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異世界温泉宿経営♨️ 〜「戦闘スキルをください!とお願いした女神がくれたのは、まさかの“銭湯スキル”でした〜  作者: 回胴めぐり


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【第89話】目覚めた白銀の少女ユーノ


それから――。


数日が経過した。


『大地の湯宿』の一室。


そこには、ベッドに横たわる白銀の髪の少女の姿があった。


「……今日も、目を覚まさないか」


大地は少女の顔を覗き込みながら、小さく息を吐いた。


ダンジョンから救出して以来、少女は一度も目を覚ましていない。


呼吸に異常はなく、体温も安定している。


食事を口にすることもないが、生命力が失われている様子もなかった。


それでも――。


いつ目を覚ますのか、まったく分からない。


「……何か、できることがあればいいんだけどな」


大地はそっと少女の額に手を当てる。


もちろん、返事はない。


「ダイチさん……」


隣に立つエレナが、心配そうに少女を見つめた。


「この子は、いったいどれほどの時間をあの装置に囚われていたのでしょうか……」


「分からない。数年なのか、それとも数十年なのか……」


大地は首を横に振る。


「そもそも、あの装置がいつ作られたのかすら分かっていないからな」


「……そうですね」


エレナは少女の白銀の髪を見つめた。


自分とよく似た色。


そして、顔立ちまでもがどこか似通っている。


彼女が何者なのか。


なぜ、あの場所に囚われていたのか。


知りたいことは山ほどある。


けれど――。


本人が目を覚まさない以上、何も分からなかった。


「……早く、目を覚ましてくれるといいな」


大地の言葉に、エレナも静かに頷いた。


「はい……」


◇ ◇ ◇


一方、その頃。


『大地の湯宿』の営業は、順調に続いていた。


「いらっしゃいませ! ようこそ、大地の湯宿へ!」


受付では、ミーナたちが明るい声で客を迎えている。


食堂ではリゼとリリィが料理を提供し、フォルナも客室の準備や清掃に精を出していた。


ミレッタは温泉設備や魔道具の点検を行い、セリーナは商会との連携を取りながら、旅館の運営を支えている。


そして――。


「いやぁ、噂には聞いていたが、まさかこれほどとはな!」


温泉から上がった商人風の男が、満足そうに声を上げた。


「身体の疲れがすっかり取れたぞ! しかも、このシャンプーというものは素晴らしい!」


「お気に召していただけたようで何よりです」


セリーナが微笑む。


「こちらの商品は、当商会でも取り扱いを進めております。よろしければ、お帰りの際にお買い求めください」


「もちろんだ! 家族への土産にも買っていこう!」


そんなやり取りも、今では珍しくなくなっていた。


クレーベルの街から訪れる客だけではない。


アルディア王国やハイデンベルク皇国、さらには遠方の国からも、資産家や商人、冒険者、観光客たちが訪れるようになっていた。


温泉に癒やされ、食事を楽しみ、旅館で過ごす時間を満喫する。


そして、満足した表情で帰っていく。


『大地の湯宿』は、少しずつではあるが、各地で評判を広げ始めていた。


もちろん、すべてが順調というわけではない。


客が増えれば、その分だけ仕事も増える。


それでも――。


「ダイチが帰ってきた時、驚かせてやるんだ!」


ミレッタは、そんなことを口にしながら忙しそうに働いていた。


「ふふっ。きっと喜んでくださいますよ」


セリーナも笑顔で頷く。


旅館は、大地たちが戻ってきた後も、仲間たちの手によってしっかりと支えられていた。


◇ ◇ ◇


その一方で――。


鉱山のダンジョンでは、連日のように調査が続いていた。


「右の通路は問題なし! 魔物の反応も通常の範囲内だ!」


「こっちも異常ありません!」


冒険者たちが周囲を警戒しながら、ダンジョンの奥へと進んでいく。


先頭に立つのは、ギルドマスターのバルガス。


その後方では、リディアが調査記録をまとめていた。


