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ダイスケ パスゲート帝国

陽光が世界を照らす。

木の葉に遮られた光は、幾何学的な模様を大地に刻んでいる。

森を抜ければ、大きな壁に囲まれた、これまた大きな街が見えた。


「あれが目的地です。帝都の城下町、メアロニカです」


建物や橋や川がある中に、屹立する巨大なお城。青紫に塗り上げられた外壁は、帝都の中で最も目立っている。

そして、この距離からでもわかるほど活気に溢れるあの場所は、おそらくこの世界ではそうないだろう。


「おっきい街ですねぇ~」

「うわー」


都会に慣れているストレンジャー二人も、思わず感服した。

中世ヨーロッパのようなこの世界にて、あんなに大きな街があるとは思わなかった。


「それじゃあ、あとは真っ直ぐ行ってあの帝都に着けば…」

「えぇ、依頼は完了です。早速行きましょう」


隊商のリーダー、小太りの男はにこやかに笑う。

旅の無事が嬉しいようだ。それはダイスケとマナカ、二人のストレンジャーがいたからこそ、だ。

三本角の牛が引く荷車に揺られ、一同は帝都への道を進み始めた。






帝都を守る壁門はあっさり開き、隊商を中に招き入れた。

ここまでで良いという彼らからずっしりと重い麻袋を受けとると、ダイスケとマナカは帝都の中へ繰り出した。


「結構もらったなぁ」

「うん」

「遊びに出たはいいけど、どこに行こうか」

「うん」


ダイスケとマナカの二人は、ぶらぶらと街を歩き始める。

とりあえずの目標は達成したが、帰る場所を持たない今の彼らは、自由を持て余していた。

向こうの世界ではいくらでも暇潰しの手段がある。だが、あちらの世界と比べ科学や文明が未熟なこちらでは、そうもいかない。


「金もらったし、マナカちゃんの服買おうか」


レンガや石の建物を物珍しそうに見回しつつ、ダイスケは呟いた。

それを聞き、マナカは露骨に嫌そうな顔をする。

金具の付いた黒いジャケットにジーンズ。今のマナカのファッションは、向こうの世界ならいざ知らず、こちらの世界ではまず手に入らない。

無論、そんな服を洗濯する方法もないので、近いうち捨てることになる。

ダイスケは、マナカにはこちらの世界の文化に慣れる意味も込め、今のうちに服を新調させようとしていた。


「いいよそんな。私これ気に入ってるし」

「あぁちょうど良い、あそこに服屋がある。すいませーん!」

「ちょ、ちょっと…」


ずかずかと歩いていくダイスケに引っ張られ、マナカはレンガ造りの洋服店に引きずり込まれた。






ボタン止めの上着に、スリットの入ったミニスカート。


「無理」


肩にかけるローブと、半袖の青いワンピース。


「ダッサ」


黒いロングスカートと、フリルの付いた白い上着。


「何コレ」


飾りだらけな緑色のドレス。


「意味わかんない」

「いやいやいや、意味わかんないはこっちの台詞なんだけども!」


思わず心中を声に出してしまうダイスケ。この店は彼の想像以上に豊富な品揃えを持っていたが、マナカの気に入るものはなかった。

店員の女性が苦笑いする。


「ならどんなのがいいの?」

「今着てるようなの」


そう言われ、ダイスケはマナカを頭から爪先まで見回した。


「ジーンズは中世ヨーロッパにはないし、その素材のジャケットもないし、金具だらけの服なんか売ってるわけない、と思う!」

「えぇ、残念ながら…」


ダイスケの予想を店員が肯定する。さすがはプロ、被服文化に関しては一家言ある。

だから諦めろとダイスケが続けようとしたところで、マナカは店員に歩み寄って言い放った。


「オーダーメードってできる?」

「えっ…か、可能でございますが…」

「じゃ、今私が着てる服に限りなく似せたやつ作って」

「えっ、えっ?」

「お代はコレで足りる?」


マナカは手に持った金貨袋をそのまま渡した。

店員とダイスケが、別々の理由で目を丸くする。服屋の店員の方は、混乱で目を白黒させている。


「それじゃ、お願い」


そう言って、マナカは店を出た。

ぽけーっと突っ立ってそれを見送る二人。ダイスケはハッとして、少女の背中を追いかけた。


「ちょ、ちょ、ちょっと待ちなさいって」

「何?こっちで買うなら問題ないんでしょ」

「まあ、そりゃそうだけども…」


冷や汗をかくダイスケ。彼は今、猛烈に遺憾の意を胸に抱いている。

なにか、こう、釈然としない気持ちだ。なにか一言、言ってやりたい。


「そもそも、あれって全額だろ。さっきの報酬の。これからどうするつもりなんだ」

「ん」


マナカが指差す方を見る。白くて細い指が向く場所に、鎧ずくめの男が立っていた。

橋の近くで、看板を持って、何やら叫んでいる。

近付くと、その内容が聞こえてきた。


「魔王軍の接近にともない、傭兵を募集する!報酬の金貨と、食事や寝床付きである!目覚ましい活躍をした者には相応の地位も用意される!パスゲートを救う勇者よ、今こそ立ち上がれ!」


ダイスケが振り向いたときには、マナカは既に、肩で風を切るような速さで、鎧ずくめの男へと歩いていく。

間違いない、傭兵をやるつもりだ。大きなため息をつき、ダイスケはそれを追いかけた。

石畳の上を、二人のストレンジャーが歩き去っていった。

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