


ダイスケが感謝を述べる。

今が夜でよかった、とダイスケは思った。こんな闇世の中では、照れ笑いも見えないからだ。


「マナカちゃんは…何を願う?」


照れ笑いも崩せないままダイスケが問う。

マナカは、ぶすっとした表情で言った。


「いいよ。もう叶ってるから」


二人のストレンジャーを乗せた馬車は、夜闇の中を、他数台の馬車と共に進んだ。

目的地はパタスタ要塞。パスゲート王国北にある、対魔王軍戦線。

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