「……装置が破壊されてから、魔物の異常発生は確認されていません」


リディアが記録を確認しながら言う。


「各階層の魔物の数も落ち着いています。以前のような異常な増殖は見られません」


「そうか」


バルガスが頷いた。


「だが、油断はするな。あの装置がなくなったからといって、ダンジョンそのものが安全になったわけじゃない」


「もちろんです」


今回の異常発生は、白銀の少女を核とした装置が原因だった。


しかし、ダンジョンには本来、魔物が生息している。


危険な罠もあれば、未知の魔物が潜んでいる可能性もある。


だからこそ、彼らは連日調査を繰り返していた。


冒険者たちも、最初こそ恐怖を抱いていたものの、日を追うごとに落ち着きを取り戻している。


「しかし、あの兄貴がいないと、どうにも心細いっすね」


男の冒険者が、ぽつりと呟いた。


「だから兄貴じゃないと言っているだろうが!」


その場にいない大地に代わって、バルガスが突っ込む。


「いや、だって……」


「だっても何もあるか!」


周囲から笑い声が上がる。


厳しい調査の中にも、少しずつ余裕が戻ってきていた。


そして――。


救出から十日目。


ついに、リディアが調査結果をまとめ上げた。


◇ ◇ ◇


「……よし。これで十分だろう」


ダンジョンの入口付近。


調査記録を確認したバルガスが、大きく頷いた。


「魔物の異常発生は完全に収束したと見ていい。残る危険性も、通常のダンジョンの範囲内だ」


「はい。これだけの期間、継続して調査を行いました。異常な魔力反応も確認されていません」


リディアも同意する。


「今回のダンジョンについては、Sランク相当の危険度として正式に報告できると思います」


「Sランクか……」


バルガスが、鉱山の奥へと続く道を振り返った。


「まさか、あんなものが隠されていたとはな」


「原因が分かったとはいえ、装置の製作者も、あの少女の正体も不明なままです」


「それについては、今後も調べていくしかないだろう」


バルガスは大きく息を吐いた。


「ひとまず、今回の調査はこれで一区切りだ」


「そうですね」


リディアは記録を閉じる。


「この結果をギルド本部へ送り、各国にも通達します。Sランクダンジョンとして正式に情報が共有されれば、各地から冒険者が集まってくるはずです」


「間違いないな」


バルガスは苦笑した。


「しばらくは、ここの管理で忙しくなりそうだ」


「それは覚悟しておいてください」


「お前も手伝うんだぞ、リディア」


「当然です」


リディアはきっぱりと答えた。


「それに、私にはまだ調べなければならないことがありますから」


その脳裏に浮かんでいたのは――。


白銀の髪を持つ、あの少女だった。


古い文献。


過去のダンジョン調査記録。


そして、専門の学者たちへの聞き取り。


調べるべきことは山ほどある。


「……何か分かれば、すぐに連絡します」


「ああ。こっちも少女の様子に変化があれば知らせよう」


こうして、十日間にわたるダンジョンの調査は、ひとまずの区切りを迎えた。


あとはギルド本部への報告を済ませ、各国へ情報を共有するだけだ。


「さて……そろそろ街へ戻るか」


バルガスが冒険者たちに声をかける。


「おう!」


「いざ戻るとなると名残惜しいですね」


「こんな宿どこ探してもないからな」


再び笑い声が上がる。


一行は荷物をまとめ、クレーベルの街へ帰還する準備を始めた。


そして――。


その頃。


『大地の湯宿』では、思いもよらない変化が起きようとしていた。


◇ ◇ ◇


「……ん」


かすかな声が、静かな客室に響いた。


ベッドの上。


白銀の髪の少女の指先が、ぴくりと動く。


そして――。


「……ぁ……」


ゆっくりと、瞼が開いた。


白銀の瞳が、ぼんやりと天井を見つめる。


「……ここ……は……」


かすれた声。


けれど、それ以上の言葉は続かなかった。


少女はゆっくりと首を動かし、見慣れない部屋を見回す。


木製の家具。


柔らかな寝具。


窓から差し込む穏やかな光。


そのすべてが、彼女にとっては未知のものだった。


「……っ!」


