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ダイスケ 騎士ケイン

剣を携え、黒髪の男が、絨毯の上で突っ立っている。彼の体は白銀に輝く厳つい全身鎧に守られ、本人の放つ雰囲気と合わせ、一分の隙も見当たらない。

その後ろには、手斧やら短剣やらを持った屈強な男どもが、ずらりと並んでいた。


「騎士さんよ、実力を試すってどういうこった」

「俺達ゃあ募集要項にそんなもんがあるとは聞いてねえぞ」


荒くれ達が、値踏みするような目で騎士を睨む。

騎士はただ一言。


「見た目だけの連中に払う金はない。食わせる飯もな」


とだけ言うと、両腕を組んだ。

武器を持つための手を自ら封じる愚挙。明らかなチャンスに、男達は殺気を膨らませる。


「じゃあよォ…てめえの体でよく確かめなぁっ!」


男の一人が、唐突に鞘ごと剣を振る。

騎士はそれにちらりと視線を向けると、刹那もしないうちに足を出した。


「うげ!」


胸と腹の間、鳩尾と言われる部分に足刀が刺さる。

剣をフェイントに顔に拳をくれようとして、剣持ちの荒くれが悶絶しながら倒れた。


「一瞬意識を逸らされた。お前はややできるようだ」


蹴られた箇所を抑えて脂汗をかく男に、騎士が片手を差し出した。


「合格だ。向こうの突き当たりの階段を降りて、裏口へ出ろ。引率の兵が他の連中と一緒にお前を戦場へ連れていく」


喋りながら、騎士は男の腕を引き、具合が悪そうなそいつに、フェイントに使われた剣を拾って持たせてやる。

男は中腰になりながら、強がって笑みを浮かべた。そして、騎士の言うとおりに、とぼとぼ歩き去る。


「次!自信がなければ帰ってくれても構わんぞ!」

「う、うぉおおおお!」


黒髪の騎士の背中から、棍棒を持った禿頭の男が殴りかかる。

振り上げられる棍棒。しかし、騎士は振り向き様にその足を蹴り、地面に転ばせた。


「ぐあっ…」


禿頭の男は情けない声をあげて寝転がる。それに肉薄して、騎士は先程とは逆の方を指差した。


「全然ダメだ、お前では魔族と戦えん。元来た道を戻れ。お前には別の仕事がある」

「うっ…く、くそぉ」


起き上がってトボトボ歩き去る禿頭の男を尻目に、黒髪の騎士は声を張って呼び掛ける。


「次は誰だ」


その剣幕に呑まれて、その場の荒くれ達はすっかり尻込みしてしまった。

傭兵の募集に来たのに、情けない。そう心中で吐き捨てる。

そのとき、部屋の入り口の木製ドアが荒々しく開かれた。

その場の全員がそちらを見やれば、黒髪の騎士と同じ鎧を纏った別の騎士が、二人の人間を引き連れて部屋に入ってくる。


「どうした」

「新しい傭兵候補者であります!」

「お前まで着いてくることはなかったろう」

「それが、彼らが、自分達はストレンジャーだと…」


部下の騎士がそう述べるのを、黒髪の騎士が聞き逃さない。

連れてこられた二人を交互に見、それから部下に戻るよう促す。


「ストレンジャーか…今時、野党さえも使わない嘘だ」

「嘘かどうかはこれからわかるんじゃない?」


珍妙な服装の女が、騎士をじっと見る。騎士の方も、彼女から視線を離さない。

二人の間に絶対零度の空間が形成される。


「ま、まあまあ落ち着けよ!」


慌ててダイスケがその間に入る。睨み合う二人は睨み合いを続けつつも、喧嘩腰の体勢は解いた。


「…俺は、パスゲート騎士団のケイン・アーサー。お前達は?」

「ああ、俺はハザマダイスケ」

「…タケガワマナカ」


ケインは二人を交互に見回して、言う。


「戦えん者に払う金はない。どういったふうに魔族とやりあうか、ここで試させてもらう」

「ああ待った待った!ちょ~っと待った!」

「どうした?」

「俺は、戦うとかそういうの、ダメなんだ」


苦笑いしてそう述べるダイスケに、ケインの周りにいた荒くれ達は抗議の声をあげる。


「ふざけるな!戦えないならどうしてここに来たんだ!」

「やる気がないなら帰れよ!」

「そーだ、そーだ!」

「腰抜けの自称ストレンジャー野郎!」


部屋は一瞬にして、野太い声の怒号に包まれる。

だがしかし、ダイスケは慌てず、両手を下に向けた。

すると、ダイスケの右手から、手のひらサイズのナイフが生成され、落ちる。ナイフは一秒に一本のペースで虚空から産み出され、どんどん下に落ちる。

右手だけではなく、左手からも物体が無尽蔵に生成される。こちらからは、真っ赤なリンゴが出てくる。

それを見た荒くれ達は口をつぐむ。リンゴの落ちるボトボトという音と、ナイフの落ちるカラカラと言う音が響いた。


「手品では、無さそうだな」

「ストレンジャーの能力ってやつさ。これはどんなに腕っぷしが良い奴でもできない芸当だぜ」


口元を吊り上げて笑うダイスケ。ナイフとリンゴの生成を止め、金に染めた髪をかきあげ、リンゴを拾ってかじりつく。


「そんで、この娘の能力が…」


リンゴを持ってないほうの手でナイフを拾い、その刃先で隣を指す。

そこにいたはずのマナカは、棘だらけの甲羅に覆われた、人の形をした何かに姿を変えていた。

マナカの変身した姿なのだが、面影は全く見当たらない。


「ほいっ」


一口かじったリンゴをマナカへと放るダイスケ。それを片手で受け取ったマナカの変身態は、受け取ったその直後に握り潰した。

炸裂する果汁。溢れ落ちる破片。


「ほう」


後ろで戦慄く荒くれ共に視線もくれず、ケインは感嘆した。

魔法、ではない。ストレンジャーのみに許される特殊能力。うまく使えば、戦況を左右することすら夢ではない。


「確かに、お前達は…」


そう呟くが早いか、ケインの体がその場から消えた。腰に差していた鞘から柄が消えて、ぎらりと銀光。

鎧が白銀の線を虚空に描く。瞬きのあとには、ケインはマナカとダイスケの間にいた。


「うぇっ…」


さわっ、と風が吹き上がり、ダイスケはケインの顔を間近にした。黒い髪に若く凛々しい顔、太い眉の下には赤い瞳。

ケインの手には、剣が握られていた。しかし、剣先は下を向いている。

これから振るうというよりは、もう振り終わったといった風情だ。


「…そんじょそこらの連中とは違うな」

「これでわかってくれたよね」

「ああ。無礼を詫びる。すまなかった」


ケインが鞘に剣を納める。

その段になって、ダイスケはケインが何をしたかを理解した。斬りかかったのだ、マナカに向かって。そしてそれを、マナカは回避した。

マナカの変身態が張りぼてかどうか、リンゴを潰しただけでは判断できなかったのだろう。

そのマナカも、ケインが謝った段階で元の姿に戻っていた。


「向こうの突き当たりを降りれば、裏口がある。そこで他の候補者と共に待っていてくれ」


騎士ケインが背後を指差した。

そして、二人のストレンジャーを見てこう告げる。


「君達は勇者だ。共に戦おう、ストレンジャー」


護国の意思にみなぎるその顔に、マナカもダイスケも、真剣な面差しで返さざるを得なかった。

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