やがて、少女は自分の身体を起こした。


そして、周囲を見回した瞬間――。


「……っ、あ……っ!」


怯えたように身体を縮める。


何かを思い出そうとしているのか。


それとも、ただ恐怖を感じているのか。


少女の瞳は大きく揺れ、呼吸が乱れていった。


「……いや……」


小さな声。


「……こわい……」


その声を聞きつけたフォルナが、慌てて部屋の外から声をかける。


「ど、どうされましたか?」


返事はない。


フォルナは少しだけ扉を開けた。


「失礼します……」


部屋の中を覗いた瞬間――。


「……あっ!」


ベッドの上で怯える少女と目が合った。


「目が覚めたんですね!」


フォルナは思わず声を上げる。


「旦那様に知らせてきます!」


そう言って部屋を出ようとした、その時だった。


「……っ!」


少女が悲鳴を上げた。


「いやっ! 来ないで……!」


「えっ……?」


フォルナが足を止める。


少女は布団を抱きしめ、部屋の隅へ逃げるように身を寄せていた。


「……ご、ごめんなさい!」


フォルナは慌てて後ずさる。


「怖がらせるつもりはなかったんです!」


しかし、少女は返事をしない。


ただ、震えながらフォルナを見つめている。


「……どうしよう……」


困り果てたフォルナは、そっと部屋を出た。


そして――。


「旦那様! エレナお姉様!」


廊下を駆けながら、大地たちを呼んだ。


◇ ◇ ◇


「目を覚ました!?」


大地は、フォルナの言葉を聞くなり立ち上がった。


「はい! ですが……」


フォルナは困ったように眉を下げる。


「私を見たら、ひどく怯えてしまって……」


「そうか……」


大地は一瞬だけ考え、エレナと顔を見合わせた。


「とにかく、様子を見に行こう」


「はい」


二人はすぐに客室へ向かった。


そして、扉を開ける。


「……こんにちは」


エレナが、できるだけ穏やかな声で呼びかけた。


「私たちは、あなたに危害を加えるつもりはありません」


少女は部屋の隅で身体を縮めていた。


大地とエレナの姿を見ると、一瞬だけ目を見開く。


けれど――。


フォルナを見た時のような、激しい怯え方はしなかった。


「……大丈夫か?」


大地は少女を刺激しないよう、ゆっくりと距離を縮めた。


「ここは旅館だ。君はダンジョンの中にいたんだよ」


「……」


返事はない。


「俺たちが君を助け出したんだ。覚えているか?」


少女は大地の顔を見つめている。


だが、その瞳には理解している様子も、思い出した様子もなかった。


エレナも、少女の前に膝をついた。


「ほら、あなたと同じ髪の色ですよ。お名前を教えていただけますか?」


「……」


「ご自分のお名前は、分かりますか?」


少女は俯いた。


何も答えない。


大地はエレナと目を合わせた。


「……記憶がないのか?」


「その可能性はありますね……」


エレナが小さく答える。


「ただ、何を尋ねても反応がありません。私たちの言葉が理解できていないというわけでもなさそうですが……」


「そうだな……」


大地は少女を見つめた。


彼女は、怯えている。


だが、それだけではない。


まるで、周囲で起きていることを理解することそのものを拒んでいるかのようだった。


「……無理に聞き出すのはやめよう」


大地はそっと距離を取った。


「今は、ここが安全な場所だと分かってもらうことが先だ」


「はい……」


エレナも頷く。


その時だった。


大地の視線が、少女の胸元に留まった。


「……ん?」


首から、細い鎖が下がっている。


その先には、小さな銀色のペンダントがあった。


装飾はほとんどなく、表面には古びた傷がいくつも刻まれている。


「それ……」


大地が指さす。


「君の持ち物か?」


少女は反応しなかった。


大地は、ペンダントに刻まれた文字を目で追った。


そこには、見慣れない古い意匠とともに、名前らしき文字が彫られていた。


「……ユーノ?」


その瞬間――。


少女の身体が、ぴくりと震えた。


「……っ」


白銀の瞳が、大地へ向けられる。


「ユーノ……」


エレナも、そっと名前を口にした。


すると――。


少女は、今度ははっきりと二人の顔を見た。


「……ゆ……の……」


かすれた声。


その唇が、確かに動いた。


「ユーノ……?」


大地が尋ねる。


少女は自分の胸元にあるペンダントを握りしめた。


それから――。


小さく頷いた。


「……そうか」


大地は静かに頷き返す。


「君は、ユーノという名前なんだな」


返事はない。


けれど、先ほどまでとは違う反応だった。


名前を呼ばれた時だけ、確かに何かを感じ取ったように見えた。


「……ユーノさん」


エレナが優しく呼びかける。


「私たちは、あなたの味方です。ここでは、誰もあなたを傷つけません」


ユーノは、エレナの顔をじっと見つめた。


そして――。


ほんのわずかに、身体の力を抜いた。


「……」


大地は、その様子を見て目を細める。


「……俺たちのことは、怖くないのか?」


ユーノは答えない。


ただ、大地とエレナの姿を交互に見つめていた。


フォルナが近づいた時には、あれほど怯えていたのに。


二人に対しては、警戒こそあれ、拒絶するような反応は見せていない。


「……不思議ですね」


エレナも戸惑ったように呟く。


「私たちのことを覚えているのでしょうか……?」


「分からない。でも……」


大地は、ユーノの目を見つめた。


「少なくとも、今すぐ俺たちから逃げたいわけじゃないみたいだ」


ユーノは、ペンダントを握りしめたまま、二人を見つめ続けていた。


しかし、それ以上のことは何も分からなかった。


◇ ◇ ◇


「……なるほどな」


食堂に集まった一同は、大地とエレナから話を聞いていた。


そこには、ミレッタ、セリーナ、リゼ、フォルナもいる。


「目は覚ましたが、名前以外はほとんど反応がない……ということか」


ミレッタが難しい顔をする。


「ああ。名前を呼んだ時だけ、少し反応があった」


「それに、私たち以外の人間をひどく怖がっています」


エレナが続けた。


「フォルナさんが声をかけただけでも、強く怯えてしまって……」


「……そう」


リゼが小さく呟く。


「怖い思いを、たくさんしたのかもしれない」


「そうね……」


セリーナも表情を曇らせた。


「長い間、あの装置に囚われていたのだもの。心に深い傷を負っていても不思議ではないわ」


「だが、なぜダイチとエレナだけは平気なんだ?」


ミレッタが首を傾げる。


「俺にも分からない」


大地は正直に答えた。


「ただ、無理に聞き出そうとしても逆効果だろうな」


「……そうですね」


エレナは俯いた。


彼女自身、ユーノについて聞きたいことは山ほどある。


あの装置のこと。


ダンジョンに囚われていた理由。


そして、自分とよく似た白銀の髪。


けれど――。


目の前の少女は、そんな疑問に答えられる状態ではなかった。


「まずは、安心して過ごせる場所を用意してあげましょう」


エレナが静かに言った。


「ここでゆっくり休んでもらって、少しずつ心を開いてくれるのを待ちたいです」


「……エレナ」


大地が顔を向ける。


エレナは、真剣な眼差しで大地を見つめた。


「ダイチさん」


「ん?」


「お願いがあります」


エレナは一度、ユーノのいる部屋の方へ視線を向けた。


「……あの子を、私たちで引き取れないでしょうか?」


「……」


「今のあの子を、知らない場所へ連れていくのは危険だと思います」


エレナの声には、強い想いがこもっていた。


「誰も知らない場所で、また一人きりになってしまったら……」


そこで、言葉が途切れる。


「……私には、放っておくことができません」


大地は、しばらくエレナを見つめていた。


そして――。


「もちろんだ」


エレナの頭を優しく撫でて、迷いのない返事を返す。


「最初から、そのつもりだったよ」


「……ダイチさん」


「この旅館は、困っている人が安心して過ごせる場所でありたいからな」


大地は微笑む。


「それに、あの子を助けたのは俺たちだ。事情が分からないからって、放り出すわけにはいかないだろ」


エレナの表情が、ふっと和らいだ。


「……ありがとうございます」


「礼を言うのはまだ早いって」


大地は苦笑する。


「これから、みんなで考えていこう」


すると――。


「もちろん、あたしも賛成だ!」


ミレッタが勢いよく手を挙げた。


「こんな小さな子を放っておけるわけないだろ!」


「そうね。私も異論はないですわ」


セリーナも頷く。


「必要なものがあれば、商会を通じて用意することもできますわ」


「……私も」


リゼが小さく手を挙げた。


「食事なら、私が用意する。食べられるようになったら、好きなものを作ってあげたい」


「わ、私もお世話します!」


フォルナも慌てて声を上げる。


「今度は怖がらせないように、ゆっくり仲良くなります!」


「フォルナさん……ありがとうございます」


エレナが微笑む。


こうして――。


ユーノは、『大地の湯宿』で暮らすことになった。


すぐに元気になるとは限らない。


心を開いてくれるまで、どれほどの時間がかかるのかも分からない。


それでも。


ここには、彼女を気にかけてくれる人たちがいる。


そして、彼女が怯えずにいられる相手もいる。


それだけでも、今は十分だった。


◇ ◇ ◇


「……それじゃあ、俺たちはそろそろ街へ戻るとするか」


旅館の門の前。


バルガスが大地に向かって言った。


隣にはリディアと、調査を終えた冒険者たちが並んでいる。


「ダンジョンの調査結果は、ギルド本部へ報告しておく」


「各国への通達も進めます」


リディアが続けた。


「Sランクダンジョンとして情報が共有されれば、これからダンジョン攻略を目的とする冒険者の数も増えるはずです。しばらくは周辺の警備や管理も必要になるでしょう」


「分かった。こっちでも気をつけておくよ」


大地が頷く。


「それと……」


リディアは、少しだけ表情を和らげた。


「ユーノさんの様子に変化があったら、教えてください」


「もちろんだ」


「こちらでも、文献の調査を続けます。何か分かれば、すぐに連絡します」


「頼むよ」


大地が手を差し出す。


バルガスは、その手を力強く握り返した。


「今回の件、本当に助かった。お前たちには感謝している」


「気にしなくていい。うちの宿も使ってくれたし、大事なお客様だ」


「ははっ! そう言ってもらえるなら、苦労した甲斐があったってもんだ!」


バルガスは豪快に笑う。


その後ろでは――。


「兄貴! また会いましょう!」


「だから兄貴じゃないって!」


「いや、もう兄貴でいいじゃないですか!」


「よくない!」


「お姉様!私たちも魔法の練習精進します!」


「皆さんなら大丈夫です。応援してます。」


「リゼ…またいずれ」


「エルザも必ず生きて」


いつものやり取りに、冒険者たちの笑い声が響いた。


「それでは、失礼します」


リディアが頭を下げる。


「ああ。またな」


大地たちは、彼らを見送った。


バルガスたちと冒険者一行は、クレーベルの街へと帰っていく。


やがて、その姿が街道の向こうへ消えていった。


「……行ったな」


大地が呟く。


「はい」


エレナが頷いた。


そして――。


二人は、旅館の奥へと視線を向ける。


そこには、まだ多くの謎を抱えた少女がいる。


ユーノ。


白銀の髪を持ち、名前以外のほとんどを語らない少女。


彼女が何者なのか。


なぜ、あのダンジョンに囚われていたのか。


そして――。


エレナとよく似た容姿には、どんな意味があるのか。


今は、何も分からない。


それでも、大地は思った。


「……まあ、焦っても仕方ないか」


「そうですね」


エレナが微笑む。


「まずは、あの子が安心して暮らせるようにしてあげましょう」


「ああ」


大地は頷いた。


『大地の湯宿』には、今日から新しい住人が加わる。


その出会いが何を意味するのか――。


まだ、誰も知らない。


ただ一つ確かなのは。


白銀の少女ユーノが目を覚ましたことで、止まっていた物語が、再び動き始めたということだった。

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